「一仕事終えたあとのビールって美味しいね!」
シレっとしてビールを飲み干してたけど。
「み、未成年のくせに!」
思わず言い返してしまった。
「は? ああ、そうだっけ?? ま、いーじゃん。 細かいことは。」
全く気にする風でもなかった。
しかも。
ポケットから煙草も出して、慣れた手つきで吸い始めた。
「タバコも!!」
「まあまあ。 ほんっと真面目なんだね。 先生の娘は、」
彼は父に笑いかけた。
「素直でいい子だろう?」
父は頬杖をついて微笑んだ。
「バッハは苦手じゃなかったの?」
父の問いかけに
「ウン・・・古典はあんまり。 モーツアルトとかも・・・あんま弾かないかな~~。 好きなのはロシア! あと・・・ベートーヴェン。」
彼は煙草の煙を吐きながら張り切って言った。
「あの試験の時のショパンのバラード1番は。 スゴイと思ったけどなあ。」
「あれはね~~。 日本の先生とめちゃくちゃ頑張って仕上げたんだ。 やっつけな感じだったけど。 その先生がおれに合ってるって言うから、」
ショパンのバラード1番・・・
彼はそれでこの学校に入ることができたと言うんだろうか。
「確かにね。 うん・・・本当にあれは素晴らしかったな・・・・。」
父をそんなに感動させるピアノを弾く。
少し嫉妬にも似た気持ちを抱いた。
「でも! お客さんの前で弾くって楽しいね! ウン、学校でピアノを弾くより100倍楽しい。」
彼はまた
子供のような笑顔でそう言った。
ピアノが
楽しい。
ピアノを弾く者からしたら
当たり前のようなその言葉を
私はかみしめたことがあっただろうか。
また
胸の中がざわざわとし始めた。
「まあ、絵梨沙よりはうまくないけどね、」
少しテンションが下がっていたのだが
その彼の言葉に素早く反応した。
「ちょっと! もう! 呼び捨てなんかしないで! なれなれしい!!」
逆上しそうなほど腹立たしかった。
「え~? だって絵梨沙って名前だろ? んじゃあ何て呼んだらいいんだよ、」
もう
逆ギレだかなんだかわからないその物言いに
悔しくて口が空回りした。
すると
父がおかしそうに笑い出した。
「確かに。 絵梨沙は絵梨沙しかいいようがないなあ、」
「ちょっと! パパまで!」
暢気な父にも腹立たしくなった。
「そうそう。 素直にならなくちゃ、」
カウンターに肘をついて
エラそうに!
今まで自分が絶対に出会ってこなかった人種にはマチガイなかった。
相変わらず馴れ馴れしい彼に絵梨沙はもうタジタジで・・・
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