『時間がかかることかもしれません。 しかし、あなたのことをどうでもいいから、と社長の本能が動いたのではないでしょう。 他のご兄弟のことを覚えていて、あなたを忘れてしまったのは。 全て今までの社長の人生全てをあなたに負わせることの迷いや不安によるんじゃないでしょうか、』
三浦医師の言葉がいつまでも耳から離れなかった。
「ダメだな、おれは・・」
病室の外のイスに腰掛けた真太郎は自嘲気味に笑ってつぶやいた。
「え、」
南は彼を見る。
「人からは。 東大も出て、申し分ない息子さんですね、なんて。 言われるけど。 実際親父はおれがホクトをしょっていけるかどうか・・・ずっと心配だったんだ。 そのとおり・・おれは仕事を放り投げて飛び出して、みんなに迷惑をかけて。 ・・全くダメな息子で、」
どこを見ているのかわからない目で言った。
「傍から見たら、めちゃくちゃな真尋や真緒の方が・・親父は安心して見ていられたんだ。 あいつらのがおれよりも逞しく生きてる。」
「・・真太郎がダメだからじゃない。 社長はあんたに申し訳ないような気持ちもあったのかもしれない、」
南はポツリと言った。
「え、」
「それほど・・大きくて重いモンだから。 でも、真太郎は大学に入ったころからずっと社長の背中を見て頑張ってやってきた。 それはあたしが一番良くわかってる。 社長は・・真太郎にホクトを譲っても何の心配もないように志藤ちゃんや高宮を連れてきたって・・思ってるし。 あの人たちは真太郎を支えてしっかり仕事してくれるし。 自分が離れる時が来ても安心やって思ってたと思う、」
真太郎はふっと笑って
「それは。 南もだろ、」
彼女を見た。
「え、」
「本当のところはわからないけど。 オヤジはおれが南を好きになることも全部わかってたのかなって。 全部わかってておれたちを引き合わせたんじゃないかって。」
真太郎は優しい目でそう言った。
「あたしたちを・・?」
「なんかね。 そんな気がしちゃうんだ。 あの人のことだから・・・おれが将来ホクトを背負ったときに力になってくれる女性を・・引き合わせたんじゃないかって。」
南は何だかおかしくなって
「もし・・そやったら、社長は魔法使いや。 もう人間の域越えてるやん、」
いつの間に
いつもの二人に戻ったように笑った。
「うん。 そうだね。 でもね。 そんな気がして。 やっぱり・・・おれが大尊敬する北都真也だって。 超えたくたっててっぺんが見えないほど高い高い山だから。 たとえ倒れて寝たきりになっても・・・それは変わらない。」
ほんまに。
素直な人なんやから。
まっすぐで
まっしろで。
あたしは
そんなこの人が大好きだ・・
もうなにもかもお互いのことをわかりすぎている二人。 父の記憶喪失に深い意味があると知り、少しずつ変わってゆきます。
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