「ひよっこ」 第64回
第11週 「あかね荘にようこそ！」
女だけの新人歓迎会と
みね子の足が棒になった日
みね子ちゃん、大丈夫でしょうか？
みね子） 落ち着いて、落ち着いて…。
（テーブルに向かうみね子）
みね子） 失礼します。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
おやおや？
すずふり亭に行列ができていますよ。
商売繁盛、大忙しです。
省吾） はい、ホール。早く持ってってくれ。
高子） はい、ただいま！
みね子） はい！
客） あっ、すいません。お冷や頂戴。
みね子） はい。
客） すいません、私も。
みね子） はい。
（扉が開く音）
鈴子） ありがとうございました。
（厨房から出てきて、料理を運ぶ秀俊）
お父さん…。
明らかに、私のせいなんです。
秀俊） ごゆっくりどうぞ。
みね子） あの…すみません。
ありがとうございます。
秀俊） 料理が冷めるのが嫌だから
運んだだけだよ。
みね子） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
客） 鈴ちゃん、おいしかったよ。
客） ほっぺた落ちましたよ。
鈴子） ありがとうございます。
（昼の部、閉店。
「CLOSE」の札 をかける鈴子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜１５：００ 休憩＞
みね子） お願いします。
秀俊） はい。
省吾） お疲れ～。
高子） お疲れさまで～す。
みね子） お疲れさまです…。
省吾） おいおい。オリンピックでマラソン走った
選手みたいな顔してんな、みね子。しか
もメダルは取れなかったって感じだな。
高子） ハハハハ！
みね子） ハハ…。
省吾） あ～疲れた、今日のランチ。
みね子） すみません。
鈴子） 何で謝るの？
みね子） 私が足引っ張って、
忙しくしてしまったんじゃないですか？
鈴子） そういう忙しいじゃないよ、今のは。
たくさん来て下さったなっていう意味。
はい、今日のお昼！ アハハ！
売り上げ、２万円！
高子・省吾） お～！
秀俊） いきましたね！
元治） だから俺の言ったとおりだろ？
秀俊） 何も言ってないじゃないですか。
元治） そうだっけ？
高子） かなりいい売り上げ。
みね子） はぁ。
元治） よく働いた。うん！
鈴子） でも、みね子もよりによって、
忙しい日に入ったね。
みね子） はぁ。
鈴子） でも最初にこういう経験しとくと、
運がいいよね。
省吾） そうだね。後が楽だ。
みね子） はぁ…。
省吾） 「はぁ」ばっかりだな、おい。
（笑い声）
鈴子） さぁさぁ、休憩、休憩！ しっかり休んで。
省吾） あ～疲れた！
元治） パチンコ行かない？ ヒデ。
秀俊） 行きません。
元治） えっ、何で行かないの？
秀俊） 理由はないです。
鈴子） 高ちゃん、行こうか？
高子） あ～はい！
鈴子） ね？ みね子も行くよ！
みね子） へ？
鈴子） あんみつおごるけど、行かない？
行かないならいいけど。
みね子） 行ぎます。行ぎます！ 行ぎます！
鈴子・高子） アハハハ！
鈴子） よしよし。行こう行こう行こう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（裏口から出る鈴子たち）
鈴子） やっちゃん！ 柏木行くよ！
来る？ 来ない？ 来る？
どっち？ どっちなのよ？
安江） 行く行く、行く行く。
みね子） お疲れさまです。
安江） お疲れさん。
鈴子） 女だけの新人歓迎会。ね！
みね子） はい！
鈴子） よし、行こうか。
よし、行こう行こう行こう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
高子） おいしいよ、みね子。ここ。
４人） こんにちは。
ﾔｽﾊﾙ） あ…。
鈴子） 「あ…」じゃないよ、ヤスハル。
フルーツクリームあんみつ４つ！
みね子） すごい。
鈴子） お得意さんスペシャルね。寒天で上げ
底なんかするんじゃないよ。分かった？
ﾔｽﾊﾙ） はぁ。
鈴子） 「はぁ」って…。
本当に、覇気がないんだね、本当に。
ﾔｽﾊﾙ） お待ち下さい。
一郎） どうも、鈴ちゃん。
鈴子） いっちゃん。いいから、出てこなくて。
一郎） いやまだ何もしゃべってないんだから
さぁ。息子はあんまり口利いてくんない
しさ。俺しゃべりたくてウズウズしてた
んだよ、さっきから。
鈴子） うるさい。もうさっさと作ってきて、もう。
覇気のない息子と。
一郎） お言葉を返すようだけどね。
鈴子） 返さなくていい。
一郎） 和菓子屋はね、そんなに覇気は必要
ないの。そうでしょ？ だって入ってって、
いきなり、「いらっしゃい！」とか言われ
たら、嫌でしょ？ だからし～んとしてる
方がいいの。
春子） 「きんつばバスリーお願いしま～す！」
ってね。ハハハ！
一郎） だろ？ だからさ、
あのぐらいがちょうどいいの。
鈴子） フン！
一郎） 出た。負けず嫌いの鈴ちゃんの。
鈴子） もう、いいからもう、
早くもう行ってちょうだいよ。
一郎） はいはいはいはいはい。
鈴子） 行った行った行った！
（笑い声）
鈴子） オヤジはあんなだし、息子もあ
んなんだけどね。味はいいのよ。
先代が偉かったのよ。
一郎） 何だって？
鈴子） いいから。
安江） 疲れた？
みね子） まぁ…。
高子） 足痛いでしょ？
みね子） はい…ええ…。
高子） 無駄な動きが多いからねえ。
みね子） そういうことですよね。
高子） そういうことだねえ。
安江） 慣れるよ、そのうち。
みね子） ありがとうございます。
でも…。まだ覚えなきゃいけない
こどがたくさんあって…。鈴子さん。
鈴子） ん？
みね子） 今日、メニューお借りしてっても
いいですか？ あの、夜寝る前に、
覚えようかなって。
安江） はぁ～それは感心感心。
鈴子） …って言いたいとこだけど、やめな
なさい。仕事っていうのはね、決めら
れた時間内だけするもんなの。その
分しか私給料払ってないよ。時間内
に、精一杯働く。終わったら忘れる。
でないといい仕事はできないよ。
嫌になっちゃう。私は、そう思う。
みね子） はい。分かりました。
鈴子） よく頑張ってたと思うよ、みね子は。
みね子） え…？
鈴子） うんうん。高ちゃんなんてね、
初日の日なんてね…。
高子） 鈴子さん、鈴子さん。ダメダメダメ！
先輩としての、立場が。
鈴子） あぁ、そうね、そうよね～。
高子） そうです。
鈴子） ひどかったのよ。お皿何枚割るのって。
高子） いや、鈴子さん！
安江） ガッシャ～ンって皿が割れる音が、
うちの店にまで聞こえてきたもん。
高子） 何なの、安江さんまでもう！
鈴子） だって…ね～？
安江） ね～？
高子） 「ね～？」って何なのよ！
安江） 私もさ、初めての日、躓いてさ、お客さん
の頭の上から、ラーメンかけちゃって！
みね子） え～！
安江） もう大変だったわよ。
お父さん…。
みなさん、やさしいです。
一郎） はいはい、はいはい、はいはい。
お待ち遠さま。
はい、あんみつスペシャル。
みね子） すご～い！
一郎） だろ？
ちょっとね、説明さしてもらうとね、
１時間、じっくり煮込んだあと、特別
なものをね、入れてるんですよ。
鈴子） もういいからいいから、あんた、
あっち行って行って行って。
一郎） 何だよ。
鈴子） 女だけの集まりなんだから。
一郎） しゃべらして！ しゃべらしてくれよ！
鈴子） いいからね、またね！ またね～。
いっちゃん、また～。
高子） またね～。
（笑い声）
鈴子） はい。では、いただきます。
３人） いただきます。
高子） あれ？ 安江さんのあんこの方が、
大きくない？
安江） あら？ そう？
あっ、ちょっと！
みね子ちゃんの方が多い～！
高子） あっ！
安江） でしょ？
みね子） 嫌ですよ。換えませんよ。
高子） あっ、ちょっと、先輩に対してそれは…。
みね子） だって今は、休憩時間ですから。
鈴子） じゃ、いただきます。
３人） いただきます。
４人） わ～！
安江） 久しぶり～。
（あんみつを食べるみね子）
みね子） ん～！
高子） 「ん～！」じゃ分かんないわよ。何なの？
みね子） うめぇぇぇ！
（笑い声）
高子） うめぇ！
一同） うめぇ！
（思わず微笑むヤスハル）
みね子） うめぇぇぇ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜１７：００ 夜の部開店＞
省吾） 味見してみるか？
秀俊） はい！ 失礼します。
牛肉の、深い香りがしますね。
省吾） 分かるか。よし！
（ビーフシチューの仕上げをする省吾）
省吾） はい、あがった！
秀俊） はい、ドビあがりました！
みね子） はい。
（料理を運ぶみね子）
みね子） お待たせ致しました。
客） いい香り～すごくおいしそう！
みね子） 失礼致します。ごゆっくりどうぞ。
お昼に比べたら、
夜はほんの少しだけど、
やれた気がしています。
昼と夜では、
全然時間の流れや雰囲気も違います。
お昼はやっぱり、
皆さん時間がない中での食事だから、
わさわさするけど、夜はゆっくり食事を、
楽しんでいる人が多いからでしょうか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜２１：００ 閉店＞
（片づけを終えた厨房で、
火元の 確認をしている秀俊）
元治） おう、ヒデ。飲み行くか？
秀俊） 行きません。
省吾） お疲れ！
秀俊） お疲れさまです。
省吾） おう、久しぶりに行くか？
五郎さんも誘って。
秀俊） はい！ お供します！
元治） 何だよ、お前！ ごちそうさまです。
省吾） おう。じゃ、行こう。お先～。
鈴子） 省ちゃん。飲み過ぎるんじゃないよ。
省吾） はいはい。じゃあな。
元治） あばよ！
みね子） お疲れさまでした。
高子） お疲れさまです。
みね子） 男の人たちは、飲みに行ぐんですね。
高子） え～？
みね子） 何か、都会って感じがします。
鈴子） そうか。
みね子） うぢの方は、飲みに行ぐお店なんて
ないですから。行ぐとなったら夜の山
道を２時間ぐらい歩がないと、町にな
んないし。
鈴子） それじゃ酔いも覚めちゃうわね。
（笑い声）
高子） ですね。
鈴子） よし！ じゃ、そろそろこっちも、
終わりにするか。
みね子） はい。
鈴子） うん。お疲れさま。
今日も一日、ありがとう。
明日もよろしくね。
高子） はい。お疲れさまでした！
みね子） お疲れさまでした！
鈴子） はい、お疲れさま。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（裏口を出るみね子）
みね子） はぁ…。
（へたりこむみね子）
お父さん。
長い一日が終わりました。
今、東京中のいろんな飲食店で、
「お疲れさま」って、
言ってるんだなぁと思いました。
私からみんなに言いたいです。
みね子） 今日も一日、お疲れさまでした。
こんな一日を、私はこれから
繰り返していくんですね。
それは、ちょっと楽しいです。
働く場所があって、
仲間がいるって、楽しいです。
みね子） よし！ いてててて…。
終わった途端に、激しく来ました。
「足が、棒のようだ」とは、
よく言ったものだと思います。です…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
意外とズバズバ言う秀俊の圧を軽く受け流す元治
さんが段々可愛く思えてきたり、覇気がなく、グダ
グダウダウダしてる姿ばかり見せられていたヤス
ハルの不意の笑顔に思わずキュンとしたり…。時
間をかけた人物紹介が、じわじわ効いてきている
なぁと。今まで見えなかった鈴子や省吾の違う顔。
人にはいろんな顔がある。いい所も悪い所もある。
イマイチな印象だった人の、違う一面を知ってちょ
っとだけ好きになる…そういうのが好きなんだなぁ。
ちなみに、覇気のないヤスハル君は、覇気があり
すぎる、あの古舘伊知郎さんの息子さんとのこと。
タイプじゃないな～と思っていたのに、笑顔を見た
途端、悪くないんじゃない？と思うチョロ過ぎる私。
秀俊君もタイプじゃないな～と思っていたのに、見
事な包丁さばきから、ちゃんと練習して努力してい
るんだな～と、好感度がアップしてくるから不思議。
結局、「ひよっこ」の世界で、真面目にコツコツ、一
生懸命地道に働く人たちが大好きなのよね。ヒロ
インも含めて、役の中の人たちの頑張りも含めて、
一生懸命な人を見るのが好きなんだなぁって思う。
慣れない仕事、上手くできなくて落ち込む気持ち。
働いたことがある人なら誰でも経験するあるある。
初めからできっこないのはおり込み済み。みんな
失敗しながら大きくなった。みね子をさりげなく励
ましてくれる、女だけの新人歓迎会。美味しそうな
あんみつが、疲れを癒してくれそう。うんめぇぇ～
と、みんなで羊になっているのが微笑ましかった。
みね子の足が棒になった日。それでも働くことが、
働く場所、仲間がいることを楽しいと思う、みね子
が大好きだ～！ 大丈夫大丈夫。そのうちできる
ようになるから！ 大丈夫大丈夫。頑張れみね子。
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