ボーカル曲の作り方について
どんな勉強をすれば地力が付いていくのか
いくつか書いてみたい。
どうやって作ったら良いのかわからない方、
あるいは既に作れるけれどさらにステップアップを目指している方の
手助けになれば嬉しい。
ボーカル曲に限らずあらゆる楽曲は
自分でウンウン唸って考えることも大切だけれど、
同じくらい大切なのが他人の曲のアナリーゼ(分析)だ。
これなくして良い作曲家はありえないと言っても良いと思う。
クラシックではバッハ以前のペロタンやギョーム・ド・マショーからまで武満徹まで
徹底的にアナリーゼするするが、
ポピュラー音楽でもアナリーゼは非常に有効なので
「お手本」を用意し、それに沿って作ったり、
さらなるアイデアやアレンジなどのテクニックの引き出しを増やすために
常日頃から色々な曲のアナリーゼを行うと良いと思う。
回を分けて複数回で書こうと思うが、
ポイントは以下の通り。
①コード進行と曲の小節構造
②メロディーの作られ方
③編曲
④ミキシング&マスタリング
⑤まとめと復習
今回は①コード進行と曲の小節構造について見てみる。
まず自分がアナリーゼしてみたい曲を用意する。
「こんな曲が作ってみたい」と思う曲や自分が好きな曲などなんでもOK。
今回は昔流行ったMICHELLE BRANCHの「Everywhere」という
洋楽の曲をお手本として分析してみた。
楽譜があればベストだが、
ない場合はネットでMIDIを作っている人がいないか
探して見るといいと思う。
どうしても見つからない場合は自力で耳コピするしかないが、
楽譜が手に入らなくても趣味でMIDI作っている方もいらっしゃるし、
何もバンドスコアである必要もなく、
Cメロ譜(リードシート)といってコード進行とメロディーだけが書いてある
簡易的な譜面でも分析の助けになる。
歌本とかゲッカヨとか、あるいはオムニバスものの弾き語りスコアなど
探せば大抵の曲は見つかることが多い。
実際のアナリーゼの仕方だが
まず、以下の画像のように全体の構成とコード進行を書き出す。
画像①クリックして拡大。
曲のタイトルや作曲者のほかに
「キーはなにか?」「テンポはいくつか?」などもちゃんと書き込む。
(シャッフルの記号なども書く)
そして、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビなどに分けて
コード進行と小節構造を整理していく。
この時コード進行の下に必ずディグリーネームを書いていく。
こうすることで後で分析する時のヒントになるし、
ディグリーで書いておけば移調するのも簡単になる。
(お手本の譜面は最初以外省略しています)
また最も重要なコードスケールもディグリーが確定した時点で
同じく確定するのでディグリーは必ず書くべきだ。
作曲の上級者の方はディグリーなしでも移調出来るようになるし、
コードスケールもわかるのであれば
ディグリーは書かなくても良いと思うが、
「コード進行の意味がわからないのがたまにある」とか
「移調が苦手だ」という方は面倒でも書いた方が良い。
画像①の空いているスペースにコメントが書いてあるが、
分析しつつ、気付いたことや思ったことをメモ書きしていく。
この曲であれば、非常にフォークソングらしいコード進行なっていて
弱進行がとても多い。
コード進行自体はとてもシンプルで副属7や半音階が僅かに登場するくらいで、
そんなに難しい部分はなかった。
特徴的な点と言えば
1コーラス目のAメロと2コーラス目のAメロのコード進行が違うことと、
最後のサビも2コーラス歌うために末尾のコードを変えていることだ。
…などのように、どんなことでも良いので書き込んでいく。
Aメロ、サビなどの下に小さく青文字で書かれているのは小節数で
各ブロックの小節数を明確にしてのも大切だ。
このように全体を整理することで
ヒット曲の構成を学ぶことが出来るので
自分で作る時に大いに参考になるだろう。
極まれに分析していて「この部分はなんて呼べばいいのかわからない…」
なんてブロックが出てくることもあるかもしれないが、
それらは自分が理解できるように適当に名前を付けてしまえば良い。
画像②クリックして拡大。
次に画像②のようにブロック構造と小節数だけを書き出す。
この曲はBメロがなく、サビに行くまでに2回Aメロを繰り返しているタイプだが、
ポピュラーの曲の構成は似ているようで色々な創意工夫に溢れているものが多く
このように体系立てて整理することで学べることは非常に多い。
時には不規則小節や奇妙な構造に出会うこともあるが、
それも引き出しの一つとして自分のテクニックとして吸収していく。
慣れて楽譜さえあれば15分程度の時間で
一日一曲くらいのペースで進めていける。
毎日一曲分析したら一年で365曲分のノウハウを得られるので
これはかなり大きいと思う。
そこまでいかなくても週に2~4曲くらいやればかなり勉強になるはずだ。
ここで問題になるのが作曲への理解度だ。
音楽理論への理解度と言い換えてもいいが、
コード進行を分析していて自分では意味がわからない部分と出くわすと
そこでかなり時間を取られてしまう。
身近に自分よりも出来る人がいれば質問してみるのも良いが、
一番良いのは自分自身がちゃんと音楽理論を理解していることだ。
市販のヒット曲などを分析して
わからないことが多いということは
それだけ自分の音楽への理解度が低く、
テクニックの幅が狭いということになり、
出来上がる曲もそれに正比例したクオリティーになってしまう。
Aメロで登場するノンダイアトニックのEbコード。
例えばAメロに登場するE♭/Gのコードだが、
なぜKey-DbでノンダイアトニックであるE♭が使えるのか?
またこのコードのときにメロディーで使える音は何か?
などをちゃんと理解していないと分析を行う意味が半減してしまう。
E♭で出てくる「ソ」の音はKey-Dbには存在しない音なので
そのままKey-Dbのすべての音をメロディーで使うことは出来ない。
これは副属7(セカンダリードミナント)のⅡ7であり、
Key-Abからの一時的な借用なので、
コードスケールはミクソリディアンとなる。
理解が進めば自由にオルタード化できるし、
コード進行を全く別物にアレンジすることも出来るようになる。
この辺りは完全に音楽理論の世界だけれど、
ここまでわからないと分析する意味があまりない。
ただ意味もわからずコード進行を書き写すだけでは駄目なのだ。
この辺りの理解がそのまま曲のクオリティーに直結するが、
これらを高めるには市販の書籍などで音楽理論を学ぶと良いと思う。
誰か作曲の先生に師事してもいいし、
ネットで情報を集めるのもいい。
学ぶ方法はいくらでもある。
私が最近書いた本でもこの辺りは学ぶことができるが、
ヒット曲で使われているテクニックをちゃんと理解していないと
自分で応用できないので、アナリーゼするときに
意味がわからない部分がなくなるようにすることが大切だ。
「なぜここでこのコードが使えるの?」と疑問に思うことがゼロになるまで
音楽理論は勉強するべきだと思うが、
アナリーゼの訓練は実際のヒット曲の手法を学べると同時に
それらで用いられている実践的な音楽理論も学ぶことが出来るので、
非常にお勧めなのだ。
わからないことをわからないままにしていたら
いつまで経っても作曲は上達しないので、
どれだけ時間が掛かっても努力して取り組む必要がある。
基礎的な音楽理論に不安がある方は
まずは徹底的に基礎を固めるようにすると良い。
小手先のテクニックよりも確実に基礎力を磨いたほうが
トータルでの曲のクオリティーは高くなっていくからだ。
次回は、②メロディーの作られ方について書きます。
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