ところが。
「・・ちょっと強すぎるよ。 ヴァイオリンの音が死んでしまう。」
初練習の時
絵梨沙はいきなり斯波からダメ出しをされた。
「あ・・ハイ。」
最初は彼の言うことを黙って聞いていた。
しかし
「・・だからさあ・・・。 暗譜してきたってだけで。 合わせようとしてないじゃん、」
斯波は絵梨沙だけに厳しい言葉を投げかける。
ミナよりも世間での認知度も実力も上のはずなのに
彼はそんなことも全く考えていないように絵梨沙に次々と厳しく注意をした。
「いったい。 どうすればいいんですか??」
絵梨沙はだんだんとイライラしてきて斯波に言ってしまった。
すると
「どうすればいいか言わないとわかんないの?」
初めてと言っていいほど斯波は絵梨沙の目を見てそう言った。
もう
まるで子供に先生が注意をするような言葉で諌められたことが
絵梨沙には恥ずかしくてたまらなかった。
ミナの前でも何の遠慮もなくそこまで言う斯波に
心底腹立たしかった。
絵梨沙は練習から帰るその足で事業部へ寄った。
「は? 斯波を??」
志藤は珍しく興奮してやってきた絵梨沙に驚いた。
「・・志藤さんが担当していただくわけにいかないんでしょうか。 もう・・あたしあの人についていけません、」
泣いてしまいそうなほど絵梨沙は憤慨していた。
「う~~~ん。 困ったな~~。 あいつもストレートに何でも言うタイプやから。」
「ダメばっかりでそれ以上は何も言わないし。 挙句の果てには『言わないとわかんないの?』なんて言われて・・・。」
「エリちゃんのがキャリアがあるから。 桜庭は有望なヴァイオリニストやけど、まだ駆け出しやし。 エリちゃんにあわせていってもらいたいって気持ちやないのかな、」
志藤は何とか彼女の機嫌を直してもらおうと優しく言った。
「いっつも目も合わさないで、ボソボソ言うだけで。 ・・ほんとうに失礼です、」
絵梨沙は鼻をすすった。
「ごめんなあ。 おれも今度の定期公演のことで手一杯で。 斯波にももう少し空気読んでやるように言っとくから、」
志藤はそれしか言えなかった。
自分が仕事をしたいと言い出したんだから
絵梨沙は志藤に何とかしてもらおうと思った自分を少し恥じた。
今まで事業部に迷惑を掛けたことを少しでも詫びたくて
何でもすると言ったのは自分だ。
絵梨沙はそう思い、何とか斯波ともうまくやろうと思いなおした。
「え、竜生が?」
家に帰った絵梨沙はうろたえる義母から竜生が熱があると聞かされた。
「さっきからぐずって泣き止まないから熱を計ってみたの。 そうしたら38℃もあって。 おなかもこわしているみたいで・・・」
絵梨沙は慌ててベビーベッドの竜生の様子を見に行った。
まだぐずる竜生の額に手を充てた
「ほんとだ・・」
確かに熱があるようで顔も真っ赤だった。
遠慮なしのダメ出しをする斯波にナイーブな絵梨沙は傷つきます。そして竜生が・・
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