彼は学校にも来なくなり、部屋で缶詰状態になっているらしかった。
そうなると玄関のチャイムを鳴らしても、電話をしても無駄なので
私は隣のピアノの音を聴いて様子を探るしかなかった。
いつも施錠もいいかげんなのに、こういう時に限って鍵を閉めているのでどうすることもできない。
ゴハンはちゃんと食べているのかしら・・・
ピアノの音はひっきりなしなので、すごく気になった。
そして彼と顔を合わせなくなってから3日ほど経った。
今日はオケとの練習の日なので、出てくると思い彼の部屋のドアの前で待っていた。
すると
徐に鍵の開く音がして、ゆら~~~っと人影が出てきた。
えっ・・・・
一瞬、亡霊が出てきたのかと思った。
頬がげっそりして、無精ひげがボーボーで。
髪も乱れまくったままの彼だった。
「どっ・・・どうしたの・・・?」
こわごわと聞いてしまった。
彼は死んだような目で私を一瞥した後、そのまますーっと歩いて行ってしまった。
「ちょ、ちょっと!!!」
慌てて追いかけた。
彼のあまりの姿にオケのみんなは驚いていた。
寝不足なのか大きなアクビをしたりして、また心象も悪くしていたけど。
「んじゃあ。 最初っから通しでやってみようか、」
マエストロがニッコリ笑った。
彼は聞いているのかいないのかわからない様子だった。
タクトが振り下ろされ、彼のピアノから始まる。
はじめはppで。
だんだん強く。
迫力を増して・・・・。
・・・・あ・・・・
オケと合わさった時に初めて
うわっ・・・と圧倒された。
風が起こったかのような空気で。
これまでとは確実に違っている。
それはオケのメンバーも同じに思っているようで、みんなの表情が一変した。
彼の圧倒的なその音に引きずり込まれないように必死だった。
・・すごい・・
私も身体が硬直するほどの緊張を覚えた。
ところが。
疲労困憊だったせいか、後半少しずつ合わなくなり。
第3楽章の途中でマエストロは止めた。
「・・・緊張が。 途切れちゃったみたいだね。 ちょっと休憩。」
そう言って彼に笑いかけた。
「・・ゴハンは、食べているの?」
私は彼にカップのコーヒーを手渡した。
「・・・え・・? メシ? いつ食ったかなあ・・・」
あの大食らいの彼がそんなことを言う自体、もうおかしかった。
「ちゃんと食べないと。 体力がもたないわよ。 練習したい気持ちはわかるけど、」
「・・んー・・・」
そこはかとなく彼の身体から異臭も漂ってくるし。
たぶんシャワーも浴びていないんだろう。
私は小さなため息をついた。
真尋はもう悲壮な状況で・・
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