「あいつには。 よけいなことは言うな、」
シェーンベルグはうつむいて小さな声でそう言った。
「真尋は・・何も知りません。 でも、あんなに激しいレッスンをして。 先生が治療で具合が悪いことはわかっていたので、もう・・いつも心配で、」
絵梨沙は少し彼を責めるかのように言ってしまった。
「・・・こうして。 ここに来られるのもあとどのくらいか、」
ポーンと指一つで鍵盤を叩いた。
「え・・・」
「時間が、ない。 少しでも多くあいつに教えたい、」
「先生、」
心配そうな絵梨沙にフッと笑って
「安心せえ。 あいつが本番の舞台に立つまでは・・・死なない。」
悲しい約束をした。
激しいレッスンが続く。
1ヶ月の抗がん剤治療を終えたシェーンベルグは、真尋に毎日スタジオに来るように言った。
絵梨沙はもうそこに行くことは遠慮して、真尋が夜遅くに帰るまでひたすら待った。
「おかえりなさい、」
帰ってくる頃は、もうぐったりして話もしない。
「何か、食べれるの?」
声をかけても、そのままスーッと寝室に入ってベッドに横になってしまう。
その時間と共に、絵梨沙のおなかは日に日に大きくなり
胎動もひんぱんに感じるようになってきた。
しかし真尋はそのことをも忘れているのではないか、と思うほどピアノばかりの毎日だった。
「・・おはよ・・」
ドロドロに疲れきって眠った翌朝、真尋を起こさずにいると10時まで寝ていた。
この日は何も仕事がなく休みだったので、絵梨沙は彼をゆっくりと寝かせてやった。
「・・おはよう、」
絵梨沙は掃除をしながら笑顔で言った。
「あ~~~、すげえ寝た・・・」
「ごはんにする?」
と笑顔で問いかける絵梨沙をまじまじと見た真尋は
「・・・あれ?」
と言った。
「え?」
「・・・なんかすげーおなか大きくなってねえ?」
やおら彼女に近づいておなかに触れた。
「・・そお? でも、もう6ヶ月を過ぎたから・・・。」
「こんなにおなか大きかったっけ?」
「真尋が気づいてなかっただけよ。 もう動いたりするし、」
絵梨沙は呆れて笑った。
「え! そーなの!? そっかあ・・9月には生まれんだもんな・・・。 あ~~~、時間が過ぎるのが早い、」
久しぶりにのんびりとした朝だったが
「・・メシ食ったらスタジオ行ってくる、」
「え。 朝から?」
「うん・・・・」
真尋も必死だった。
赤ちゃんも順調に育っているようですが、真尋はそんなことも忘れたかのようにピアノに打ち込みます。
↑↑↑↑↑↑
読んで頂いてありがとうございました。
ポチっ! お願いします!
人気ブログランキングへ
携帯の方はコチラからお願いします