crescendo~だんだん強く(19) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「・・あのう、」


私は失礼を承知でマエストロのところに行った。



「ああ、来ていたの?」


彼はいつも穏やかだった。



「・・・こんなこと私が言うのは・・・ですぎたことだと思いますが。 彼と私のデュオを見ていただいたとおり、本番は彼が私に合わせる形でした。 それまでは逆に私のほうが彼に合わせなくちゃと思って・・全然うまくいかなくて。 だけど、彼に合わせるように言ったら、一発で合ってしまったんです。 すごく不思議なんですけど・・・。 今は彼がそういう形になっていない気がして、」



世界の巨匠にこんなことを言うなんて


とんでもないことだけど


私はもう言わずにはいられなかった。



マエストロは細かいことは言わない。



彼も自分がどうすればいいのか必死に模索しているようで、見ていられなかった。



するとマエストロはふっと笑って



「・・きみと弾いていた時は1対1。  ぶっつけ本番でもうまくいった。 彼が合わせる形にしたほうがぼくもいいと思うし、彼もそう思ってる。 ただ・・・・大勢が相手だからね。 それで戸惑っている。」



父と同じことを言っていた。



「大丈夫。 彼はもがきながらも必死に出口を探してる。 そこに連れて行ってやるんじゃなくて、迷っても自分で歩いていかないと。 彼はそれができる男だって・・・うん、今日のピアノを聴いて思ったよ。」



彼の試練を


私はもう見ているしかなかった。





家に帰ると、彼の部屋のドアが開いていた。


また施錠を忘れている。



入って行っても気配がない。



「・・??」



おそるおそる部屋に入っていったけど、シンとしていて彼の姿はない。


寝室に寝ているわけでもない。



そこでキョロキョロしていると、いきなりバスルームのドアがバンっとスゴイ音を立てて開いた。



「えっ!!!!!」



私はフリーズしてしまった。



頭からズブ濡れで、しかもシャンプーの泡がついたままの彼が


全裸で部屋にズカズカと現れた。




「-!!!!」



心臓が止まりそうなほど驚いた。


見たくもなかったのに


その『状況』はばっちりと脳裏に焼き付けられ。



彼は私に気づかず、濡れた身体のままピアノの前に座っていきなり弾き始めた。



第3楽章の最後の盛り上がりの部分を。



その迫力はもう


『見たくもないもの』を払拭するようなものだった。



この異様な光景に私は恐怖さえ感じて動けなくなってしまった。




一気に弾き終えた後、彼はしばらく魂が抜かれたように座ったまま動かなかった。



我に返った私は


後ろから彼にバスタオルを放った。



彼は驚いて振り返る。



「・・絵梨沙・・・」


そのまま立ち上がろうとしたので、



「ダメっ!!!! 早く! タオルを!!」


私は慌てて背を向けた。




浮世離れした真尋の行動にまたも絵梨沙は仰天し・・・



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