もう曲を弾き終えると大拍手だった。
「今日は『Czardas』はやらないの? 聴きたいなあ、」
一番前にいた客が彼に言った。
「『Czardas』? 今日はさあ、ヴァイオリンのおっさんが休んでるから。」
彼はそう答えた。
すると、たくさんのお客さんの中からスッとエレナが立ち上がった。
彼女もここにいたことに気づいてハッとする。
「マスター。 もし良かったら。 私が弾きます、」
彼女はにこやかに手にしていたヴァイオリンケースをかざした。
「え! エレナ・ヴィッツが??」
みんな驚いた。
「って。 弾けんの?」
彼はまずそう言った。
「いちおう音楽院の首席ですから。 モンティの『Czardas』でしょ? 何度かやったことあるわ、」
彼女は余裕で笑った。
いきなりのスターの登場に場はざわめき始めた。
少しだけ打ち合わせをしたあと、エレナはヴァイオリンを構えた。
目と目で合図をして、まず彼のピアノから始まった。
『Czardas』はテンポがくるくると変わって、即興でやるにはかなり難しい。
それでもこの二人はまるで前から練習をしていたかのように息ぴったりの演奏をした。
時々楽しそうに二人目を合わせて微笑んで。
お客さんも合わせて手拍子をする。
元々『酒場風の』という意味のあるこのハンガリー音楽は酒を飲んでいるお客さんをあっという間に乗せてしまった。
・・すごい・・・
それは
あんなにあんなに併せようと思っても
どうしても合わない私たちのデュオが吹っ飛んでしまうほどのピッタリさで。
伸び伸びと楽しそうにピアノを弾いている彼を見ると
自分がダメなんじゃないか、と責めてしまいそうなほどのデキで。
『嫉妬』に似た気持ちが胸に渦巻いた。
二人のデュエットが終わると、もう狭い店内に共鳴するほどの大歓声で
みんな『スタンディングオベーション』だった。
エレナは笑顔で彼と握手をした後、彼の肩に手をやって頬にキスをした。
彼も立ち上がってエレナの腰に手を回して、その歓声に手を振って応えた。
胸が
痛い・・・・・・
息がピッタリの真尋とエレナ。絵梨沙は何だか胸が苦しくてたまりません・・・
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