それでも少しずつ彼との息も合ってきているのがわかった。
「あ~~~、すんげえ疲れた。 集中しすぎたな~~、」
彼は練習室を出たところで肩をグルグルと回した。
「それだけできるなら最初からちゃんとやればいいのに、」
思わずグチりたくなった。
「ほらよく言うじゃん。 ええっと・・・『ノウあるタカはツメをかくす』?だっけ? 」
「よく言うわよ・・・・」
「ねえねえ『ノウ』ってさ、『脳ミソ』のこと? 『ノウあるタカ』って頭がいいってこと?」
また意味不明なこと聞いてくるし。
「・・『ノウ』は『能力』の『能』じゃないの・・・? よくわかんないけど、」
バカらしいけどまともに答えてしまった。
「へー、そうなんだあ・・・。 って、『ノウリョク』ってどう書くんだっけ???」
もう答える気も失せた。
そこに
「あ、マサ!」
一人の女子学生が彼に声を掛けた。
「おう。 来てたの?」
「ええ。 室内楽の練習で。」
背の高いこの美女は音楽院内でも有名人だった。
エレナ・ヴィッツ
ヴァイオリン科の首席で、国際コンクールでも優勝するくらいの演奏家だ。
「パートナーと息が合わなくて。 ・・・あなたに振られちゃったから、」
彼女は笑った。
「・・フラれた??」
思わず反応してしまった。
すると彼女は私に気づいて
「・・・ああ、ピアノ科のフェルナンド先生の娘さんね。 この前のコンクールでも優勝したっていう・・・」
私のことも知っているようだった。
「そうそう。 彼女とピアノデュオで試験受けることになってさあ。」
彼は明るく言った。
「へえ~~~」
彼女は失礼なほど私をじーっと見た。
「彼に室内楽一緒にやらない?って申し込んだのに。 あっさり断られちゃって。 そういうことかあ、」
エレナは思わせぶりにそう言った。
「先生が。 やりなさいってゆーから。」
彼がまるで父から命令されて仕方なく自分と組んだ、みたいな言い方をしたので
「こっちだって。 別にあなたとなんかやりたくなかったわよ。 ほんっとパパったら面倒なことを私に押し付けて、」
思わず憎まれ口を叩いてしまった。
「私、前に『Ballade』に友達と行って。 彼のピアノを聴いたの。 ウチの学生だって言うからびっくりして。 一緒にやりたいってずっと思っていたのに、」
彼女も彼のピアノの不思議な力に引き込まれたようだった。
「ねえ。 もう終わったの? これから食事でもどう?」
彼女は私の存在を無視して彼にだけそう言った。
「メシ? うーん・・・」
チラっと私を伺ったので、
「・・じゃあ。 あと3日しかないんだからちゃんとやってよね。」
何だか腹立たしくなってそのままその場を去ってしまった。
そうです、なんだか腹立たしいのです・・・
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