「ハイ、」
真太郎は少し離れて座っていた南に紅茶のペットボトルを差し出した。
「あ・・ありがと、」
真太郎は缶コーヒーのプルトップを空けた。
「・・・『イオ』に入ったばっかりの頃。 南といきなり徹夜で仕事したことあったよね、」
「え、」
二人が出会った小さなイベント企画会社だった。
「おれのミスで。 二人で仕事することになって。 ・・その時、自販機でおれが缶コーヒー買ってきたら。」
真太郎が思い出し笑いをした。
「え? なに?」
南は全く記憶がなくて、うざったそうに聞き返す。
「『あたし、コーヒー嫌いやねん!!』って。 受け取っても貰えなかった。」
「・・そう、だっけ?」
「覚えてないの?」
「・・うん、」
実際。 その会社には北都の紹介で勤める事になり、真太郎はそのほんの1ヶ月前にバイトでそこで仕事をし始めたばかりだった。
まだ高校2年生だった彼はもちろん南にとって恋愛対象であるわけもなく。
その頃、ひとまわり以上年上の妻子持ちの男性と不倫の関係を続けていた南にとっては
いくら北都の息子と言っても、彼は『なんの対象』でもなかった。
「けっこう傷ついたんだけどな。 あんだけきっぱり言われて。」
真太郎は自嘲気味に笑った。
ほんと。
女の子と接するのは学校の友達くらいで。
こんな人に出会ったことがなかったから。
たぶん。
彼女と出会った瞬間。
おれは恋に落ちていた。
不倫なんかしている彼女にイラついて、
そんなもん何の未来があるんだって怒ってしまったこともある。
もちろん
南はその倍以上激しく言い返し、殴られんばかりの勢いで反論された。
ぜんぜん・・変わってへん。
この人は。
南は真太郎に静かに視線を移した。
不倫の関係を清算して
仕事に頑張ろうって思った矢先。
彼から突然告白された。
その時のことは今でも鮮明に
そして切なくなった気持ちも
思い出すことができる。
南はまだ少年だった真太郎のことを思い出します・・・
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