「南・・どこ行ってたんや。 もう・・ジュニアとも連絡が取れへんで、」
南はもう抜け殻のようになって会社に戻ってきた。
志藤はさっきから電話の応対でてんてこまいしていた。
「あ、コレな・・・想宝の社長からの・・」
と、書類を彼女に手渡そうとした時、初めて南が泣いているのに気づいた。
「ど・・どうした?」
彼女の様子を伺うように言うと、南は堪えきれずにわっと泣き出して志藤に抱きついた。
「・・南???」
「も・・どーしよ・・・。 志藤ちゃん・・どーしよう・・」
泣くばかりで、志藤も弱り果ててしまった。
「ジュニアが・・・」
志藤は落ち着いた彼女から事情を聞いた。
「・・・あんな真太郎初めて見た・・・。 ほんまに・・優しくて、あたしがむちゃくちゃしても・・怒ったりだとか、怒鳴ったりだとか・・絶対になかったのに・・・。」
南はしゃくりあげながら言った。
「だけど・・もう、真太郎の気持ちがほんまにわかりすぎてしまって。 どんだけ傷ついてるんやろって思ったら、もう・・なんも言えなくて・・・・。」
「・・そっか、」
志藤は優しく彼女の背中に手をやった。
「なにかが・・・壊れてしまったんやろなあ。 ジュニアの中で。」
そして、ゆっくりとそう言った。
「社長は息子たちの中でも・・ジュニアには特別な思いで接していたと思う。 息子であり、そして後継者でもあり。いつも少しだけ距離を置くように・・・ずっと。」
志藤はタバコに火をつけた。
「ジュニアに期待をすればこそ・・厳しいことを言ったり、親である気持ちを封印しなくちゃならないこともあったやろし。 ・・おれは医学的なことはわからへんけど。 こうして生死の境を彷徨って、目覚めた時。 明らかに真尋やお嬢たちとは・・・・ジュニアが社長にとって『違う』トコにいたって・・・無意識な部分が出てしまったのか、」
「・・・『違う』・・・って?」
「想像やけどな。 常にジュニアのことは北都家の長男として、北都グループの跡取りとして。 社長はほんまにキチンと彼を育てていたってことやと思う。 ・・・うまく言えへんけども、」
志藤の言う意味が南にはわかるようでわからなかった。
「身体だってリハビリが必要や。 心も・・頭も。 まだまだ社長は戻りきってへんねん。 自分の息子のこと忘れるってありえるか~~?って思うけど。 ・・おれが子供のころな。 近所に認知症になったおばあちゃんがおって。 でも、めっちゃ近所の人とか友達とかはわかるねん。 でも・・なぜだか奈良にヨメに行った一人娘のことだけは思い出せへんかった。 『どちらさんですか?』って・・・来るたびに言われるって・・・泣いてた。 ありえるねん。 ほんまに。 不思議やけど、」
志藤は彼女を励ますように彼女の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
真太郎は会社にも姿を見せず。
携帯も全く繋がらない状態だった。
南は仕事を終えて家に戻るが、彼の気配はなかった・・・。
「・・社長のおかげんはどうなんでしょうか。 ご家族以外の面会ができるなら、あたしも伺いたいんですが。」
志藤が家に帰るとゆうこが言った。
ドキンとした。
「・・・許可があれば・・・家族以外でも面会できるんやけど、」
歯切れが悪かった。
「じゃあ、明日行かせていただきます。」
彼女の言葉に
「いや。 ・・ちょっと待ったほうがええかもしれへん、」
志藤はそれをやんわりと止めた。
いきさつを聞いた志藤は深く胸を痛めます・・・
人気ブログランキングへ
携帯の方はコチラからお願いします