「は? 新しい社員?」
真尋はガツガツとゴハンを食べながら言った。
「そうなの・・・。 なんか圧倒されちゃった。 背が高くて・・・すんごい強面で。 ヒゲなんかも生えてて・・・。」
絵梨沙は味噌汁をよそって持って来ながら斯波のことを話した。
「へーーー。そんなんが来たんだあ、」
「怖い雰囲気の人だった・・・。 一緒に仕事なんかだいじょぶかな、」
絵梨沙は座ってふうっとため息をついた。
そして、ガツガツとゴハンを食べている彼を見ているうちに
初めて真尋に音楽院で出会った時のことを思い出した。
そう言えば。
彼もすごーく怖かったなあ・・・
そう思ったらおかしくてクスっと笑ってしまった。
「あ? なに?」
「ううん。 でね、その人。 ぜんっぜん視線を合わせてくれないの。 それもまた怖いっていうか、」
「なんかもうめんどくせえなあ・・・。」
真尋らしい一言を言った後、またガーっとごはんを食べ始めた。
そしてその翌日。
スタジオで作曲活動をしている真尋とのころに志藤が斯波を連れてやってきた。
「あー。 絵梨沙から聞いてる。 すげえ怖い男だって~~~、」
真尋はそのまんまをいきなり本人の目の前で言った。
斯波は顔色を変えずに一歩前に出て
「斯波です。 今後はきみのCD制作の担当にもなるので。 よろしく、」
と言った。
「え~~~? この人があ??? 志藤さんとかタマちゃんじゃないの?」
ウソのつけない彼はまたも思いっきり嫌そうに言った。
「わがまま言うな。 斯波はおれよりもプロやで。 とりあえず来月いっぱいまでは作曲に専念してもらって。 今後はムーンリバーと斯波と話し合って企画つめてって。」
志藤がそう言ったが、まるで無視をするようにいきなりピアノを弾きだした。
ベートーヴェンの『告別』だった。
斯波は腕組みをしてジッとそれを聴いていた。
スタジオを出た後、斯波は
「・・ピアノがずいぶん変わりましたね、」
と志藤に言った。
「え、」
「以前から北都マサヒロの公演にも行ったりしていましたが。 あんなに『巧い』とは思わなかった、」
素直すぎる感想に志藤は少し吹き出した。
「なんや、それ。」
「おれは『アルデンベルグ』の公演は見ていませんが。 世界中で絶賛されてましたよね。 ちょっとわからなかった。 おれが知っている北都マサヒロはテクニックに秀でているピアニストじゃなかったから・・・。 表現力はずば抜けていたけど・・・・・」
「確かに。 以前の真尋とは・・ピアノが変わったかもしれない。 あの公演があいつにとってピアニスト人生のターニングポイントには間違いないから。」
斯波はまた黙って何かを考えているようだった。
真尋一家はその後、つかの間の休暇で父親の伊豆の別荘に1週間ほど親子で滞在した。
竜生はあやすとよく笑うようになり、スクスクと育っていく子供を二人で見守るという
普通の家庭なら当たり前の幸せを絵梨沙はしみじみと感じていた。
ところが。
東京に戻ってから、絵梨沙に新しい仕事が入ってきた。
絵梨沙は小さな幸せを感じて、充実した日を送っていましたが・・・
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