秋になり。
私たちがウイーンにやってきてから1年が過ぎた。
相変わらずピアノばかりの毎日だったけど、私も彼も本当に楽しくその生活に浸っていた。
ある日。
私は父に呼ばれた。
「彼の・・・お兄さまが?」
それは突然の話だった。
「うん。 ホクトエンターテイメントでね。 オーケストラを立ち上げたいって話なんだ。 この前電話をもらってね。」
「そう・・・」
私はいちおう北都の所属のピアニストになってはいたが、まだウイーンの中の小さなコンサートくらいしか経験がなかった。
別にガツガツ仕事をしたいと思っていなかったので、『プロ』であることも忘れそうだった。
「それで。 マサと契約をしたいって言うんだ。」
「え・・・」
「あのNYのシモンとの『ラフマニノフ』の映像を見たらしくて。 家族とはいえマサの才能は未知数だったから実際に目の当たりにして、ぜひクラシック事業を始めたいと言っていた。 それにはマサとの契約が必要だと言っている。」
確かに・・・
彼ほどの演奏家なら、たぶんそのうちどこかの事務所から声がかかるだろう。
フランツの店でたまにやっているライヴは相変わらず盛況だし、そういう人からの声がかかるのは時間の問題かもしれない。
「それで。 日本でアドバイザーをしてくれそうな人を探していると言っていたので。 マリコを紹介しようと思って。」
「ママを?」
「マサのお兄さんは、とにかく若いオケを造りたいって言っている。 学生たちの中にも才能がある子たちがたくさんいるからね。 そういう面でマリコが相応しいんじゃないか、と。」
思わぬところで彼と母が繋がりそうになっていた。
「真尋には・・話したの?」
「それなんだけど。 お兄さんはこの話を彼自身にするまで絶対に黙っていて欲しいというんだ。」
「え?」
「弟の性格はわかっているからって。 それで。 来月、私が日本で仕事があるのでその時に彼もアシスタントとして一緒に連れて行こうと思っている。」
「パパは。 真尋がホクトと契約したほうがいいって思うの?」
「いづれ。 彼にはそういうオファーが来る。 それは間違いない。 マサが今みたく小さなバーでピアノを弾いてお金をもらっていればいいと思っていても、周りがそれを許さない。 彼はそういう業界に興味もないし、今はやりたいとも思っていないだろうけど・・・・。 彼の将来を考えたら、やっぱり事務所に所属した方がいい。それが彼のお父さんの会社なら・・・自由もきくだろうし。」
父の言うとおりだった。
彼がこのまま小さな町で埋もれていくのはあまりに寂しい。
彼のピアノの素晴らしさをもっともっと世間の人に知ってもらいたい。
私は正直にそう思った。
「だから。 絵梨沙もマサにはナイショだよ。 ・・・マサのためだよ、」
父はそう言って私に念押しをした。
真尋の将来のためにみんなが動いています・・このお話はpart4につながります→→Go!
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