「とと姉ちゃん」とあの雑誌 (3)~商品テストと「戦争中の暮しの記録」~ | 日々のダダ漏れ

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「とと姉ちゃん」とあの雑誌 (3)
~商品テストと「戦争中の暮しの記録」~




「暮しの手帖」の、表紙の、裏。
いつも同じ文章が書かれています。



「これは あなたの 手帖です」と始まる、
読者へのメッセージです。

片桐) いろいろのことがここには書きつけて
    ある。この中の、どれかせめて一つ二
    つは、
すぐ今日あなたの暮しに役立ち、
    せめて、どれかもう一つ二つは、すぐ
    には役に立たないように見えても、や
    がて
こころの底ふかく沈んで、いつしか
    あなた
の暮し方を変えてしまう。

**********

「いつしかあなたの暮し方を変えてしまう」。

この雑誌によって、
まさにそんな体験をした、
という読者がいます。

こちらの親子です。



長年、「暮しの手帖」を愛読してきたと
いう…
漫画家の、ヤマザキマリさんと、
母の、量子
さん。



量子さんは、今も、家に100冊以上、
保管しています。

ヤマザキ) なんでとっておいたの?
量子) まあ、みんな、
    ずっと見てたい記事が多いから。
ヤマザキ) 見てたい記事が多い。めくることは、
     ないでしょ? そんなに。
量子) いや、何度も。本を見れば分かるけど、
    結構ボロボロですね。
ヤマザキ) これはやっぱり、
     手放せなかったんですね?
量子) そうよね。





「暮しの手帖」の影響。
マリさんが子供の頃、
おもちゃはいつも、手作りでした。


ヤマザキ) 私が何かあれ欲しいこれ欲しいと
     言ってもそんな必要ないとか言って、
     買ってくれなかったよね。
量子) 買わないね。
ヤマザキ) 作れ!
量子) 作ったじゃない。
    だから、トムとジェリー。
ヤマザキ) トム。だからキャラクター物も
     自分で作れって言うんですよ。
量子) だからね、(娘が)絵を描いて、私が
    それを、縫うの。ねっ、輪郭を。共作、
    合作。でもそれっていいよね。幸せ。
    本当に。
ヤマザキ) 執念で作った、この。
量子) 私が縫ったのよ。
ヤマザキ) 私が縫ったんですけど、
     立体縫製になってない。



ヤマザキ) これ、縫ったんですよ。
     これ、レースで。縫うじゃないや、
     編んだんですね、はい。



**********

マリさんは、17歳の時、
たった一人イタリアに留学しました。



しばしば母から送られてきたのが、
「暮しの手帖」でした。
実用的な記事は重宝したそうなの
ですが、それ以上に、マリさんが、
大きな影響を受けた企画があったといいます。


ヤマザキ) やっぱり、あれですね。食パンを、
     山のようにテストしたヤツですね。
     4万枚焼いたんだよ、あれ。
     食パン4万枚!
量子) 何? それ、どこで?
ヤマザキ) トースター。
     「暮しの手帖」の商品テストで。
量子) あ~。
ヤマザキ) どんな雑誌よりも、根性が違うって
     いうか、あれを見た時に…普通じゃ
     できない。この雑誌はどうかしている
     と、思ったよね。

**********



マリさんが言う、商品テストとは、
「暮しの手帖」の、名物企画です。
一体どんなものだったのか、
これから簡単に、ご説明します。



1950年代、高度成長の幕開け。
新製品が、夢の暮らしをうたい、
庶民の購買意欲をかきたてました。
その流れに待ったをかけたのが…
商品テストでした。



日用品から家電まで、
さまざまな商品の性能を、
独自の手法でテストする、というものです。
その手法が、徹底しているんです。









トースターの時は、一日2枚ずつ、
3年間食べ続けた場合を想定。およそ、
2000枚のトーストをひたすら焼き続け、
トースターが耐えられるか検証しました。
33台分、合計で、4万枚以上、焼いたのです。



ベビーカーの場合は、
段差や坂のある、
実際の道をテストコースに。
親子9組に協力してもらい、
2日間にわたって、同じ道を何度も往復。
9台のベビーカーの使い心地を、比べました。



河津) もう、「何やってんですか?」って、聞く
    人がいました。大勢。おまわりさんに、
    誰何されたようなことがあったらしい。


そして、手厳しい批評…。
「どれもチャチすぎる」。
問題ありとされたものは、
実名の掲載とともに、
容赦ない言葉で、切り捨てられました。

 ・日本製に、またも泥を塗ったストーブ
 ・それにしても、どうしてデザインが
  どれもこれもデタラメなのでしょうか
 ・けっきょくおすすめできるのは
  一つもない困った商品である
 ・愚劣な食器洗い機
  主婦をあまく見てはいけない
 ・どれもこれも重すぎるカサばりすぎる


河津) (花森さんが)これは、ジャーナリズム
    の仕事なんだと、論説を、唱えてるだけ
    が、ジャーナリストの、仕事じゃないだろ
    うというような事は、言ってましたね。

**********

この企画に込められた精神。
ヨーロッパで一人、道を切り開いた
マリさんの心に、強く響きました。

そしてそれは、独自の作品世界を
生み出し続ける創作活動の、
原点を支えました。


ヤマザキ) イタリアへ行った時に私が適応して
     いく礎になるものを、たぶん私は「暮
     しの手帖」で、吸収してたんだなって
     感じが、しますね。とにかくイタリアの
     人たちっていうのは、猜疑心が旺盛
     な人たちなので、あんな何でもかん
     でも受け入れるよって見てるけど、も
     のすごく物を疑うエネルギーの旺盛
     な人たちだから。ああいった中に入っ
     ていけたのも、たぶん、「暮しの手帖」
     のおかげだったかなと。


**********

片桐) やっぱり何か私達って、世の中とか、
    経済に騙されてるみたいなところ多い
    じゃないですか。そこで、何か、本当
    に経済から切り離されて、愚直に、実
    験を続ける、みたいな事って。何て言
    うんだろう…やりたくてもできないとい
    うか。
いす) あの、メーカーから影響を受けない
    ために、広告をとらないという姿勢も
    ですね。これもですね、読者からの
    支持を、集めたんですよね。
片桐) うん。


**********

名物企画を次々と打ち出した
「暮しの手帖」は、創刊から20年で、
100万部近くまで、
売り上げを伸ばしていきました。
そんなさなかの、1968年、
これまでとは類を見ない、
異色ともいえる一冊が、発売されました。

「戦争中の暮しの記録」
と書かれた、第96号です。



一体何が異色だったのか。
その時の原稿が、
出版社に残されています。

当時編集に携わった、
小榑雅章さんに、
その原稿を見せてもらいました。



小榑) この一字一字を、見ればわかるよ
    うに、普段は、原稿用紙などに、文
    字を記したことのないような人です。



原稿を書いたのは、読者です。


小榑) とても、とつとつと、
    でも一生懸命書かれている。

この号では、人気の商品テストや、
料理記事などは全てお休み。
それどころか、編集部員の書いた
記事も、一切、ありません。



読者が書いた、
戦争中の暮らしについての手記。
139通だけで、一冊を、埋め尽くしました。


小榑) 花森さんにも、よく、選ぶ時に言われ
    ましたのは、「戦争は嫌だ」っていう叫
    びは、言葉ではいらない。一日に、ご
    飯一膳なのか、その一膳の半分なの
    か、米粒いくつなのか、っていう記述
    があるかどうかと、いう事が、一番重
    要なの。その原稿に…暮らしの事実
    があるのかどうか。

**********

どれも長い手記ですが、
抜粋してご紹介します。


 「おやつがわりの食塩」
私は、食塩を、
「これはうまい」という名の
ふりかけのびんに入れていた。
掌に塩をのせてなめた。
塩は口の中に、
かすかな甘味を感じさせる。
毎日少しづつ、舌の先でなめ、
とうとうビンの底がみえて、
「もうあげない」と、友達に宣言した。



 「銭湯」
銭湯の記憶。
お湯は何日も取りかえないのか、
どぶどろのような、いやな
においが鼻にぷーんとつきます。
その上お湯が少なく、
ひざまでしかありません。
しゃがもうとすると、
人のひざの上に腰かけてしまう
と言った具合ですが、
入れるだけいいのですから、
気持ちが悪いのを、我慢しました。

原稿には、
例えばもんぺに使われていた布地や、
絵が添えられていたりします。





防空壕の図面を送ってきた
読者もいました。





戦争にむしばまれた暮らしの現実を
伝えたい。そんな思いが、
あふれ出しているようです。

 「先生のピンはね」
「先生が、僕たちから没収した物を、
食べよいやっぞ」
「えっ本当か」
階下をのぞくと―、
長机の上に、没収された品物が、
裸電球に黄色く照らし出されている。
突然、I先生の姿が目に入ると、
長机の上から練乳の缶らしい物を取り、
また視界から遠ざかった。


**********

評論家の、樋口恵子さん。
1968年に、この特集が世に出された時、
強い感銘を受けたといいます。


樋口) いかに日本の暮らしが、高度経済成
    長し、科学技術がもっと発達し、どん
    なに便利に豊かになるかとって本が
    いっぱい、平積みになって出てたんで
    す。そこへ、この本が「ただ浮かれて
    ちゃだめだぞ」っていう、一つの警告
    のように。ですから、決して、センセー
    ショナルではなかったと思います。た
    だ読む人にとっては、やっぱり一つの
    衝撃だし、やっぱり、忘れてはいけな
    い原点。そして、これを読んで、私自
    身の変化っていったら、やっぱり、戦
    争がもっと嫌いになりましたね。

**********



「売れるはずがない」
とも言われたこの特集。それまでで、
最高の売り上げを記録しました。
この特集を出した2人の思いが、
ある号に綴られています。



暮しを、ほかのどのことよりも、
いちばん大切なものと考え、
すこしでも暮しをよくしてゆく、
…というのが、私たちのずっと、
持ち続けてきた気持ちです。



その気持が、
商品テストをはじめさせました。
料理屋の料理より、毎日のおそうざいに、
力を入れさせてきました。



おなじ気持が、九六号を、
戦争中の暮しの記録で、埋めさせたのです。


**********

片桐) 今まで雑誌って何か、そういう暮らし
    がよくなる知恵だとか、アイデアだとか、
    そういう情報を詰め込んで売るものだ
    っていうふうに、思ってたんですけど。
    雑誌を作るということ自体が、もう何か
    の運動というか、こう大きなすごい芸
    術的な建物を造ってるみたいな、そう
    いう何か花森さんと鎮子さんの活動だ
    ったんじゃないかっていうふうに、何か
    私は思っちゃったんですね。
いす) 何もない時代に始まって、時代がどん
    どんどんどん変わってきているのに、
    でも、その根本の思いっていうのが、
    ずっと変わらない。徹底して変わらない。
    だからですね、どの時代も、そのメッセ
    ージがね、伝わってきますね~。
片桐) ですね。


**********

時代が変わっても、
貫き続けた根本の思い。
花森さんの、
こんな言葉が、残っています。


花森) 戦争に、反対すべきだったのに反対
    しきれなくてこんなザマになったという
    気持ちが、心のどっかにあるわけです
    よ。何か守るに足るものが我々にあっ
    たら、これを壊されてたまるか!という、
    気持ちになったんじゃないかと。毎日
    の我々が生きておること、これが暮ら
    しだと。これをもっと立派にね、しなき
    ゃならんと。



**********














 (1)~ブラジアパッドと直線裁ちで作る洋服~
 (2)~料理記事へのこだわりと鎮子さんのお宅訪問~

**********

確かに…どうかしている!としか思えない商品
テストの数々。なんていうか…何て「かっけえ」
人たちなんでしょう! 花森さんも、鎮子さんも、
かっけえ! 生き方が…覚悟が、かっけえです。

もう、朝ドラはどうしようもないというか、修正不
可能だと思うので、なんとか、本当の鎮子さん
と花森さんの単発ドラマをつくってほしいです!
せっかくの面白いエピソードが、本当にもった
いないと思うから…。それができないなら、「暮
しの手帖」で、朝ドラの、いや、「とと姉ちゃん」
の商品テストをやってほしいです。本物を知っ
ている目線で、厳しく批評してもらいたいもの。
脚本家の商品テストでも構いませんけどね…。

番組の最後に映し出された、鎮子さんのはじけ
るような笑顔が印象的でした。写真だけ見ても、
パワフルで魅力的な人なんだろうなあって思い
ました。花森さんも、クセが強そうだけど、面白
そうだし…。人間って、ホント面白い。そんな面
白い人のことを、もっと知りたいって思いました。

本当に、この番組が放映されてよかった~って、
「とと姉ちゃん」を見る度に思い知らされる毎日。
ドラマのイメージとは全く違う本当の鎮子さんを、
たくさんの人に知ってほしいと心から願います。


ちなみに、「戦争中の暮しの記録」は、保存版
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