「ひよっこ」 第100回
第17週 「運命のひと」
みね子、生コマーシャルに出るってよ
元治） えっ？ みね子がコマーシャル？
女性） 一声だけなんで！
武本） お願いします！ 助けて下さい！
女性） お願いします！
男性） お願いします！
みね子） いやいやいや…。
省吾） どうする？ みね子。
みね子） 「どうする？」って…え～？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
生放送のコマーシャルに、
急遽出ることになったみね子。
そりゃ緊張しますよね。
男性） あれ？ テレビ局とか来るの初めて？
みね子） はい。
谷） おはようございます。
おはようございます。
当時、生放送のバラエティーや
情報番組の間には、
その場で商品などを紹介する、いわゆる、
生コマーシャルが、多かったんです。
女性） 水原さん、藤原さん入りま～す！
一同） おはようございます。
女性） 間もなくリハーサルいきま～す！
武本） 佐藤さん、今日の子です。
佐藤） 佐藤です。よろしくお願いします。
みね子） お願いします。
武本） じゃ、お願いします。
（生コマーシャルのセットの前に
立たされるみね子）
武本） はい、ここに立ってもらって。
お願いします。
男性） この人が商品を紹介していくから、
最後に君がひと言言ってくれれば
いいから。じゃ、さっそくいくよ。合図
をしたら笑顔で。いい？ 笑顔で。
みね子） 笑顔で…。
男性） 「お父さん、今日も一日ありがと
う」って、叫んでくれればいいから。
お父さん…。
すんごく困ってるみたいだったから、
あんまり考えずに引き受けたけど、
既に後悔しています。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
男性） お呼び致しますのでお待ち下さい。
世津子） は～い。
谷） ありがとうございます。
あっ、そういえば、世津子さん。
世津子） うん？
谷） 隣のスタジオにあの子がいて。
世津子） あの子って？
谷） ほら、こないだ行った、赤坂の
洋食屋さんの店員さん。
世津子） あぁ、あの女の子？
谷） はい。私もどっかで見かけたなぁ
って思ったんですけど。
世津子） へぇ、こういう仕事がしたい
んだったっけ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
男性） ♪赤はストップ、青ならゴーで
リハーサルが始まりましたよ。
しっかり練習しとかないと、
生放送で失敗したら大変ですからね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
武本） もう一回確認いいかな？
佐藤さんがお茶漬けを作ったら、
チャイムが鳴ります。セリフを言っ
た後に、器を左手で持って…。
あっ、両手で持って、
じゃ、もうちょっと上に上げて。
カメラがここに来ますんで、その、
カメラに向かって、笑顔で、
セリフを、お願いします。
みね子） はい…。
武本） 大丈夫？
みね子） はい。
武本） お願いします。
女性） もうすぐ来ます。
水原） さあこのあとは打って変わりま
して、エレキのサウンドで盛り上が
ってまいりましょうか。噂の、ストレ
ンジ、ドッグスが登場しますよ！
…とその前に、コマーシャル。
佐藤） はい、今日は、
新発売の商品ご紹介します。
杦谷堂の、特製お茶漬けなんです。
仕事の帰りで遅くなったお父さん、
小腹がすいちゃったなんていう時、
ぴったりなんですよ。作るのは簡単
です。温かいご飯に、かけまして…。
そして、お茶を、たっぷりかければ、
出来上がりで～す。
（チャイム）
佐藤） あっ、お父さん帰ってきました。
（佐藤に合図をもらって、
ぎこちなく茶碗を持つみね子）
みね子） お父さん、今日も、一日…
佐藤） （小声で）頑張れ。
みね子） お父さん、今日も、一日…。
男性） どうなってんの！
練習しろよ、ちゃんと！
武本） はい、すみません！
大丈夫？ 一回離して。
大丈夫、大丈夫。
ちょっとこっち行こうか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜メイク室＞
武本） どうぞ。
みね子） はい。ありがとうございます。
武本） 本番になったら呼びに来るからね。
みね子） はい…。お願いします。
お父さん…。
逃げたい…帰りたいです…。
はぁ…。
（背中を丸め、うつむくみね子）
世津子） みね子ちゃん。
（顔を上げるみね子）
世津子） 事情は聞いた。
みね子） すみません、私…。
（みね子の手を取り、
両手でぎゅっと包む世津子）
世津子） そりゃ緊張するよね。どうぞ。
みね子） すみません。
世津子） 私だっていまだに緊張するもん。
みね子） えっ、本当ですか？
世津子） うん。そんな時、何を考えるか、
教えてあげようか？
みね子） はい。
世津子） これをやっつけちまえば、
もらったお金であれを買おう、
とか考える。それだけを考える。
あのブラウスのためだ。
あの靴を買うんだ。
よし、頑張ろうって思うの。
みね子） え…？
世津子） 本当、本当。だからね、素敵な
ラブシーンでも、頭の中は靴だった
りすんの。フフフ！
みね子） フフ…。
世津子） うん、もう大丈夫だね。台詞は？
みね子） えっと、
「お父さん、今日も一日ありがとう」。
世津子） なるほど、お父さん…。あっ、
お父さんは、いらっしゃるでしょ？
みね子） はい。います。
世津子） 好き？
みね子） はい。
世津子） うん。じゃ、その好きなお父さん
に言うつもりで言ってごらん。
みね子） はい。わがりました。
ありがとうございます。
武本） じゃ、中へお願いします…。
川本さん！
世津子） お疲れさま。
武本） じゃ、お願いします。
（世津子に頭を下げ、出て行くみね子）
（見送る世津子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
男性） 「夜の、きまぐれショー」！
（ステージで踊る女性ダンサー）
水原） こんばんは。
司会の水原みちおです。
藤原） 藤原小巻です。
水原） いや最近ね、若い子たちが、
「GSがいい、GSが最高だ」なんて
申しますでしょ。私何で今さらそん
なに若い皆さんがガソリンスタンド
に夢中なのかなって思ってたんで
すよ。そうしましたらうちのワイフ
に笑われましてね…。あなた
藤原） あっ、水原さん、
そろそろお時間です。
水原） おっと失礼。
では、どなた様も、元気よく！
「夜の」。
藤原・水原） 「きまぐれショー」！
水原） 今夜のゲストを
ご紹介致しましょう。
藤原） まずは、このお二人、
小沼ペン子・ポン子。続きまして、
ストレンジドッグスの皆様です。
（拍手）
藤原） ハニードールのお二人です。
水原） まずはこの方から
始めてまいりましょうか。
牧伸二さん。おなじみ、
「あゝやんなっちゃった」。
牧） ♪赤はストップ 青ならゴーで
黄色注意の信号灯は 年中変わるが
かわらないものは ウチの家計簿
赤ばかり あゝやんなっちゃった
あゝ 驚いた
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
武本） お願いします。
（佐藤さんとセットに立つみね子）
武本） 頑張って。
みね子） はい。
（モニター画面のみね子を見る世津子）
水原） では続いては打って変わって
エレキの豪快なサウンドで盛り上
がってまいりましょう。噂の、ストレ
ンジドッグスの登場です。
…と、その前に、コマーシャル。
佐藤） はい、今日は、
新発売の商品ご紹介致します。
こちら、杦谷堂の、特製お茶漬け
なんです。仕事の帰りで遅くなった
お父さん、小腹がすいちゃったなん
ていう時に、ぴったりなんですよ。
作り方は簡単です。温かいご飯に、
のせますよ。そして、お茶を、たっ
ぷりかければ、出来上がり～。
（チャイム）
佐藤） あっ、お父さん帰ってきましたよ。
（お茶椀を両手で持ち、
前に差し出すみね子）
みね子） お父ちゃん、
今日も一日ありがとう！
ごめんなさい。（涙）
水原） すてきなゲストをお迎えしており
ます。ストレンジドッグスの皆さんで
す。よろしくお願いします。
（みね子を見ている世津子）
武本） お疲れさま。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜車の中＞
みね子） 今日は、
ありがとうございました。それに、
送ってまで頂いて、すみません。
世津子） うん。これも何かの縁だから。
みね子） ありがとうございます。はぁ…。
世津子） 疲れた？
みね子） はい。
世津子） でも楽しくて、ちょっと女優に
なってみたいとか思ったりした？
みね子） いやいや、いやいやいや、
とんでもないです。もう全然思わ
ないです、そんなの。
世津子） そう？ でも、ちょっとよかった
けどな、本番の時の表情。
みね子） え～！
だって、笑顔って言われてたのに。
世津子） ああ…何で？
みね子） えっと…。
世津子） あっ、
言いたくなかったらいいよ。
みね子） あっ、いえ、そんな…。あの…。
お父さんを、思い浮かべてって言わ
れて…。お父さんいるんですけど…
いなくて。あの、私、茨城なんですけ
ど。お父ちゃん東京に出稼ぎに来て
て…。で２年前に、いなくなってしま
って…。行方不明っていうんでしょう
か。突然連絡が取れなくなって。
全然何もわがんなくて。あ～ひょっと
したら、嫌んなってしまったのがな。
私たち家族のこどって、思ってたこど
もあって。
世津子） そう…。じゃ、つらいこと思い
出させちゃったね。ごめんね。
みね子） いいえ。
世津子） 行方不明か…。
みね子） はい。
世津子） どんな…。
みね子） えっ？
世津子） どんなお父さんだったの？
みね子） そうですね。えっと、背が
高くて、とにかく優しくて…。
あっ、写真あんですよ。
これです。
（実の写真を差し出すみね子）
（写真を見る世津子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
あの生コマーシャル、みね子じゃなくても
できたよね～。一言言うぐらいだけなら、
しかも素朴な子でいいなら、局内のスタ
ッフでも、タレントの卵でも、いくらでも
捕まえられそうだったのが、ちょっと残念。
話の流れのためとはいえ、強引すぎる。
「お父さん、今日も一日ありがとう」
好きなお父さんに言うつもりで言ってごら
んと言う世津子のアドバイスにより、父親
を思い出して涙ぐんでしまうみね子の図。
これもちょっと盛りすぎ。少なくとも、今の
みね子は、これぐらいのセリフで泣くほど
弱くないと思うんだよね。あれだけ毎日、
お父さんと心の中で呼びかけているんだ
し…。言いやすいはずなのに、何かね…。
言いたくなかったけど…。「あまちゃん」を
意識しすぎ。もっと、岡田さんらしくていい
のに。書きたい気持ちは分かるんだけど。
とはいえ、世津子さんの存在感、演技力
のおかげで、みね子の運命が動き出す
感じは見えてきた。私としては、予想を裏
切ってほしいのだけれど…。いい方に裏
切ってくれたらいいなあと、願うばかり…。
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