出会った頃と彼は変わらず。
穏やかで優しくて。
口数が多いわけでもないが、思いやりがあり。
真面目で折り目正しく。
いつも素直で純粋で。
あたしは
そんな彼と出会って、今までの自分が本当に恥ずかしくなる思いだった。
真太郎のことが大好きで
愛して
愛して
もう彼のいない世界は考えられないほど
自分の身体の一部だった。
だけど
さっきの彼は
今まで見たことがない姿で。
心を思いっきりの力で粉々にされてしまったみたいだった。
ゆかりはそっと北都の病室に戻った。
「・・・真也さん、」
窓の外の景色をぼんやりと見る彼に話しかけた。
すると
「・・・彼は・・・。」
かすれた声で窓の外を見ながら言った。
「え、」
「・・・おれたちの・・・息子なんだろう・・・?」
その言葉が悲しすぎて、ゆかりはまた泣いてしまった。
「・・真太郎って・・・言ってた・・・」
「ん・・・。 あたしと・・あなたの・・大切な・・・子供。 真尋と・・真緒と。」
本当に真太郎の存在が彼の記憶から消えてしまっていることを知り、ゆかりは耐え切れずに小さな声を漏らして泣いた。
自分の『罪』を北都は初めて認識したようだった。
「・・・これを、」
ゆかりは自分のバッグから手帳を取り出して、1枚の写真を彼に手渡す。
それは
真太郎が東大に入学した時に家族で撮ったスナップ写真だった。
「・・真太郎は。 あなたに一番よく似ているのよ。 顔も、性格も。 もう・・全部。」
笑顔で家族5人で写る写真を手にした北都は真太郎の顔をそっと指でなぞった。
まるで深い深い霧の中にいるような
そんな気持ちだった。
母・ゆかりも大切な息子のことを思い出せない夫が、悲しくてやりきれません(ノ_-。)
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