crescendo~だんだん強く(17) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

何度通しで弾いただろう。


私のほうがクタクタになってしまった。




しばらくイスに座って動けなかった。


コンクールの前でもこんなに弾いたりしたことはなかった。



「・・だいじょぶ?」


彼は全く平気なようで私を逆に気遣った。


「え・・・。 うん、」


疲れてもう立ち上がる気力もない。




彼はスッと手を出した。



私は少し思いを巡らせた後、その手を取った。



何とか立ち上がったあと、



「・・ありがと、」



彼は静かにそう言って笑った。



ううん。


私は自分のために彼の手助けをしている。


彼のラフマニノフが聴きたいから。



私は彼の毒に冒されつつあった。


自分でわかっていても、もう手遅れで。



あのピアノの魔力にとりつかれ。




そこから離れることができないのだ。




こんなに練習をしていても、なぜかオケと合わせるとぎくしゃくする。


それは私が聴いていても違和感を感じるほどだった。



「もっといつものように弾けばいいのよ、」


エレナがそう言って慰めてくれているようだけど、まだ周囲の目は厳しかった。



マエストロは落ち着いて、静かに見守っているようだけど。



どんどん彼にプレッシャーがかかっているのはわかっていた。




「ぼくも今日見に行ったよ、」


父はカバンに書類をつめながら言った。



「なんか彼らしいところが全然出ていなくて、」


私が沈んでそう言うと



「・・彼のいいところはね。 何にも縛られない自由でのびのびしているところで。 だけど、絵梨沙とデュオをしたときにわかったと思うけど、『音を追いかける』とそれが不思議なことにまた違う力を発揮する。 『音をつかまえよう』とするときまだまだ彼の奥底に眠っている『力』が漲って。 本当に素晴らしいものになる。 他の音に息吹を吹き込むように。 まだね。 気負っていて彼に余裕がない。 シモンもそれをわかっていると思うよ、」



父はすごく冷静に彼を見ていた。



確かに


あの『花のワルツ』の時のような自由さがない。


彼一人に相手は大勢のオケ。


さすがの彼もなかなかその間合いが掴めないようだった。



「まあでも。 何を言ってもたぶん・・・・今はダメかもしれない。」


父は続けてそう言った。


「え?」


「彼は自分の感覚で理解しないとダメなんだ。 シモンもそれをわかっているから何も言わない、」



虚しかった。



何かをして彼を助けてあげることなんかできない。


協力してあげたくても


もう見守るしかない。



そんなことが悲しく思えるときが来るなんて


ホントうそみたいだったけど。



何とか彼を助けたい、いつの間にか絵梨沙はそう思うようになりました・・・



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