2時間ほどの演奏を終えた後、私はお客さんの中に彼の姿があるのに気づいた。
「え・・・来ていたの・・?」
「ウン。 マスターから電話もらって。 絵梨沙が弾くなら絶対来なきゃって。 カサを杖代わりにして何とか来たよ、」
彼は頬づえをついて笑った。
「・・もう、」
ちょっと恥ずかしくなってうつむいた。
「すんげえ・・・キレイだった。 楽しそうだった。」
その言葉に顔を上げた。
「いつもみたいに。 怖い顔でピアノに向かってるんじゃなくて。 自分のピアノが大好きって・・そんな感じだった。 ほんと。 すんげえ良かった。 コンクールの時の絵梨沙もキレイだったけど、今日はもっともっとキレイだ、」
こんなセリフをあっさり吐いてくれちゃって。
私はおかしくなってふっと笑ってしまった。
「明日から学校も行くよ。 何とかいけそう。 おれも頑張んなくちゃな~~~、」
彼はそう言って、手をついてイスから立ち上がった。
その時
「あ??」
彼がカウンターの柱のクギに鍵が引っ掛けられているのに気づいた。
「コレ・・・」
それを私に見せた。
「あ!」
それは間違いなく私の自宅のカギだった。
「こ、ここにあったの???」
びっくりして手にすると
「え? それエリサのだったの? この前お客さんが落ちてたって拾ってくれて。 誰か取りに来るかなと思ってここに引っ掛けておいたんだ。」
フランツがそう言った。
「も~~~~、ここだったの???? 最初に聞けばよかった・・・」
全身の力が抜けた。
すると彼が大きな声で笑った。
「いや~~~、おれにとってはラッキーだったけどな~~~、」
ほんと。
この数日間はなんだったのかしら。
そう思うと私も笑いがこみ上げてきた。
彼は何とか学校に復帰して、またコンチェルトのための練習に邁進し始めた。
バイトもして学校の課題もこなして、試験も受けて。
本当に忙しそうだったけど、すごく楽しそうで。
私たちは、といえば。
特にどうなったわけでもなく、今までと同じように学校で会えばたまに一緒にランチを採ったり、相変わらず講義では寝ている彼にノートを見せてあげたり。
たまに、コンチェルトの練習を見てあげたり。
彼も特にそれ以上のことは求めてこなかったので、私は何も変わらずに彼と接した。
それで、充分楽しかった。
だけど。
本当の彼の試練はまだこれからのことだった。
二人の『プチ同棲(?)』は終わりました。その後特に進展もなく・・・・
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