どうも、はちごろうです。


今日は午後ちょっと日差しが出たりしましたね。
するとてきめんで気温が上がっていく。
結局仕事場の気温が30度を超えてしまいましたわ。
さて、映画の話。




「ナイトクローラー」











本年度アカデミー賞脚本賞ノミネートのサスペンス。
事故や犯罪現場などに急行してその惨状を撮影するカメラマン、
通称ナイトクローラーになった男が業界内で成り上がっていく姿を描く。
主演は本作で数々の映画賞を受賞したジェイク・ギレンホール。
監督は「ボーン・レガシー」などの脚本家で知られ、
これが初監督作となるダン・ギルロイ。

あらすじ

ロサンゼルスで夜な夜な町の金網やマンホールなどを盗んでは
鉄くず業者に売り飛ばして生計を立てていた男リーは、
たまたま高速道路で事故現場に遭遇する。
車を停めてレスキュー隊が運転手を救出する一部始終を眺めていたところ、
そこに一台のバンが現れ、中から2人の男がカメラ持参で降りてきた。
彼らは隊員の制止をふりきり現場を撮影して帰っていった。
そこで出会ったカメラマンのジョーから話を訊き興味を持ったリーは、
早速町で高級自転車を盗み、質屋でビデオカメラと警察無線傍受機を入手。
その晩、無線を傍受したリーは現場に急行して事故の模様をカメラで撮影。
その映像を手に地元ロサンゼルスのテレビ局KWLA6に飛び込み、
早朝のニュース番組のディレクター、ニーナに売り込んだ。
リーの映像を高く評価した彼女は早速その映像を購入。
それを機に、リーは映像パパラッチ
「ナイトクローラー」の世界に足を踏み入れるのだった。




「パパラッチ」という仕事が成立する理由



日本でも期首特番などで放送される警察の捜査に密着する番組や、
ニュースで流れる事故や事件の映像には当然ながら撮影者がいる。
日本の場合はテレビ局の報道部に所属していることが多いようだけど、
最近は素人がみんなデジカメやスマホで映像を撮影し、
それをリアルタイムでSNS上にアップできる時代。
そうして素人が撮影した映像をマスコミが買い取る、
もしくは使用許可を得るなんてことも茶飯事になりました。
まさに一億総パパラッチ時代となっている感がありますね。
それだけ多くの人が凄惨な事故や事件など、
非日常的な映像が見たいってことなんでしょうか。
そうした潜在的な欲求、怖いもの見たさが
本作の主人公のようなナイトクローラーの存在を
成立させているんだと感じます。




勤勉な者ほど道を意識して踏み外す



さて、本作の主人公リーはたまたまナイトクローラーという職業を知り、
自らの出世のために倫理観を軽々しく踏み越えていく。
ときには同業の起こした事故現場で瀕死の同業他者にカメラを向け、
より扇情的な映像を撮るために死体の位置を動かして事故現場を演出したり。
人を人とも思わない血も涙もない、まさにゲスの極みの所業なんだけど、
実は彼の行動をつぶさに見ていくと全くの怠け者ではないんですね。
例えば彼は家に帰るときちんと植木鉢に水をやったり、
着ているシャツを洗濯してアイロンまでかけていたりする。
そして警察無線から流れてくる情報を瞬時に理解するため
警察内でやりとりされる専門用語をネットで調べて覚えたり、
いち早く事故現場に到着するために街の道路事情、
どこで工事しているかなどをきちんと把握していたりする。
一方で、リーはニーナから受けた助言をきちんと受け止め、
彼女が望む映像を次々と納入していくことで次第に関係を強固にしていく。
そして彼の映像なしでは番組が成立しない状況を作り出すと
一気に自分の要望を押し通していく。
実は非常に勤勉で、しかも才覚もあるんですよ。
彼のような仕事に対してひたむきに努力できる人は少なくないですが、
その多くが正当に評価されることはむしろ少ないわけです。
「常識」や「倫理観」というものが自分の成功の障害として立ちはだかったとき、
時としてその壁を踏みつける者が成功を収めることがある。
というか、むしろその壁を逸脱しなければ成功しない場面は多いんですね。
本作の主人公のリーはまさにその壁を踏みつけて先に進む男。
この男、常識で考えればまさに「クズ野郎」なんですけど、
クライアントからの要望通りの仕事を誰よりも素早くこなして
悪魔的ともいえる人心掌握術の巧みさは、
ここまで徹底されるともはや清々しいくらいでした。




ジェイク・ギレンホールの「純朴さ」を逆手にとって



そんなアンチヒーローを演じたのがジェイク・ギレンホール。
日本ではあんまり知名度が高い方ではないですが、
映画ファンにはおなじみの演技派スターですね。
私が最初に観たのは「ムーンライト・マイル」っていう
ダスティン・ホフマンとスーザン・サランドン共演のドラマで、
発砲事件で娘を亡くした両親と娘の婚約者が
共に悲しみを乗り越えていく話なんだけど、
実はジェイク演じる婚約者にはある秘密があって・・・って話でした。
それから「ブロークバック・マウンテン」でゲイのカウボーイを演じたり、
最近だと「複製された男」で一人二役を演じたりしてました。
印象としては純朴な青年の役が多いような気がします。
しかし、本作では役作りでかなり体重を落として悪役に挑戦。
これが彼独特の大きな瞳をさらに大きく見せていて効果的なんですね。
それと普段から昼夜逆転の生活をしている男の不健康さと、
主人公が抱える心の闇みたいなものを見事に表現してる。
一方でリーと一蓮托生の立場に追い込まれる女性ディレクターにレネ・ルッソ。
個人的には80年代末から「メジャー・リーグ」でヒロインやってたり、
「リーサル・ウェポン3」とかトラボルタ主演の「ゲット・ショーティ」とか、
一時期ハリウッド映画で結構活躍していたイメージがあるんですが、
久しぶりに観た本作では年相応に年齢を重ねていて。
しかも成績の悪いテレビ局の報道番組の雇われディレクターという
非常に綱渡りのキャリアを積んでる苦労がにじみ出てて、
次第にリーに主導権を握られている姿がどんぴしゃでしたね。




「撮影者」が染まっていく孤独と狂気



さて、一昨年公開されたSF映画「クロニクル」の時にも指摘しましたが、
カメラマン、というか「撮影者」というのは孤独な立ち位置なんですね。
イベントなどの写真を見てると気づくんだけど、
自分も含めてみんなの楽しそうな姿は確認できるんだけど
それを撮影している人間の姿は当然ながら記録されていない。
私は学生時代に当時出始めのビデオカメラを持っていた関係で、
部活のイベントなんかではいつもみんなを撮影する立場でした。
当時はそれが楽しくて仕方がなかったのですが、
最近になって当時の映像を見る機会があって見直してみたら
あまりにも自分の存在感がなくてびっくりしたことがある。
自分が確かにその現場にいるのにもかかわらず、
ファインダー越しに現場を見ると途端に自分がその場にいない、
一歩引いた立場でその状況を客観視出来てしまうんですね。
「クロニクル」のときは、クライマックスのバトルシーンで
ビルの窓越しに彼らの戦いを見ていた人々が
みんなスマホを向けてその様子を撮影している点を指摘したんですが、
本作の主人公のリーがカメラ一丁で出世していく姿はまさに象徴的でして。
事故を起こして燃え盛る車や首から血を流して手当てを受けている被害者、
警察と犯人とのカーチェイスの一部始終を撮影していく彼は
まさに目の前の現実に対して距離感を感じている、
「自分はこいつらと違う世界にいる」と認識しているんですね。
元々社会の中で居場所がなく、盗品を売りさばいていた男が
カメラマンという、世の中と距離を取る仕事に就いたことで、
元々希薄だった倫理観のハードルがさらに低くなっていくんですね。
この次第に常識を逸脱していく怖さは彼だけの特性でなく、
カメラを持つ全ての者に無関係ではないと感じます。



倫理観を踏み越えて現場に突撃する彼がどうなっていくのか。
因果応報になるのか、それとも憎まれっ子は世にはばかるのか。
その結末は是非映画館で観ていただければ幸いです。
おススメです、是非是非!



[2015年8月30日 新宿シネマカリテ 1番スクリーン]




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