「ねえ、真尋。 通るかな、」
南は志藤に心配そうに聞いた。
志藤は片手で頬杖をつきながら
「・・まあ。 イケると思う・・・。 あのデキなら、」
舞台上を見据えながら言った。
「そっかあ・・・。 でも、ほんとスゴイ迫力やったな~~。 あたしは素人やけど、ほんまに心打たれたっていうか、」
南はうっとりするように胸に手を充てた。
決勝のコンチェルトに進めるのは、20人中5人のみ。
全員の演奏を聞いた時点で、志藤の感覚では真尋はトップ通過と言ってもいいんじゃないか、というデキだった。
「ねえ、優勝したら・・シェーンベルグ先生の弟子にしてくれるって話なんでしょ? いけるんちゃうかな、」
南はそう言ったが
「・・そやな・・。 可能性はあるけど、」
志藤は心配があった。
真尋の実力はこれまでいかんなく発揮されている。
今まで自分が知っていた真尋とは違うそのスゴさで、こんな大きなコンクールは初めてなのに全く臆することなくむしろ横綱相撲のような風格もあった。
しかし。
この世界の『暗黙のルール』が心配だった。
結果発表は獲得得点が多い順に発表される。
真尋は3番目だった。
「え~~? 三番目?」
南は志藤の腕を揺さぶった。
「うーん・・・」
志藤は腕組みをした。
「ぜえったい真尋が一番やったのに!」
南の意見は最もだった。
自分もそう思う。
しかし・・・・
「まあ・・・明日の決勝があるから。」
志藤はそう言うしかなかった。
絵梨沙もまた
真尋の信じられないほどの進歩に驚いていた。
今まで自分のこだわりでコンクールに出ようとしなかったけれど
こうしてきちんとコンクール向きの練習を重ねたら、どんなにたくさんの結果を得られたのだろうと思わずにはいられない。
このコンクールの真尋の演奏は
大きな減点の要素がみつからない。
きっちりとした演奏だ。
それを納得させてやらせることができたあの巨匠は・・本当にすごい・・・
コンクールの後も真尋はシェーンベルグのレッスンスタジオでピアノを弾き込んだ。
それを厳しい目で見つめる巨匠を
絵梨沙はぼんやりと見つめていた。
「なー、絵梨沙。」
家に戻る途中、真尋は手をつなぎながら絵梨沙に言った。
「え?」
「コンクール終わったら。 もちょっと広いトコ引っ越そうぜ、」
「真尋、」
少し驚いて彼を見る。
「やっぱ狭いしな。 あそこは二人じゃ。 ベッドも二つ置きたいし。 もし。 明日優勝できなかったらおれはあのジイさんとお別れだ。 またおれを指導してくれる先生を探さないと。 もし見つからなかったら、またピアノで稼ぐし、」
そんなことを言い出す彼に
「真尋は。 もっともっとすごいピアニストになるのよ。 世界の一流のオケからオファーが来るような。 このコンクールで成績を残せば、きっとそれに目をつけてくれる人がいる。 私だって貯金もあるし、日本で前に出したCDやDVDや写真集の印税も少しずつは入ってくるから。 真尋は心配しないで。」
絵梨沙は心からそう言った。
まだまだこの頃の二人は裕福でなくとも二人でいることが幸せで・・・
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