To meet you(1) | My sweet home ~恋のカタチ。

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そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

『北都エンターテイメント㈱ クラシック事業本部 加瀬夏希』




はあああああ。

名刺だァ・・・。



夏希は何度見てもうっとりしてしまった。

絵梨沙のマネージャー的仕事をさせてもらえることになって、名刺を作ってもらえたのだった。



お母さんに送って自慢しよう。



そう思ったとき、



そうだ。



携帯を取り出してその名刺をパシャっと撮った。




「ん・・・?」

昼休みのがらんとした部署で、高宮は携帯の着信が聞こえて取り出した。



『名刺です!』

のタイトルの夏希からのメールだった。



『・・と言うわけで、北都マサヒロさんの奥さんの沢藤絵梨沙さんのお世話をさせていただくことになりました。そうしたら、栗栖さんが必要だからって総務に名刺を頼んでくださって。 生まれて初めての名刺に興奮しています!』

名刺の写メと共に、そんな文面が送られてきた。


本当に彼女の喜びが伝わってくるようで。

高宮は携帯を片手に思わずふっと笑ってしまった。




そこに

「あのっ・・・」

突然声をかけられて、


「わっ!」

高宮は慌てて携帯を隠した。


「す、すみません。 さっきの・・・書類のことなんですが、」


支社長秘書の水谷理沙だった。



「あ・・う、うん・・・」



ここへ来て早いものでもう2週間が経とうとしている。

とにかく、未決の事項がたくさんあってそれを支社長代理に渡す前に振り分ける仕事が大変で。


彼女と二人、毎日夜9時過ぎまでかかってその作業をしていた。

彼女はそのくらいの時間で帰すが、高宮はさらにその後深夜まで仕事を続けていた。



「お疲れではないですか、」

理沙は遠慮がちにそう言う。


「ん・・・疲れてないって言ったらウソになるけど。 でも、そうも言ってられないし。 どんどん片付けていかないと。」


「私一人で・・・本当に途方に暮れてしまって・・」



大阪支社は東京本社よりも三分の一ほどの規模で、秘書課もなく総務部と一緒になっていて秘書の仕事をしているのはこの理沙を含めて女性が3人だけだった。

まだ入社2年目の彼女は突然、支社長に倒れられ、その対応でパニックに陥っていたようだった。



高宮が東京からやってきてから、彼があまりの速さで仕事を片付けていくのをただボーっと見ているだけで・・。



「きみも大変だっただろう?」

書類を見ながら理沙に話しかけると、


「え・・」

小柄でおとなしくて頼りなげな彼女は顔を上げた。


「こっちは総務部と一緒だし。 なんで秘書なのにこんな細かいことまでしないといけないの?ってことまでしなくちゃ、だし。 少し総務にやってもらったほうがいいよ。」


「でも、今まではそうやったって・・言われると、」


「こんな経費の伝票書いたりなんて、総務の仕事だよ。 それに、いちいちすっごい細かいことまで支社長の判がいるなんておかしいし。 なんでトイレットペーパーを買うのに支社長に許可を得ないといけないの。」


「はあ・・・」


「なんてことをきみに言っても仕方ないんだけど。 あんまりバカバカしいのでさっき総務部長に言っておきました。」

高宮はタバコに火をつけた。



「え・・・」


「総務はこっちの3倍も人がいるんだよ? しかも、みんな定時で帰ってて、残業してる姿も見たことないし。 もっと仕事を振り分けるべきですって。」

理沙はものすごくテンポよく話をする彼の前で固まってしまった。


「あと。 きみが総務や経理で使った湯のみ茶碗まで洗う必要はないと思うけど、」


「は・・?」

そんなことまで見ていたのか、と驚く。


「あ、っとそれは私が一番下なんで・・・」


「もっと暇な人、たくさんいるでしょ? せめて、ここの混乱が収まるまで、誰かにしてもらったほうがいい。女子社員のことはぼくから言うと角が立つといけないので、それも総務部長にさりげなく言っておきました。」



「高宮さん・・」


「きみは今、茶碗を洗っている場合じゃないんですから、」

高宮はにっこりと彼女に笑いかけた。



ここにやってきてから、他の人と雑談する姿など見たことがなく。

とにかくものすごい勢いで仕事をして。


とても怖い顔をして。

笑った顔など

見たことなかったのに。



たまに

さっきのように

メールを見て微笑んだりしている。



「もう遅いから帰ったら?」

高宮は理沙に声をかける。


「あ、はい・・」

いつも9時を過ぎるとそう声をかけてくれる。



それでも

彼がまだまだここに残って山積みの仕事を片付けていることがわかっていて、帰るのも気が引けた。



戸惑っている彼女に気づき、


「おれも、今日は終わりにしようかな、」

パタンとファイルを閉じた。



「なんか・・食べていく?」

一緒に社を出た彼女に声をかけた。


「え・・」


「なんか腹減ったかなって。 でも、この辺の店、よくわかんないし。」


「なにが、お好きですか?」


「まだ大阪っぽいもの食べてないんだよね・・」


「じゃあ、いいお店があります。」

理沙は笑顔を見せた。




「これが串揚げかあ・・・」

高宮は少し感動してしまった。


「ここはわりとしゃれた串揚げ屋さんですね。 若い人も気軽に入れて。」


「しかも、安いよね。 東京じゃ考えられない・・」

メニューを見て驚く。


次々と運ばれてくる串揚げに、

「それで、うまいし・・」

そう言われて理沙は嬉しそうに微笑んだ。



彼女にも

食べさせてやりたいな。



高宮は夏希のことを思った。



「大阪の人ってけっこう保守的なんだね、」


「え? そうですか?」


「イメージだと、もっともっと革新的な感じなのかと思ってた・・・」


「東京のほうが若い社員の方が多いと聞いています。 そのせいかもしれません、」


「いろんなことを急に変えようとしても。 おまえなんか東京からぽっと来たくせにって・・・反感買うだろうし。 だけど、このまんまじゃいけないって思いもある。 半年間でどうなるかわからないけど。 少しでもいい形で支社長が戻ってきた時に仕事を渡せればって。」



半年間

そう。

彼に約束された時間はたったの半年なのだ・・・。




理沙はビールグラスから手に伝わってくる冷たさが少し痛かった。



そして大阪の高宮は新しい出会いが・・??

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