休みの日の学校内もけっこう練習をする生徒たちがいた。
「よっしゃ・・・!」
二人並んでピアノに座り、彼はそう言って気合を入れた。
指をほぐすように手を摩る。
その仕草はクセのようで、いつもピアノを弾く前にやっている。
目を閉じたあとは宙を向いてひとつ息をつく。
集中していることが周囲の空気でわかるほどだった。
昨日と違って
そのピリピリくるほどの空気を感じた。
二人で息を合わせて弾き始めた。
曲のノリが昨日までと違う。
私は途中から額から汗が落ちるほど熱くなってきた。
彼の音が圧倒的で
飲み込まれそうになるのを必死に堪えた。
・・・すごい・・・
チラっと彼の横顔を見た。
研ぎ澄まされた刃物のように気配が鋭い。
それでも
やっぱりクライマックスを迎えると彼が走り出してしまう。
それを抑えようと私はリズムを守るが
どうしても引きずられる。
すると
「あ~~~! ダメだ!」
彼もそれに気づいて弾くのをやめてしまった。
「・・・途中まではすごく良かったのに、」
思わずそう言ってしまった。
「なんか盛り上がってくると、自分でも抑えきれねえんだよ・・・。 わかってんだけどさあ、」
彼が言いたいことは何となくだけどわかった。
たぶん
普通の人以上に感情豊かな彼は、曲を表現しようとすると
その気持ちが容量オーバーになって自分でも抑えきれないんだろう。
「・・それはもう・・。 あなたが気をつけるしかないわよ、」
それしか言えなかった。
一人で弾く時は自分のことだけ考えていればいいし、自分のテンポを守ればそれでいい。
でも
二人で弾くときはそれではいけない。
父は彼のそんな『弱点』を補うために私と組ませたのだろうか。
ふとそんな風に思ってしまった。
私は私で
彼のピアノに飲み込まれそうになることを抑えるのに必死で
自分のペースが崩れていくのがわかっていた。
だけど
それが少しもイヤじゃないことにも気づいていた。
一緒に練習を重ねるうちに絵梨沙は真尋の見方が変わって生きました・・
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