ベルギー生まれのフランス・ミステリ作家
スタニスラス=アンドレ・ステーマンの
『殺人者は21番地に住む』(1939)を
原作とする
アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの
監督デビュー作で
本国では1942年に公開された映画
『犯人は二十一番に住む』を
観てみました。

『犯人は21番に住む』
(熱帯美術館・発売、ポニーキャニオン・販売
 PCBE-54699、2014.12.2)

このDVD、中古で見つけたんですが
(新宿のディスクユニオンでした)
こんなものがDVDになってるのかと
びっくりしまして
もしかして『六死人』も?
と思って検索してみたら
過ぐる5月に単品で出ると
知ったのでした。

中古で買ってから
まあ、順番だからということで
『六人の最後の者』(1941)を
観終わるのを待って
観たわけですが
結果的にそれは正解。


ステーマンの原作には
シリーズ・キャラクターの一人
ヴェンス警視が登場せず
イギリスを舞台に
スコットランド・ヤードの
ストリックランド警視と
連続殺人鬼「スミス氏」
(映画では「デュラン氏」)との
知恵比べというか、攻防が描かれます。

ところが映画の方では
フランス(パリ)が舞台で
ヴェンス警視が出るだけでなく
例のw 愛人ミラ・マルまで登場し
『六人の最後の者』の続編であることを
非常に強く匂わしています。

当時の観客は
これはヴェンス警視シリーズの
続編だと思ったことでしょう。

日本公開は1948年12月で
『六人の最後の者』が
同年の9月ですから
日本の観客もそう思っただろうと
想像されます。

同じシリーズ・キャラクターを使って
観客を引き寄せようとするのは
常套手段ですから
それ自体はいいのですが
『犯人は21番に住む』だけ観ると
そういう同時代の
受け取られようが分からないので
近接してDVD化されたのは
実に幸いでした。


DVDのジャケ裏には
「クルーゾーのデビュー作は
 意外にもユーモア・ミステリー」
と書いてありますけど
今回、原作を再読してみたところ
実は原作にも
ユーモア・ミステリ的な要素は
それなりにあります。

ミラ・マルのキャラを登場させた
『六人の最後の者』の脚本を
クルーゾーが担当したことを考えれば
意外でも何でもない
と思ってましたが
原作自体にユーモアの要素があったので
割と忠実に
作品世界を映像化しているんだなあ
と感じた次第です。


映画は原作小説に比べ
キャラクターが
切り詰められてますけど
ほぼ原作通りの展開。

ヴェンスが牧師に変装して
21番地の下宿屋に乗り込み
ミラ・マルがそれを知って
あとから乗り込んで
ドタバタの展開になるあたり
ヴェンス・シリーズの映画としてみたら
原作以上の面白さかもしれません。


日本で原作が翻訳されたのは
1983年の12月で
今から20年以上前のこと。

『殺人者は21番地に住む』
(1939/三輪秀彦訳、創元推理文庫、1983.12.30)

上の創元推理文庫版が本邦初訳で
出た当時は
よくぞ出してくれたと
狂喜乱舞して読みましたが
読了後、これはズルいと
本を投げ出した記憶があります(苦笑)

今回、改めて読み直して
真相などは忘れてましたが
途中で、もしかしたらと
トリックに気づいた次第です。

その真相に
腹もたたなかったのは
いわゆる新本格ミステリ以降
何でもありの状況に馴れて
こちとらが
スレてしまったせいでしょう(笑)


原作では
ポーカー・ゲームをやって
同宿人が真相に気づくのですが
映画ではポーカーではなく
あるものに変えていて
それによってヴェンス警視や
ミラ・マルが気づくというふうに
変えられています。

ミラ・マルが気づくのは
唐突ですけど(苦笑)
このアレンジは
なるほど、という感じで
なかなか巧かったです。

原作では
女房の尻に敷かれる小市民キャラが
警察を差し置いて
真相に気づくというのが
面白かったんですが
(アントニイ・バークリーの小説に出てくる
 チタウィック氏を連想しました)
映画は映画で
いいんじゃないでしょうか。


原作に出てくる
ダイイング・メッセージの謎は
映像ではカットされてたのが
ちょっと残念。

とはいえ
テンポもいいですし(尺は83分)
1940年代の
モノクロ謎とき探偵映画としては
かなり出来がいいと思いますね。

『六人の最後の者』を観てからの方が
楽しめると思いますけど
単独で観ても、そこそこ楽しめます。

これはおすすめ。


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