To meet you(2) | My sweet home ~恋のカタチ。

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せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「おはようございます!」



夏希は鼻息も荒く、北都邸を訪れた。


「おはようございます。 今日はよろしくお願いします。」

絵梨沙はもう準備ができていてすぐに出てきてくれた。


「なんだよ、朝っぱらかからうるせえな・・」

後ろから真尋も出てきた。


「今日から絵梨沙さんのマネージャーなんですから、」

夏希は少しむくれて言った。


「おまえ新入社員なんだろ? だいじょぶなの?」

あからさまに心配され、


「これでももうすぐ入社して半年なんですから。」



ほんっとに、憎たらしいことを平気で言うなあ。



夏希は真尋に口を尖らせる。


「あ! この前のでっかいねーちゃんだ!」


息子の竜生もやって来た。




でっかい

余計だよ。



と思いつつ、


「おはよ。 今日はお姉ちゃんがママについてお仕事に行くからね~。」

と彼の頭を撫でる。


「がんばってね!」

とにっこり笑う彼がかわいくて。



この日は

テレビ局での収録がほぼ1日がかりになると思われた。


「宮脇です。 今日はよろしくお願いします・・・」

まだ二十歳の新進気鋭のピアニスト・宮脇さおりとの競演となっていた。


「沢藤です。 こちらこそよろしくお願いします、」

絵梨沙も頭を下げる。



彼女は今年初めのロシアの権威あるコンクールで日本人で最年少の優勝をした注目の若手美人ピアニストだった。


「今日は私のドキュメンタリーを撮っているクルーのみなさんも一緒なので騒がしいと思いますが・・」

自信たっぷりの物怖じしない彼女に。



年下なのに

なんか

えらそう・・・



夏希はピキっと何かがキレそうだった。



リハーサル中から問題は起こった。



「さすがオーラが違うよな・・」

さおりがリハを行っていると、周囲が口々にそう言う。


「今度、写真集も出すらしいよ。 ほんっとピアニストは美人じゃないとな~。」


「ま、沢藤絵梨沙もいいけど。 今や主婦だしね。 完璧、ダンナの北都マサヒロの影に隠れちゃってるもんな。

もう29だろ?こういう若い子のオーラには勝てないよ・・・」



イヤでも耳に飛び込んでくる。



夏希は絵梨沙にも聞こえているのではないかと気が気じゃなかったが、絵梨沙は楽譜を片手に平然としていた。



なによ

言いたいこと言っちゃって。



すると。



「ちょっと! 沢藤さんもモーツァルトだなんて私聞いていません!」

いきなり途中でさおりはそう叫び始めた。


「同じモーツァルトじゃ被るじゃないですか!」


「しかし・・もうタイムスケジュールは組んでありますし。 番組の進行表はお渡ししているはずですが、」

ディレクターが困ったようにそう言うが、


「そんなの見てません。 忙しいんですから。 企画の段階で普通は気がつくでしょ!」

怒りまくる彼女に、



なに?




夏希はもう驚いて口が塞がらない。



その後、スタッフの説得にも全く応じず、しまいには

「もう出ません!」

などと言い出した彼女に、絵梨沙がすっと近づいて



「私はショパンを弾きますから。 時間はどのくらいですか?」

と言った。


「さ・・3分半ですが、」


「それに見合う楽曲にします。 ショパンはいくつかレパートリーがありますから。 それで、」

余裕の笑顔でそう言ってその場を丸く治めた。



「よかったんですか? 曲を変えるなんて・・」

楽屋に戻った絵梨沙に夏希は言った。


「大丈夫よ。」

彼女は笑顔で言う。


「も、ほんっとわがままにもほどがある! 進行表自分で見忘れたくせに、」


「若いうちはなかなか妥協ができないものよ。」

嫌な顔ひとつせずにそう言った。



そして収録が始まる。

結局、さおりのリハが押してしまい、絵梨沙はろくにリハをすることができなかった。



あんまりだ・・・。



夏希は憤慨するが、絵梨沙は落ち着き払っていた。



『モーツァルト幻想曲二短調』

さおりの本番が始まった。


夏希はクラシックにはまるで疎かったが、彼女の圧倒的な存在感を感じ取っていた。

周囲の人々も彼女の音に魅了されていた。

表現力も瑞々しく、テクニックも素晴らしく。

さすがだな、と言う空気が漂う。



そして。

絵梨沙が本番用の黒いドレスを着て現れるとその場の空気は一変した。



深いローズ色のルージュが白い肌に印象的で。

志藤が言っていたとおり

まるで女神が光臨してきたような

そんな輝きだった。



きれい・・・。




夏希はもう彼女がこの世の人ではないのではないか? とさえ思えた。



彼女が奏でる

ショパンのワルツは

どこまでもどこまでも

美しかった。


しなやかで

まるで音が体に優しくまとわりついてくるかのような。




さっきまで彼女はもう終わった、などと囁いていたマスコミたちも思わず息を呑むような

そんな彼女のピアノだった。



夏希は絵梨沙の美しい立ち振る舞いとそのピアノを弾く姿に感動します・・

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