Sanftheit~優しさ(18) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

母は彼という人が全くわからないまま


四手の発表会の日になってしまった。



私たちは前日に少し合わせただけで、特に気負いなく本番に向かった。



ピアノの前に座って目を合わせて、演奏をはじめた。



彼の表情がスッと変わって、集中がピークに達したことがわかった。


演奏を始めてすぐに、前にズラっと並んだ先生たちのことも全く気にならなくなり


私は彼と二人のこの空間を楽しみ始めた。



二人で弾くことは最近はなかったので、彼とピアノが弾けることがうれしくてたまらない。



がむしゃらに練習をしたあの頃を思い出してしまった。



途中で彼も余裕が出て、私のほうを見てニッコリと笑った。


私もそれに笑顔で応えた。



他の人達のデキだとか、そんなことは一切気になることはなく



私たちは私たちの演奏をした。





終わった瞬間、先生たちも大きな拍手を送ってくれた。





「さすが沢藤先生のお嬢さんですね。 それにあの北都くんもスゴいじゃないですか、」



母は他の講師陣からそんな風に褒められて、すごく複雑そうに苦笑いをした。






私たちは外部からの参加なのでもちろんその評価は参考までなのだが、



自己評価でも他の学生たちよりも私たちのピアノは非常に抜きん出ていたと思う。








「・・確かに。 弾かせると・・・大変なものみたいね、」


母は私にため息混じりにそう言った。




「パパに言われて彼と課題であの曲を弾いたの。 ほんと大変だったけど・・・あれは私が彼に引っ張られてできあがったものだから。」



「・・不思議なピアノを弾く子ね。 常識ギリギリのところで独特の解釈をする。 もっと普通に弾いたら・・かなりのコンクールで上位が狙えるのに、」



母はまだコンクールに拘っている。





「彼は。 コンクールの枠に収まらないピアニストなのよ。 自由で伸びやかで。 同じ曲も彼が弾くと全く違う曲になってしまうように。」




「あの表現力は・・・素晴らしいわ。 テクニックはまだまだって感じだけど。」



母が彼の実力を認めてくれたことが嬉しかった。






「それに。 あなたのピアノも変わった、」



「え?」



「あんなに楽しそうにピアノを弾いている姿をはじめて見たわ。」





母はずっと私のピアノを見てきた。





母のおかげで私は子供のころからたくさんの賞をもらってきた。






「もっと。 彼のピアノを聴いてみたいわね、」





母の言葉に私は微笑んで頷いた。







最初は『何モンだ?』みたいな目で見られていた彼だったが



あの発表会でみんなの見る目が変わった。





「え、ピアノバーで弾いてるの? ウイーンの?」



「やっぱスゴいわよね・・。 お客さんに聴かせるピアノって感じだしね、」


「さすがウイーンの音楽院だよなー。」



いつの間に彼の周りに学生たちが集まるようになった。



彼のピアノソロのレッスンのときは、どこからともなく他の学生が集まるようになった。



彼が弾いたのは『ベートーヴェンピアノソナタ第8番 悲愴』。



軽やかな第1楽章、そして叙情的な第2楽章・・・。


レッスンをしているはずの講師まで彼のピアノに聴き入ってしまった。


そして


激しい第3楽章になるとレッスン室の前を通りかかった学生まで足を止めた。



彼のピアノは


自然と人々を惹き付ける。



やはりどこでも人をひきつける真尋のピアノでした・・・


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