自分のために彼がピアノを犠牲にするようなことは絶対にして欲しくなかった。
ピアノ以外の仕事でもあれば自分は何でもするつもりだった。
真尋はふっと笑って
「それじゃあ。 絵梨沙がここに来た意味ないじゃん。 おれのために仕事するようなことになったらさ、」
と言った。
「ううん。 あたしがそうしたいの。 真尋とふたり、贅沢しなくても暮らしていきたいから、」
絵梨沙は本当に本当に幸せそうに微笑んだ。
「絵梨沙、」
彼女の肩を抱いて優しく引き寄せた。
「おれ。 頑張るからな。 絶対に優勝して、仕事バンバンくるように頑張るから、」
初めて、ピアノに欲が出た。
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寝室にたくさん飾られている写真をひとつひとつ眺めた。
子供たちが生まれて、家族が増えて。
海外の仕事が多い彼のことを小さかった子供たちが忘れずにいるようにとたくさんの写真を飾った。
私たちがウイーンで過ごした時の写真も。
それを手にしてふっと微笑む。
一番あたしたちがあたしたちでいられた場所と時間。
写真を眺めていると真尋がお風呂から上がって頭を拭きながら出てきた。
「なにたそがれてんの??」
無神経な問いかけに思わず笑ってしまった。
「見て。 ウイーンで一緒に暮らしてた頃の写真、」
と見せると
「あ~、国立公園で撮ったヤツね。」
一応覚えていたようだった。
「やっぱり。 年取ったかな~~って。」
私はその頃の自分を見て、思わず自分の頬に手を充てた。
真尋はカラカラと笑って
「絵梨沙は。 ほんっと変わってないって。 今だってすんごくいい女だし、」
ベッドの端に腰掛けてそう言った。
「え~? でも。 もうおばさんだし、」
「そんなことないって。」
と、軽く言ってタバコに火をつける。
「・・・こんなに離れてると・・心配。」
私は小さなため息をついて彼の隣に座った。
「ハア?何が?」
「浮気。 してんじゃないかって、」
私はジロっと彼を睨んだ。
「ハア? 浮気?? 何言っちゃってんの??」
「ほんと。 信用できないんだから。」
私が拗ねると
「あのね。 おれは、もう一生浮気はしません!って『あの時』誓っただろ? 絵梨沙を泣かせることはしないって。」
彼はやっぱり軽くそう言った。
「あたしのが慣れちゃったから泣いたりしなくなったのかも、」
少しイジワルを言うと、
彼は私をぎゅっと抱きしめた。
「もー・・・絵梨沙は最高だって! 何があってもおれは絵梨沙を絶対に離さないから、」
強引にキスもして。
全然あの頃と変わってない・・・。
つらい時間でもあったあの時ですが、絵梨沙は幸せでした。そして今もその時のことを思い出します。
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