南もカタンと箸を置いた。
「・・ゆうこは、ちゃんと仕事ができてるんやろか、」
一番気になっていることを志藤に訊いた。
「え?」
「あの子、遠慮してるんとちゃうんかって。 すっごく気になって。 真太郎とずっと一緒に仕事をしてきて、お互いに信頼しあってやって来たのに。 真太郎があたしと結婚したために二人の間の空気が変わってしまって。」
志藤は黙ってお茶を飲んだ。
「真太郎から聞いた。 志藤さんが、もうゆうこを傷つけるようなことをするなって言ったって。」
「別に。 おれはそこまで言ってない。 ただ、ジュニアがあんまり彼女に優しくするから。 あの子の気持ちに応えられない罪の意識で知らず知らずに優しくしてしまっているんじゃないかって。 そんなのあの子のためにならないでしょ。 余計に彼女は現実を見ないで、夢ばかり見てしまう。」
頬づえをついて志藤はタバコを取り出す。
「あたしも、ずっとゆうこと連絡とってへんねん。 ゆうこはあたしと一緒にいるときもつらかったんかなって・・ほんま反省して・・」
南はうつむいた。
「まあ、彼女はあなたとずっと友達でいたい気持ちもあると思いますけど。 でも、どこかで嫉妬心もあるはずです。 あの子はそういうことを思う自分を責めてしまう。 そうやって無理ばかりしてしまう・・」
志藤は遠くを見た。
「あたしらよりも。 ゆうこのことわかってるんやな。」
南はボソっと言った。
「は?」
思わず彼女を見た。
「あたしらは。 表面ばっかりしか見てこなかったし。 ゆうこの本当の気持ちまで考えてあげてへんかったなって。」
「我慢しすぎるんです。 あの人は。 もう・・・ジュニアのためになることなら、自分はどうでもいいって思ってるし。」
「無責任やけど。 ほんまにゆうこに幸せを見つけてほしいって今はそれだけ思う。 だって。 あんなにいい子、おらへんもん。 女のあたしでも絶対にほっとかへんのに。」
「そーですね・・」
思わず相槌を打つ志藤を
南はジッと見つめてしまった。
「何ですか?」
タバコを燻らせながら怪訝な顔をした。
「ううん。 何でもない。 ねえ、志藤さんって血液型B型ちゃう?」
いきなり話題を変えられた。
「・・・そーですけど、」
「え! やっぱり? そーやないかと思ってたんや~~。 あたしもBなの! なんか同じにおいすると思ってた!」
「なにその同じにおいって、」
迷惑そうな顔をされた。
「絶対ねえ、あたしと志藤さん、気が合うと思って。」
自信満々に言われて、おかしくなって笑ってしまった。
「本当に変わった人だな・・」
「だって。 Bやもん! あ、ついでに言うと、真尋もBなんやで。 わかるやろ~~??」
アハハと笑った。
彼女の明るさに
志藤もつられて笑ってしまった。
この二人の出会いも
運命的な気がした。
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「あ~~、腹減ったな。 も~~。」
「あたしも。 もう2時やん。 ランチも終わってしまったし。」
志藤と南は外出をして、一緒にイタリアンレストランに入った。
二人はメニューをじっと見て、ウエイターに同時に
「ペスカトーレ!」
と言った。
「は?」
注文をとりに来た彼が驚いた。
志藤と南は目を合わせて、笑ってしまった。
「ちょっと! タバスコ、はよう貸して!」
「慌てるな、」
志藤は自分のパスタにタバスコを降りかけたあと、彼女に手渡した。
「ほんまに。 あたしたち、めっちゃ気が合うよね~。」
「んー・・」
それは悔しいけど認めざるを得なかった。
南は自分の考えてることは
まるでエスパーか、と言いたくなるほどわかってるし。
自分も彼女に対してはそうだ。
ものの考え方や、割り切り方、価値観。
全てに気が合った。
しかし、ケンカをすると周囲がドン引きするほど激しくて。
どっちも一歩も引かない。
それでも、いつの間にか仲直りして、こうやってアホらしいことで笑いあったり。
13年前。
こうして彼女に出会えたことも
自分を変えてくれた運命の歯車のひとつだったんじゃないかと
志藤はふっと笑った。
志藤の『同志』ともいえる南とは本当に不思議に気が合って・・・