5月14日、バービカンにコンサート形式のモーツァルトのオペラIdomeneoを聴きに行きました。



Europa Galante

Fabio Biondi conductor

Ian Bostridge Idomeneo (クレタ王)
Emma Bell Elettra (アルゴスの王女)
Jurgita Adamonyte Idamante (クレタの王子)
Kate Royal Ilia (トロイの王女)
Benjamin Hulett Arbace (イドメネオの友人)
Opera Seria Chorus

お目当てはイアン・ボストリッジ様。

前から5列目正面の5、6メートルの理想的な位置から、ぴか・はわいさんと二人で着物姿でキラキラ星の目からイアン博士に熱い視線を送りながら楽しみましたラブラブ!ラブラブ!

                                             

男の子ストーリーと登場人物女の子


オペラではお馴染のギリシャの神様に翻弄される人たちの話です。


クレタの王様であるイドメネオは、嵐を静めてくれた海神ネプチューンに感謝するために、最初に陸で会う人を生贄にすると約束。その運の悪い人が赤の他人だったら問題なかったのですが(その赤の他人にとっては大迷惑ですが)、なんと後継ぎ王子である息子が来てしまい、さあ困った。


神託に背いてこっそり逃がそうとするのだけれど、神様の目は誤魔化せる筈もなく、怒ったネプチューンが怪物を差し向けたもんだから大騒ぎ。それはなんとか息子が征伐したものの、自分が生贄だと知った息子は、「父上、私は喜んで死にます」ときっぱり。

イドメネオ自身が、「いや、それはできない。わしを代わりにしてもらおう」と懇願すると、もう一人死にたい人が現われて、それは敵国トロイの王女で囚われの身の息子の恋人イリア。


3人も生贄に立候補したことに心を動かされたネプチューン神は、「まあかん(名古屋弁で「もう駄目」)!神託変更だがね。神を裏切ったでイドメネオは罰として退位せなかんけど、息子は跡継ぎ王になってちょう。ほんでからに、イリア王女と結婚したりゃあ」、だって。


人の命や運命をおもちゃのように弄ぶ困ったギリシャの神様には、アホらしくて付いていけません。



カラオケコンサート形式


幸いオペラのよ良し悪しはストーリーとは関係ないし、モーツァルトだから悪いはずがなく、1781年初演のこ作曲したこの作品、上演回数は少ないけれど品よくまとまった素晴らしいオペラになっています。


コンサート形式と言っても舞台セットがないだけで衣装は着て少し芝居をしてくれる場合もあるのですが、今回は普通の服装で突っ立って歌うだけ。でも、歌う方も聴く方も歌だけに集中できるので、私は一向に構いません。


先日のウィグモア・ホールのディドとエネアス は一人二役どころかコーラスまでこなしたの混乱したけど、今日はちゃんと別にコーラスもいるし、一人一役なのでわかりやすいし、皆さん表情までその役になりきってました。


役柄と歌手の風貌がマッチしないのはオペラでは当たり前なので、文句は言いますまい。


老王イドメネオが40歳ちょいの美男子(好みだからハンサムに見えて何が悪い?)で、その隣に立つイリア王女役の美女ケート・ロイヤルとは長身で知的で素敵なカップルなんだけど、彼女は息子の恋人ですもんね。


でも、それくらいは序の口で、オペラにルックスを求める愚かな人がもっと我慢できないだろうと思うのは、息子イダマンテが女性歌手だってことでしょう。それも宝塚みたいに背の高い人がズボン役をやればいいけど、今回はイリア王女が異常に背の高いケート・ロイヤルなので、息子役はズボンをはいていてもそれらしくは見えません。


この役は元々はカストラータ(タマ抜き男性)で、今は残念ながら(本当に残念です)、そんな人は存在しないのでカウンターテノール(男性)が歌うこともあるのですが、今回はメゾ・ソプラノ。ビジュアル的にはカウンターテノール男性の方がしっくりくるでしょうが、でも、上手に歌っても裏声で気色悪い人たちですからね、イアン博士が嫌がったのかも。





音譜パフォーマンス音譜


ビジュアル的には年齢や背の高さが皆ちぐはぐだけど、肝心の歌は素晴らしかったです。




タイトルロールの愛しのイアン様は絶好調。独特の顔をゆがめて苦しそうに歌う姿が気になる人は嫌でしょうが、私は実は端正な顔のままで歌ってくれたらいいのになあ、と密かに思ってはいるのですが、もう慣れました。


知的なイアン様は時として役作りで頭でっかちになり過ぎるきらいがあり、ROHのドン・ジョバンニのドン・オッタヴィオなんてマジに青筋立てて浮いてたけど、今回は憂えるギリシャの王様ですからね、とことん重く暗く思い悩めばいいんですよ。


(余談ですが、イアン様は、分厚い楽譜をずっと目で追いながらも時折目を上げると、ちょうど異様ないでたちの東洋人女性が二人いてぎょっとしたかもしれません、(って、自意識過剰?) で、秋に又かぶりつきに行こうと手ぐすね引いてますよ、この二人は)。





イアン様に対する女性3人はそれぞれちがう声質でしたが、いずれ劣らぬ素晴らしさで楽しませてくれました。



王子イダマンテのズボン役、ラトヴィア人のユリギータ・アダモニテ(って読むんでしょうか?)は初めて聞く名前ですが、こんなピュアで美しい声の人は滅多にいないでしょう。清らかで細くてよく通る声に聞惚れました。


このオペラで一番有名なカウンターテノールがテクニックをひけらかす技巧的なアリアを女性で聴いたのは初めてですが、自然で優しくてとても素敵でした。カウンターテノール好きの私は、この役が今回はメゾソプラノなので実はがっかりしていたのですが、彼女があまりに素晴らしかったので、不満はすぐに吹っ飛びました。


この声でソプラノだったら清純なお姫様役がいくらでもあるだろうに、それが残念。




残念と言えば、イリア役のソプラノのケート・ロイヤルは逆にメゾ・ソプラノだったらあの背の高さを生かして魅力的な男役として引く手あまただろうに、チビが多いテノールの恋人役の娘役をやらなくちゃならない・・・うまくいかないもんですね。


でもこの夜はちびころテノールとラブシーンをしなくていいし、隣には超長身の蚊トンボ博士なので大女にもみえず、敵の王子を愛して苦しむ囚われの身の王女を気品に溢れる存在感と涼しげな声でけなげに好演。




アルゴスの王女で、オペラ界でもお馴染みのアガメムノン一家の娘エレットラは話の進展には何も寄与せず、ただ愛するイダマンテ王子がイリアに心変わりしてしまって怒り悲しむだけなので、可愛げもないし損な役だし出番も多くないのですが、赤いドレスと赤毛のカツラ(でしょう)のエマ・ベルの炎のような歌唱はすごい迫力で、特に最後のドスにきいた捨て台詞的アリアは、アリアの終わりには拍手をしないという暗黙の了解だったにも拘わらず、感嘆の拍手喝采が起こりました。

今までに聴いたのと全然ちがうエマ・ベルには私もびっくり仰天。そうか、この役はこういう風に歌うと得な役になりえるんだな。


イドメネオの友人アルバーチェ役の新人テノールのベンジャミン・ヒューレットは、緊張してたのか硬くて未熟な青二才で、他の4人と比べると明らかに格下。でも素直な声で素質はあるから、頑張ってね。


  

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