7月26日、バービカンでコンサート形式のLa clemenza di Titoがありました。

毎年やってるMostly Mozartというシリーズの一環で、私のお目当てはもちろんトビ-君ラブラブ!





1791年プラハ初演のこのオペラ、ボヘミア王レオポルド二世の戴冠祝い用であるからして、「王様は人徳者」というテーマにしなくてはならず、無理な設定でオペラでしか存在し得ない人たちばかりが出てきます(言い換えれば、これぞオペラ!)


舞台は紀元前79年のローマで、主役3人はこんな人たち。


にゃーヴィッテリア(先代ローマ皇帝の娘)


現皇帝ティトの后になるのは前皇帝の娘である私が最適に決まってんじゃん。だけど、皇帝は私を差し置いて異教徒の女を妻にしようってだから腹が立つじゃないの。そんな男は死ねばいいのよ。そうだわ、私にぞっこんのセストに皇帝を殺してもらおう。


えっ、異教徒の女との結婚はやっぱりまずいから止めた?

セスト~!、暗殺は中止よ。代わりは当然この私だわね。なんですって、セストの妹が候補者ですって?んまあ、なんたる侮辱。許せない!セスト、やっぱり暗殺計画は実行よ。


でも、え~っ!またもや変更で、今度は私ですって?

ゲゲッ、もうセストは暗殺に向かってて、止められない・・


(ヴィッテリアさん、冷静に考えれば、殺すべきなのは皇帝自身じゃなくて、ライバルの女たちなんじゃないですか?邪魔なお后候補を片っ端から消せば、例え皇帝がヴィッテリアさんに魅力を感じてなくてもいつか順番が回ってくる筈)


わんわんセスト(ローマの戦士で皇帝の親友。ヴィッテリアの恋人)

恋人と親友の間で僕、困っちゃったんだ。あちらを立てればこちらが立たず、なんて生易しい選択じゃなくて、ヴィッテリアの望みを叶えれば賢い皇帝が死んでしまうんだぜ。結局、友情が愛欲に負けて、ヴィッテリアの陰謀に加担することにしたのさ。だけどドジ踏んでちがう人を刺しちゃったんで面が割れて逮捕されちまった。

ヴィッテリアにそそのかされたって白状すれば罪も軽くなるんだろうけど、愛する女性を守るために死んでもばらすもんか。


(「セストや、女性はね、容姿で選ぶんじゃないよ、大切なのは気立て」ってお母さんに教えてもらわかったの?いくら美人でセクシーでも自分の都合だけでころころ変る腹黒女のために全ローマが尊敬する皇帝を暗殺しようなんて。「優先順位のつけ方」というセミナーにでも行きましょうね)



ヒツジ皇帝ティト

かけがえのない親友だと信じてたセストが私を殺そうとしたなんて。なぜだ、なぜだ、なぜなんだよ~?(←西城秀樹風にね)。本人は絶対口を割らないけど、よほどの理由があるにちがいない。 元老たちはセストは死刑と決定したが、ここは私の一存で無罪にしてあげよう。


(皇帝はん、すぐ近くに、「わらわがお后にならいでどうする!」とメラメラ燃えてて家柄も申し分ないヴィッテリアがいるのに気が付かないで、君主として配慮が足りませんでしたね。そのためにちがう人が犠牲になったし、ローマ炎上でしたもんね。それに、親友だからってえこひいきして無罪にするってどうよ?名君主は公正でなきゃいけなくない?)


叫びという、オペラ界きっての「性悪女」と「お馬鹿」と「度を越したお人好し」のトリオが古代ローマ宮廷を舞台に繰り広げる一大絵巻。と言っても今回はコンサート形式でセットも衣装もゼロなので想像しなくちゃいけないんですけどね。

あ、まだオチがあって、刑場であるコロシアムで、

にゃー「お待ちください!皆々様、全ては私、ヴィッテリアの策略でございます。私のためにセストは皇帝を殺そうとして、しかも罪を自分で被ろうとしているんです。そんなことされた日にゃ、罪の意識に苛まれて后妃になってもおちおち寝てられません。」


ヒツジ「なぬーっ、今まさにセストを許してやろうってとこだったのに、また一人罪人だなんて!しかも后妃候補のヴィッテリア。ええ加減にせえよ! ええーい、もう全員許してちゃる。」


皆の衆「慈悲深い皇帝、万歳!」

(「なにしたって皇帝が許してくれるからな」、ということになってしまうローマが心配・・・)



Orchestra of the Age of Enlightenment
Ed Gardner
conductor
Choir of Clare College Cambridge


Alice Coote Sesto
Toby Spence Tito
Matthew Rose Publio
Hillevi Martinpelto Vitellia
Sarah Tynan Servilia
Fiona Murphy Annio




ヒツジティト皇帝のトビー君、素敵でした。EONのキャンディードの時の漫画っぽい笑顔とは打って変わって、今回は悩むローマ皇帝ですからね、自分が歌わないときも始終まじな目つきで威厳を保とうとしてました。


ほんの小さなカエルが喉にいたみたいで絶好調ではなかったのですが、高音はきれいに出て、立派な出来。懇願してもセストが理由を言わないのにぶち切れた皇帝ががーっと怒った時の力強かったこと!トビー君や、こんな大人の声も出るようになって、王様の風格まで醸し出せるなんて、おかあさんは嬉しいよぉ。

タイトルロールの割には出番が少ないんだけど、女性が多い中でしっかり存在感ありましたよ。今までのトビー君でベストかも。


わんわんこのオペラの主役は馬鹿可哀相なセスト。メゾ・ソプラノのズボン役の中でも、精神的な葛藤の芝居的見せ場も十分な上にコロラチューラの華やかな有名アリアがあり、美味しいところを独占できる大役です。


イギリスを代表するメゾ・ソプラノの一人であるアリス・クート、何度か聴いたけれど、手堅いものの特に魅力的と思ったことはなかったのですが、今日は苦しむセストを真摯に熱演して、これも今まででベスト。


中音がかすれていたので、遠くの席の人には聞きにくかったでしょうが、近くの私にはそのハスキーさが却って素敵で、背が高くないのでフルオペラのズボン役としては見栄えがしないでしょうが、歌唱力だけが頼りのコンサート形式では充分魅力が発揮できます。




にゃーオペラ界きっての悪女ヴィッテリア、主役ソプラノには珍しい憎まれ役ですが、それだからこそ、美声も傲慢なほど圧倒的でないと納得させることはできません。


スゥーデン人のHillevi Martinpeltoは聞いたことのない名前だったので不安でしたが、ハリウッド女優リース・ウィザースポーンが老けて太ったような金髪の彼女、張りのある声はびんびんと響いて、彼女が歌うとぱっと華やかに。私、こういう硬めのよく通る声が好き。ドレスのセンスは最悪だったけど。


リボン后妃にと望まれて、「私には他に好きな人がいるんです。それでもいいのでしたら結婚します」と正直に皇帝に訴えたセストの妹のセルヴィリア。サラ・タイナンは6月のENOの「薔薇の騎士 」でソフィーだった若いソプラノで、この中では一番体も声も細くて頼りなさげですが、この役にはこんな乙女もいいかも。


ジーンズセルヴィリアの恋人のアニオは、皇帝の家来なので「陛下、実はセルヴィラはすでに私と結婚の約束をしてますので、お后にはなりたくないしょう」とは言えない立場。「くそーっ」と思っても「陛下、おめでとうございます」と我慢の子。これもメゾ・ソプラノのズボン役ですが、すらっとした姿態に黒い男性風衣装のフィオナ・マーフィ美しかったこと。よく通る声も素晴らしくて、この人注目株。ENOの「メリー・ウィドウ 」のヴァレンシエンヌも華やかでした。


  ジーンズズボンな二人  


かさ指揮者は去年ENOの音楽監督になった期待の星エドワード・ガードナー。ENOで何度か聴きましたが、きびきびとした若々しい指揮ぶりで、ENOも良い人に来て貰ってよかったです。長くいてくれるといいけど、もうすぐNYメトやスカラ座でも指揮する予定の彼、どっかもっと良いオペラハウスから引きがあるかも。


まじかに見たのは初めてだけど、ほら、振り向いたらこんなに若くてハンサムだしねドキドキ (クリックで写真拡大!)


ところで、


!?このオペラ、ROHで2000年と2002年にやって以来ご無沙汰ですが、もうやってくれないのかしら?シンプルでスタイリッシュな演出はROHの中でも好きなものの一つなので(他所ので同じのをテレビで観たことあり)、近いうちの是非やってもらいたいです。


トビー君にはもちろん出てもらいたし、皆さん素晴らしかったので今日のメンバーで歌唱的には文句ないのですが、視覚面を考慮すると、背が低くて絵にならないセストだけちがう人がいいかな。2002年も2002年もカサロヴァだったので、次はちがう人にしましょう。たまたまこの日にテレビでやってたイドメネオ(こないだボストリッジ博士チーム がやったやつね)のイダマンテだった長身のコジェナがすごく素敵だったので、ああ彼女だったらいいのに、と思って見てたんです、実は。


カメラさ、オマケはトビー君アルバム。

オマケじゃなくて、元々はこれが目的だったんだけど、そのおかげで素晴らしいコンサート・オペラを堪能しました。トビー君、ありがとう!





 

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