「え、ヴァイオリンとの二重奏?」
絵梨沙は目を丸くした。
「そう。 ウチのオケの期待の星の桜庭ミナと。 彼女はまだ音大生なんやけど、コンクールでもバンバン優勝するような子やから。 来年からパリに留学が決まってるんやけど、その前にユニットでコンサートやろかって話になって。」
志藤がざっと説明した。
「で、エリちゃんと組んでやったらどうかなあって。」
絵梨沙は企画書をジッと見ていた。
「あたしにできるでしょうか、」
またも自信なさげな彼女に
「もちろん。 コレに向けて練習はきちんとしてもらうけど。 コンサートは3月。 ちょっとホールの都合でもう時間もないんやけど。 渋谷で3日間。 エリちゃんなら実力も人気も申し分ないし。」
志藤は励ますように言った。
「あたしはあまり室内楽の経験もなくて、」
「そのためにこれから練習をします。 ・・・あなただってプロとしてやっていた時期があったんだから。 できないということはないでしょう、」
斯波はいつものように書類に目を落としながら少し冷たく言った。
「・・はあ、」
なんだかいちいちドキドキする。
「おれがこの仕事の担当になります。 志藤さんはオケのほうのコンサートのことで忙しいので。 よろしく、」
タバコを灰皿に押し付けて斯波は早々に会議室を出て行った。
なんか
苦手だなあ・・・
絵梨沙はため息をついた。
さっそく室内楽の練習に入った。
「よろしくお願いします。」
ミナはぺこんとお辞儀をした。
まだ19歳の彼女は本当に年よりも幼く見えて、中学生でも通るようにも思えた。
「こちらこそ。 よろしくお願いします。」
絵梨沙はニッコリ笑ってお辞儀をした。
「感激です~。 あたし、ずっと前に沢藤さんのコンサートに行かせていただいたことがあったんです。 ほんとキレイな人で感動しちゃって、」
ピアニストとして頑張っていた時のことを言われると
挫折してしまったことが恥ずかしく思えて
本当はあまり好きではない。
「・・ありがとう。」
静かに微笑んだ。
女性二人のユニットにぴったりの華やかな楽曲が用意された。
「ビゼーのカルメン・・・。」
「やったこと、ある?」
斯波は絵梨沙に言った。
「いえ・・。 オペラを見に行ったことはありますけど、」
「桜庭さんは以前コンサートでやったって聞いてるから。 沢藤さんは他の楽曲もきちんと仕上げてきて。」
いつものようにボソボソと顔も見ないで言われた。
なんか
目も合わせてくれないなんて。
絵梨沙は彼に対する不満が少しずつ出てきた。
斯波に言われたとおり、絵梨沙は竜生を義母に預けてきちんと練習をしてきた。
コンサートからは離れているものの、少し弾いただけで感覚はすぐに戻った。
NYを飛び出して以来
チケットを買ってもらって弾くピアノは初めてで
少し緊張していたけれど。
絵梨沙に久しぶりのピアノの仕事が入りますが・・・
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