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Kierkegaard
(よし数で勝負だ、何だかな・・・ペン画練習中なのである)

その前の話 その1  その2 その3

「猪鹿蝶」

真澄くんは、水城女史に連絡し、汐留にある某ホテルのスイートを押さえさせていた。(彼だって中年じゃなくて青年なのだ)

「速水さん、ちょっとこのホテルは拙いのかと・・・」

「どうして」

「テ、テレビ局・・・」

「俺は別に構わない」

「あう」

哀れな野兎は、狼さんの餌食になりました、お腹いっぱいになった狼さんは、深く眠りにつくわけでもなく、胸の中ですやすや眠るマヤの頭を撫でていました。

「どうして君は・・・」

マヤの瞳から涙が溢れて零れ落ちます、互いに想いが通じ合い、幾度となく肌を合わせ、ぬくもりを共有しているのに、何が君を不安にさせるのだろうか?

マヤは、目覚めることなく、零れ落ちる涙が真っ白いシーツにしみをつくる、真澄は唇でその涙を吸い取り、抱きしめる腕に力を込めた。

「君の不安は何?俺たちは魂の片割れなのだろう?」

真澄もまた、いつしか眠りについた、心地よい眠りの中で同じ夢を見られればいいのに、そう思いながら。

***

ぱちくり、マヤは数度程瞬きをして、目の前にある広い胸を瞳に映した。

マヤの頬が上気して赤く染まる。

「な、慣れない」

「何が」

「起きていたの?」

「君がもぞもぞと動けば、目も覚めるさ」

「ご、ごめんなさい」

「謝るな、それより、先にシャワーを浴びておいで」

「はい」

パタパタとマヤはベッドを降りてシャワールームに駆け込んだ。

真澄は、タバコに火をつけ、窓辺にたちブラインドを少しだけ開け、早朝の都心を見つめた。

今日は、日曜で急ぎの案件もない、マヤも確か予定はなかったはずだ、房総まで一面の菜の花を見に行こうかと考えていた。

「山村 暮鳥だっけか、いちめんのなのはな・・・」

「速水さん?」

「マヤ、菜の花を見に行こう」

「え、でもお仕事が」

「ない、行くぞ、決めた」

***

「凄い、緑と黄色・・」

「いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんの・・・」

「速水さん」

「有名な誌だ、こういう風景をいうのだろう」

「素敵な詩ですね」

「マヤ、俺のプロポーズの返事を、今日こそは聞かせてもらえるのかな」

「・・・」

「マヤ」

「ごめんなさい、もう少しだけ待っていてください」

「マヤ・・・」

青い澄み切った空、青い海、緑の絨毯に黄色い一面の菜の花が咲いている。

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな

・・・
「風景 山村 暮鳥 」

マヤの心の漣は続いているのだ。

マヤの瞳は、いちめんの菜の花を映した。

続く その5