「スクールウォッチ」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。



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スタッフの渡辺がスイスのビエンヌでいくつか時計を買ってきた。


その中の一つに百年ほど前のスクールウオッチがあったのだ。


「スクールウオッチ」 と言っても、時計ファンでない限り一杯的には馴染みが薄いだろうが、簡単に言うと時計学校の生徒の 「卒業作品」 と言ったら良いだろうか。



もっとも卒業作品と言っても、1950年頃から以降のものは、既存の機械に生徒が 「手を加える」 くらいの物になっているようだが、それ以前は 「ゼロ」 の状態から全て生徒の手によって作られていたらしい。


当然のことながら、出来のいい生徒も居れば悪い生徒もいるから、作品自体のグレードはまちまちなのだ。




今手元にあるこの時計は、機械的な仕様から推測して十九世紀末から二十世紀の初頭にかけて製作されたものだろう。


機械的にはストップウオッチ機能の付いたいわゆるクロノグラフだから、「複雑時計」 の部類に入る。



そのオーセンティックかつエレガントな仕上がりからは、現代の機械式時計にない 「魂」 がヒシヒシと伝わってくる。


機械的なレベルも非常に高く、製作者は卒業時に充分な水準にあったことが明白だ。


ホーローの文字盤上に手書きで焼き付けてある文字



F. BEURIER


ECOLE NATIONALE D'HORLOGERIE


CLUSES Hte(HAUTEの略) SAVOIE



は、製作者の名前・学校名・学校の所在地で、時計の裏ブタ側には、 この生徒名のイニシャルの「F.B」が
飾り文字で重ねてエナメル焼付けしてある。



ちなみに、通常アンティーク時計市場で目にするスクールウォッチはスイスの時計学校のもの。


だが、調べてみたところ、この時計学校の所在地 CLUSES HAUTE SAVOIE はフランス東部、スイスとの国境に程近いの山合いの工業地区で、この国立の時計学校の前身は1848年に設立されたようだ。


つまり、私の初めて目にする 「フランスのスクールウォッチ」 である。


資料によると、この街の1902年当時の人口は2208人ということになっているから、、、まさにこの時計が作られた頃はそんな小さな町だったのだろう。



この辺から、わたしの頭は時計から離れて、、、一世紀余り前のフランスの山合いの小さな街に思いが巡る。



電気も充分に普及していない時代、、、。


窓から入る陽の光を頼りに、一心に部品を作る青年。


「ゴリゴリ」 と鋼を削るヤスリの音。


窓の外に見える険しい山並み。



果てしない時間が流れたのちの、、、完成。


充実感に満ちた青年の顔。


その後、青年はどのような人生を送ったのだろうか。



どういう経緯でスイスに流れたのか?


そして、、、100年余りが過ぎた今、ここにある。



長年の旅の疲れは、充分に手当てしてやろう。


一心に作品を完成させた青年に敬意を表して。


メーカーの作る 「製品」 ではない。


世界にたった一つの 「作品」 だから。



そして、彼の作品は、、、残念ながら私自身ではないが、、、大切にしてくれる人の手に渡って、これからも末永く生き続けるのだ。


マサズパスタイム オフィシャルサイト