すぐに北都のかかりつけの大学病院に連れて行き、時間外診療をしてもらった。
「突発性発疹のようですね、」
医師は診察を終えて言った。
「突発性・・・?」
聴きなれぬ病名に絵梨沙は首をかしげた。
「1歳前後のお子さんがかかることが多いんですけど。 お子さんにもよりますから。 お母さんのおなかにいるときに受け継いだ免疫が切れたというサインでもあります。 そうですね、2~3日で熱は下がるでしょう。 胸に発疹も出てますけど、気にしないで。 おなかをこわしているようなので脱水にならないように水分を採らせるようにしてください。」
ほっとしたものの
熱のある竜生は一晩中ぐずってたいへんだった。
少しずつではあるが仕事をするようになって、お手伝いさんや義母に竜生の面倒を頼むようになり
何だかすごく申し訳ない気持ちになった。
「・・ごめんね、」
絵梨沙は竜生をそっと抱きしめた。
「・・すみません、」
翌日も練習だったので、休むわけにもいかず絵梨沙はまだ機嫌の悪い竜生を義母に託さなくてはならないことを申し訳なく思った。
「大丈夫よ。 何かあったら病院に連れて行くから。」
義母の腕の中でまだ泣いている竜生に後ろ髪を引かれるように出かけて行った。
熱を出すなんて初めてのことで。
絵梨沙は心配で心配で
正直練習にも身が入らなかった。
ゆうべはほとんど寝ていないこともあって、ピアノは全く精彩を欠いた。
「・・なんなんだよ・・・昨日よりダメになってるじゃんか、」
斯波の耳はごまかせず、さらにキツい言葉を言われた。
「・・すみません・・」
うつむく絵梨沙に
「あのさ。 主婦のアルバイトじゃないんだから。」
斯波は少し苛立ったように楽譜を丸めて大きな音を立てて自分の手に打ちつけた。
「え・・・」
その言葉に絵梨沙は顔を上げた。
「・・もう今日は練習にならないから。 桜庭さんは帰って。 」
そして勝手に時間前だったのにミナを帰してしまった。
練習室で二人きりになり、シンとしてしまったが
「・・・あんたがしてるのは。 主婦のパートみたいなもんだ、」
斯波はまた同じ言葉で絵梨沙を責めた。
「ぱ、パートだなんて、」
絵梨沙は思わず声を荒げた。
「片手間だろ。 専業主婦になってヒマになって。 ちょっと仕事でもしてみようかって・・・そんな感じだし、」
わなわなと震えてしまった。
「あんたは。 一流ピアニストとしてやっていくことに挫折したんだろ。 仕事ほっぽり出して、逃げ出して。 まあ、それはそのころはここにいたわけじゃないからわかんないけど。 仕事キャンセルするってどんだけの損害だしてると思ってんの? 看板ピアニストの北都マサヒロの嫁で、北都社長の家族であることで、どんだけ恵まれた環境にいるかもわかってんの? 志藤さんはあんたには優しいからなんも言わないかもしれないけど、おれはそういうのは我慢できない!」
あの鋭い瞳で怖いほどの視線を向けられた。
絵梨沙は両方の目からポロポロと涙をこぼした。
「・・・わ、わかってます! そんなこと!! 志藤さんや会社にどれだけご迷惑をかけたかなんて!! こんなあたしのクビも切らないで、待っていて下さっていたことも・・・ありがたすぎることだとも思っています。 だから・・どんなことでも一生懸命頑張りたいって・・・」
彼女の言葉にかぶせるように
「じゃあ! もっとちゃんとやったらどうなんだ!? あんたは自分でピアニストという地位をほっぽり出したくせに、人に合わせるとかヴァイオリンを生かすために黒子に徹するとか、そんなこと全く考えてないだろうが!この世界、あんたが休んでいる間にだってものすごい速さで変わってんだ! もう『一流ピアニスト・沢藤絵梨沙』の名前だけで通用しねえんだ!!!」
いつもボソボソと話すだけの斯波が大きな声で恫喝した。
絵梨沙はビクっとして顔を上げた。
さらに斯波は絵梨沙に厳しい言葉を投げかけます。
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