「なんでさあ。 絵梨沙のパパとママは離婚しちゃったの?」
食べている途中にそんなことをいきなり訊かれた。
「えっ・・・どうしてって、」
「フェルナンド先生ってほんと穏やかだし。 優しいし。」
パンを頬張りながら言う。
「・・・パパと結婚した時、ママはまだ今の私と同じ年くらいで。 パパが日本に拠点を移した頃に知り合ったんだけど。 まだ音大生だったの。 私ができてしまって、パパがウイーンに戻ることにもなっちゃったから・・・」
「へー、デキ婚?」
そんなに大きな声で言われると恥ずかしい。
「だから。 ママもよくわかんないうちに結婚しちゃって、外国に住んで、子育てもして。 パパは忙しくて帰ってこないし、それで疲れちゃったって・・・。」
「ふうん・・・。」
「パパもママも憎み合って別れちゃったわけじゃないから、連絡はずっと取り合っていて。 パパが日本に来た時は私とも普通に会ったりしてたけど・・・。 留学のこともママのほうからウイーンに行ってみたらって勧めてくれて、」
私は不思議なほど彼に自分のことをどんどん話しをしてしまった。
「・・・でも。 正直日本にいるよりホッとする。」
「え? なんで?」
「小学生の時に日本に帰って、学校に行っても『ガイジン』とか言われていじめられたし。 ママは大学のピアノの先生を始めて忙しくて家に帰るのも遅かったし。 友達だって・・・・ひとりもできなかった。」
「えー? 絵梨沙が?」
「ピアノ弾くしかなかったし。 ピアノだけは一生懸命やればどんどん結果が出て、私を裏切らなかった。 友達と遊ぶよりも、よっぽど楽しいって思って・・・・・」
「もっと自信持てばいいのに、」
彼の言葉に顔を上げた。
「え・・・・」
「絵梨沙はすっげー魅力的な女の子だし。 おれのこともなんだかんだで応援してくれて。 優しいし。 料理もうまいし、女の子らしいし。 みんな好きになる、」
恥ずかしいほどジーっと見つめられて
「・・な、何言ってんのよ・・・」
少し顔を赤らめて俯いた。
「ピアノはさ。 弾いてて楽しいじゃん。 おれはホント楽しいってだけで弾いてるかも。 今まで楽しいことはいっぱいあったけど・・・ピアノはずうっと楽しいって気持ちでやってけるって思った。 バーで弾くようになって余計にそう思った、」
子供みたいな笑顔で。
ピアノが心から楽しいって
思ったことがあっただろうか。
私はふとそんなことを思ってしまった。
ピアノバーでの彼は本当に楽しそうにピアノを弾いて。
お客さんの心をあっという間につかんで。
そして
エレナのことを思い出してしまった。
『ゆうべ彼、私のアパートに泊っちゃったの、』
人の心の中にズケズケと入ってくるけど
それは私にだけじゃない。
関係ないじゃない
彼のピアノを聴きたいとは思うけど
この人のことは別に何とも思っていないのに。
私は自分の気持ちが少しずつ少しずつ変化していくのはわかっていても
それを逆に抑えようと必死だった。
他人に自分の心のうちをさらけ出すのが苦手な絵梨沙が真尋には不思議に自分のことを話してしまいます・・
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