「・・あたしが。 アホなんかな?」
南は泣きながら志藤に問いかけた。
少しその言葉への答えを考えて
「・・ん。 アホやな。 おまえは・・アホや、」
志藤は言葉とはうらはらに優しい声でそう言った。
「アホやけど。 うん、おまえらしいかなって思う。 もっとゆっくりと答えを出してもええねん。 急ぐことなんかあらへん。 ジュニアはいつまででもきっとおまえを待ってるから。」
「もう・・・。 優しいことばっかり言わないで、」
南は泣きじゃくった。
「・・萌ちゃんの赤ちゃん見てたらな。 ほんっま・・・命って尊いなって・・。 世の中の子供全部・・・きっと神様から授けてもらって、預かってる命なんやないかって。 あたしらに子供がいたら・・こんなことで悩んだりしなかったかもしれへんけど。 命預かるって、もっともっと大変なことなんやないかって。 神様はあたしにもっと真太郎に向き合えって言いたいのかもしれないし。」
泣きながらそう言う彼女の言葉は、脈絡がなくて
意味不明な部分もあったが
彼女の言いたいことは胸にジンジンと伝わってきた。
「そやな。 子供育てるって・・・楽しいことばかりやないし。 喜びと同じだけ悩みや苦しみもある。 おまえはな、その分・・・100%のエネルギーをジュニアに注いで、ジュニアを愛して、あの人のために生きろって・・神様が言うてるのかもしれへんし。」
「・・うん・・」
「もうおまえとジュニアは・・二人で一人やから。 あの人のことを心底憎んだり、きらいになったりできるわけない。 おまえは何かが切れてしまったって言うたけど。 おれはそんな簡単に切れてへんと思う。 絶対にどこかで繋がってるって。・・・信じてる。」
南は携帯をぎゅっと握り締めて、とめどもなく流れてくる涙を止めることができなかった。
「・・おはようございます。」
真太郎は一度家に戻り、出社する前に父の入院する病院へ行ってみた。
ここに来るのは『あの日』以来だった。
北都は目を覚ましていたが、真太郎がやってきたことがわかると少しハッとしてゆっくりと起き上がろうとした。
「寝たままで。」
真太郎はニッコリと笑ってそれを制した。
もう怖くて
父の前には行きたくないと
思っていた。
「リハビリの調子は・・どうですか?」
真太郎はベッドサイドに立った。
「まだ・・左手と足がうまく動かない、」
北都はそう答えながら、まだ頭の中で真太郎の思い出を探しているようだった。
「・・・無理に・・思い出さないで下さい。」
真太郎は優しく言った。
「もう。 過去はいいですから。 ぼくは間違いなくあなたの息子だし、今はみなさんに助けていただいて、お父さんに代わって会社を取り仕切る役目もしています。 安心してお父さんが休めるように・・・全力で頑張りますから。 」
その笑顔に
もう少しで思い出せそうなのに、まるで見えているのに掴むことが出来ない雲のように
北都はそんな苛立ちを覚えた。
「これからの・・ぼくを。 見ていてください。」
真太郎は凛とした表情できっぱりとそう言った。
吹っ切れた真太郎は父の前にも堂々と姿を現すことができました・・・
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