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Kierkegaard
(ペン画を練習中なのである)

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小さな漣がたつ、それはやがて大きなうねりを伴う波となり二人を飲み込んでいく・・・

T大学 生物生産工学科 ○○研究室

「おい敦賀、お前を教授が呼んでるぞ!」

「貴島先輩、先生が?何の用だろう」

「敦賀君、君に聞きたいことがある。最近、君が髪の長い女性と一緒に歩いているのを見かけたんだが、彼女の姓は、最上というんじゃないのかね」

「確かに彼女の姓はそれが何か?」

「私が昔師事した博士の姓が最上だからねえ、もしかしたらと思って、有能で素晴らしい方だったが、ある日忽然と消息を絶たれたので、その消息を知りたいんだよ」

「そうですか、多分最上違いだと思いますよ」

「そうなのか、一度彼女を研究室に連れておいで、堅物の君が女性と付き合ってるなんて、何とかだとゼミ仲間が噂しとったぞ」

「彼女は、とても内気なんです」

「そうか、残念だ、是非逢いたかったのに」

「話はそれだけですか、失礼します」

パタンとドアを閉め、蓮は教授室をあとにした。

教授は、回想する、十数年前の記憶を、

最上博士は研究者としても立派な成果をあげられ、人格者でみなから慕われていたのに、ある日忽然と消息をたった、私に謎の言葉を残して。

『人間が、光合成できたらどんなに素晴らしいとことだと思わないかね』

「光合成?何を言ってるんです?人間が光合成だなんて」

信じられなかった博士の言葉が、だが、それは私の記憶の底にとげとなって残る。

光合成をする人間、

十数年前偶然に博士を見かけた、そして無理を言って隠棲している場所に押し掛けた、彼が連れていた女性とそっくりな緑の女性を温室の窓からみかけた。

「お母様、どうして今夜は、母屋に行ってはいけないの?」

「博士のお客様がいらっしゃるの、だから」

「私、偶然見かけたの、ねえあのひとの髪も黒いのね」

「博士と同じでごはんを食べてた!」

「私たちと違うのだから」

緑の髪、光合成、まさか、ガタッ、私はうっかり音を立ててしまい、緑の女王様に誰何された。

「そこにいるのは、誰!」

どうやって客室に戻ったかわからない、だが、翌朝、憔悴した顔の博士が私を屋敷から追い出すように退去させられ、私はもう一度博士に逢いたくて、あの場所へ行くが、そこには何もなかった。

私が立ち去った後、すぐに火事があり、全て焼失したと聞かされた。

「見つけた、緑の少女を・・・」

教授は、受話器をもち内線をかける。

「あ、貴島くん、君にお願いがあるんだが、・・・・そう、彼女をここへ連れてきてほしい、彼には、何も言わずにね」

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