私もクリスマス休暇には日本に帰らず、ウイーンで過ごすことに決めていた。
母も忙しそうなので、時間もままならないようだった。
母には申し訳なかったけど、私は日本にいるより何倍もこっちが楽しかった。
子供のころの嫌な思い出があるせいか、やっぱり日本にいると何か落ち着かなかった。
「え? 仕事?」
父は驚いて私を見た。
「もちろん学校の方を優先にするけど。 声がかかっている小さなホールでのコンサートに出てみたいって・・」
コンクールに優勝した私には相変わらず仕事のオファーがいくつか来ていた。
しかし父はそれを承知しなかった。
「しかし・・・」
「ほんの1曲でもお客さんの前で弾いてみたいの。 私のピアノでお客さんが来てくれるって興行主さんが思っているなら・・・。 ぜひ。 」
表に出ることを嫌っていた私がこんなことを言い出して父は少し驚いていた。
「あのね。 パパがNYに行っている間、フランツのお店で1日だけ弾かせてもらったの、」
「えっ、」
「彼が・・・腰を痛めて休んでいたから。 私のほうからお願いしたの、」
「絵梨沙・・・」
「すごく。 すごく楽しくて。 心の底からピアノが好きだって思えて。 たくさん拍手ももらって・・・・。 こんな気持ち初めて。」
私の訴えに父は少し考えて
「・・・わかった。 勉強に差しさわりのないように・・・」
と、許してくれた。
しかし。
「小さなものでも契約が発生する仕事だ。 私も協力したいが、なかなか手が回らない。 絵梨沙は世間知らずだからマネジメントをしてくれる会社を探したらどうかな・・・・・」
「会社?」
「うん。 絵梨沙ならたぶん受けてくれる事務所はあると思う。」
本当に世間知らずの私は全くそういうことに疎かった。
父も探してみると言ってくれたが、そんな面倒なことになるとは思わなかった。
「え? マネジメントの会社???」
相変わらず彼はキタナイ食べ方でパスタをガツガツと食べていた。
「うん・・・。 もっと気楽にやりたかったのに。 でも、パパがそうしたほうがいいって・・・」
「そりゃあなあ。 ヘンなトコの仕事引き受けちゃったりすると大変じゃん。 ヤクザみたいなトコとか! ピアノの仕事だよって言って、実はグラビア撮影とか!!」
彼はオーバーにフォークをかざしながら言った。
「グッ・・グラビア????」
「絵梨沙なんかさ~~~。 絶対によこしまな気持ちで近づいてくる大人がいるって! 先生の言うとおりだよ・・信用できる事務所にマネジメントしてもらったほうがいいって!」
そんなことを言われてだんだん怖くなってきた。
私が不安そうな顔をしていると
「マネジメントの会社って・・・。 芸能社ってことかな? 普通の事務所? おれのオヤジ、芸能社やってっけど。 いちおう。」
いきなりそう言いはじめた。
「は・・・????」
「ああ、そうか。 マサのお父さんは『ホクトエンターテイメント』の社長さんだったんだね。 ホクトはウイーンにも系列のホテルがあるんだよね、」
父は彼から話を聞いてぱあっと顔を明るくした。
「あ、そーなの? よくわかんないけど。」
彼は暢気だった。
「確かに日本の事務所のほうが後々絵梨沙が日本でも仕事を受ける時に有利かもしれない。 きみからお父さんに話をしてみてくれないか??」
今度は父の方がノリノリになってしまった。
ひょんなことから絵梨沙がホクトと関係することに・・・
↑↑↑↑↑↑
読んで頂いてありがとうございました。
ポチっ! お願いします!
人気ブログランキングへ
携帯の方はコチラからお願いします