ご訪問ありがとうございます。

「森の奥には、・・・がいるよ、気をつけないと食われるぞ」

「ばあちゃん、ばあちゃん」

鎮守の森は、迷路のようで、少年は迷った。
濃い緑が、木々の間の草が、迷路を作る、迷い込んだ少年は道を阻まれる。
「ここへ来ちゃいけない、帰りなさい」
そう森が言っている。
「僕をここから出して!」

どこからかピアノの音が聞こえる、哀しい、哀しいメロディに重なる少女の歌声。
「ルルル、ルルル、....」
少年は、その音楽に導かれ、そこを目指す。

森が急に開けた、少年はそう感じたほど、木々が、緑の悪意が消えた。
目の前には、緑の草原が広がっていた。

音は、濃い緑から聞こえる、緑色の髪をした少女が振り返る。

「あなただあれ?」

「蓮、敦賀蓮」

「れん?私はキョーコ、あなたの髪は黒いのね、おじいさんは白いのに」

「普通だよ、君の髪の毛は、緑なの?」

「おかあさんも、おにいちゃんも、おねえちゃんも、かなえちゃんも緑色だよ」

ピアノの音がやみ、少女の背後の緑の精霊が少年を見つめる。

真っ白い透き通る肌、長い緑の髪、紫の瞳。

「れ、ん、ここには来てはいけない、忘れなさい」

少年は、怖くなって、その場を駆け出す、脳裡に少女の姿を焼き付け。

緑の髪をした、キョーコという少女を・・・

十数年後、都内のとある公園のベンチ

黒い艶やかな長い髪が風に揺れる、燦々ときらめく陽の光を浴び、それ自体が命をもっているように...

「やあ、キョーコちゃん、こんにちは」
「あ、あの、敦賀さんですよね」
「日向ぼっこ?」
「あ、まあ」
「ねえ、君の髪の毛どうしして染めているの?きれいな緑色なのに」
「何を?」
「緑の草原に、君のお母さんが奏でるピアノの調べにのせ、君は歌っていた」
「どうして」
「俺の名前は、敦賀蓮、俺は幼いころ、鎮守の森が守るあの草原で君にあった」
「人違いです」
「人違いなんかじゃない」

青年は、少女を抱き寄せ、その瞳を己の視線で固定させる。
少女はおびえ体を震わせる、青年は逃さない、偶然だった彼女を見つけたのは、小さな喫茶店でピアノを弾く少女、その音は、幼い頃に聞いた哀しい旋律。

緑の精霊は、あのとき見たことを忘れろと言った、だが、彼は少女のことを忘れなかった、もう一度会いたくて、あの場所を目指したのに、彼女たちの姿はなかった。

Kierkegaard

少年は、少女にもう一度会いたかったのだ。

続く その2  へ