パパが少しだけ恨めしかった。
コンクールまであと1週間もないのに
私をココに連れてきたことが。
彼のピアノを聴かせに来たに違いない。
私がこんなに衝撃を受けるなんて
想像していたんだろうか。
そのくらい。
それから部屋に戻ってからも彼のピアノのことばかり頭に浮かんで。
誰かのピアノを聴いてもあんなに胸がざわつくことなんかなかったのに。
いったい
彼はなんなの???
言いようのないナゾばっかりで。
フランツの言うとおり
学校での彼も
授業で通訳が必要みたいだったのがウソみたいに
いつの間にかドイツ語を巧みに操って
友人たちの真ん中にいるようになった。
「あ、絵梨沙~! いよいよ明日だね。 頑張れよ~~!」
大きな声で。
もう無視をした。
「緊張しないでね~~!」
容赦なく背中に声が飛んでくる。
もうやめて欲しい・・・・
大きなため息をついた。
彼を見るだけで
自分のペースが乱される。
できるだけ離れていたい。
なのに。
あのピアノが
また聴きたいだなんて
信じられないことを考えてしまう。
コンクールの間は父の住まいにいることになった。
父は私のメンタル面を心配してくれていたけど
いまだかつてコンクールで緊張した経験があまりない。
そんなに頑張らなくても自分は大丈夫だって自信があったから。
でも
何だか今回は少し緊張した。
予選で舞台に上がる時に身体がフワフワして。
練習だけはしっかりやっていたから
ミスなく弾き終えたけど
ふっとした瞬間に
『なんでそんなに怖い顔してんの?』
彼の言葉が蘇ってきて、ハッと我に返って
自分がどんな顔をしてピアノを弾いているんだろうと、気になってしまったりした。
絵梨沙は真尋の言葉とピアノに惑わされて自分のペースを乱してしまいます・・・
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