予選の通過は間違いないと思っていたので
本選への出場は、父に知らせをもらうだけで
いつものように学校の講義に出ていた。
海外での大きなコンクールは初めてだったけど
何故だかいつもと同じように冷静な自分がいた。
アパートにも帰らないし、あの『彼』にも講義もすれ違いで会うことがなくて
内心ほっとしていた。
この日も父の家に夕食の買い物を済ませて向かうと
「あ、おかえり~~!」
なぜか。
『彼』が満面の笑みで迎えてくれた・・・・
「なかなか手ごわい生徒でね。 まあ、ぼくが強引に入れちゃったこともあるしね。 責任も感じてるから。」
父は笑って
彼に『課外レッスン』をしていたわけを話してくれたけど。
ここで彼に会うと思っていなかったので
非常に腹立たしい気持ちでいっぱいのままキッチンで食事の仕度をした。
「え~? 料理。 するの?」
と、彼に覗き込まれて
「・・母が仕事をしていたから。 自分の食事の支度は自分でしてたし、」
顔も見ないで答えると
「包丁持っちゃいけませんとか言われなかったの?」
「そんなこと言ってたら、生活できないし。 きちんと注意をしていれば、」
「絵梨沙はとても料理が上手なんだよ。 よかったら一緒に食べて行きなさい、」
父が余計なことを言ったので、思わずガバっと振り返った。
「え! ほんと!? やった~~!! ほんっとひとりだとさあメシがめんどくさくって!」
そして、もう喜んでいる彼をびっくりしてそして呆れて見てしまった。
「ほんっと・・・マジうま~~~い!!」
人間の食事風景じゃないみたい・・
もう彼がガツガツと食べているのを見ているだけでおなかがいっぱいになりそうだった。
なんか
ボロボロこぼしてるし・・・
「おかわり、」
そして
図々しく皿を差し出した。
呆れながらもついそれを受け取ってしまった。
「マサはもうコンクールに出る気はないの?」
父がその間に彼に質問をした。
「コンクール? う~~~ん。 あんま興味ないかな~~。 あのピリピリした空気がヤだよね、」
ピアノをやってきてコンクールに興味がない、と言い切る人も初めて見た。
「でも。 ピアノで生きていくなら。 ソレ相応の看板は必要なんじゃない? ぼくも協力するから・・・・挑戦してみたら?」
「や・・・。 いいです。 先生にピアノバーのバイト紹介してもらってホントに良かった! あんなにお客さんの前で弾いてて楽しいなんて思わなかった。 仕事なかったら世界中ピアノを弾けるところを探すって。」
彼はそう言って笑った。
「たぶん・・・おれはもうピアノで食ってくしかないって思ってるから。 それしか生きる道はない、」
後からポツリと言ったその言葉に
また私の心の中に何かが起こってしまった。
イヤでたまらないのに気になってしまう・・・絵に描いたような展開に絵梨沙は陥っているようです・・・
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