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Kierkegaard

(塗り絵は難しい、どうでもよくなった、背景を切り絵で追加してみる。ごまかせたような気がする)

その前の話 その1 その2

「樹魔」

春はもうすぐ、柔らかな日差しが心地よい。

マヤは、日比谷公園のベンチで、小音楽堂で催されている、クラシックの演奏を聴いていた。

耳に心地よく響くピアノの調べ、音に身を任せ、その世界に旅発つ。

聞こえる曲は何だろう?ノクターンの調べだった。

演奏が終わり、人々が散っていく、日舞の先生のお宅では、福寿草をみかけたけど、この公園にもあるのかしら。

春の知らせを探しに行こう、マヤはそう思い、ぴょんとベンチからおり、探索へ。

予報では例年より暖かいと言っていたけど、本当だ、歩いているとコートを着ていると汗ばんでくる。

緑色、高いビルに囲まれているのに、良く手入れされた花壇には、花が植えられていたが、木々の間からクロッカスの花が咲いていた、ふきのとうも、春を知らせる植物を目に焼き付けていく。

空は青く澄みきっていた、たなびく一条の飛行機雲、掌を真上にあるお日様を見るために、目の上に掲げてみる。

まぶしいから目をつぶって、また開くと暗い影の中だった。

「ちびちゃん、散歩に行くなら俺を誘ってくれないと」

「土、日、祝日も関係ない仕事人間のくせに?」

「俺だって普通に休みもとるさ、そうだ、君は春の女神さまでもあったな。行くぞ」

「ど、どこへ」

「緑がいっぱいあるところ」

真澄はいたずらぽく微笑を浮かべ、マヤの手をとりすたすたと、マヤが付いて来られるくらいのスピードで、歩く。

コインパーキングに止めた車にマヤを放り込み、車通りの少ない都心を疾走する。

湾岸線を通り、車は晴海方面へ、彼が連れて行きたかったのは、江東区にある夢の島熱帯植物園だ。

「すごい!」

「ここはごみ処理の熱を利用して熱帯の環境を実現している、緑の楽園だな」

ドームの天井から陽が降り注ぐ、濃い緑の世界・・・

「マヤ・・・」

真澄は、マヤを抱き寄せ耳元に口づけを落とす。

「ま、真澄さん・・・」

「何を悩んでいる」

「何も、悩んでなんかいません」

「俺の眼を見て答えろ」

「・・・」

「君の様子が、この間からおかしいと気がつかないと思っていたのか?」

「・・・わたしは・・・怖いんです」

「何が?」

「あなたと一緒に、こうしていることが」

「どうして」

「こうして触れているあなたが、いつか去って行きそうで」

「ばかな」

「私は、何も持っていないもの」

「持っている」

「上演権はあなたのものです」

「上演権などいらん、俺を幸せにできるのは、君だけだ。君は俺を好きなのだろう」

「はい」

「その気持ちだけでいい」

真澄はマヤを抱きしめる、強く、想いを込めて。

「真澄さん」

濃い緑の影で二人は抱き合う、マヤの瞳に映るのは・・・

続く その4


Kierkegaard
(おまけ、下絵もどきコンテ、つぶやきは楽しい)