『フィルム・ノワール
 ベスト・コレクション
 フランス映画篇
 DVD-BOX』vol.1 に
収録されている
スタニスラス=アンドレ・ステーマンの
『六死人』(1931)を原作とした
映画『六人の最後の者』(1941)を
観てみました。

フィルム・ノワール DVD-BOX フランス映画篇1 中味
(写真右下、Disc 5-8 の内 DISC 6:
 ブロードウェイ BWDM-1042-2
 2015.3.4)

これは面白かったです。


原作と犯人は同じなんですが
設定はかなり変えてあります。

6人の若者が
金持ちになるために
世界中に旅立つ
という始まりは同じですが
必ずしも全員が成功したわけではない。

原作では
ペルロンジュールだけが
落魄しているのですが
映画の方では
グリッブは詐欺師になって
警察の厄介になったことがあるし
ティニョルは
資産家の未亡人と結婚して
尻に敷かれている。


映画では
今はジョーという通り名のグリッブが
ヴェンス警視に
「仲間だったんだろ?」と言われ
「若い頃は 真の友人だった」
 昔 グリブという
 未来のある若者がいた
 そいつは死んだ
 ジョーの伝言です」
と言う場面があって
しみじみとしたものを感じさせます。

原作のティニョルは
リンドバーグに続いて
大陸横断飛行に成功した英雄として
フランスに帰ってくるのですが
これもかなり違う。

原作ではサンテールが詩人でしたが
映画ではティニョルの属性になっていて
かなりへなちょこな奴
という描かれ方をしてます。

サンテールが経営するクラブで
レビューを観ながら
妻の太腿を思い出す
と言うティニョルは
ペーソスあふれる可笑し味を
感じさせます。


そう、原作では
サンテールは
何かの事業で成功した
という描かれ方で
具体的に何で成功したのか
分かりませんでしたが
映画では
クラブの経営主になっている。

このクラブの出し物がすごい。

原作に登場するスペイン美人は
サンテールやペルロンジュールから
あがめられるヒロイン
という感じでしたが
映画では
ダカールで
射撃ショーの舞台に立っていた
という設定で
財産がなく
働く必要があるからという理由で
サンテールの店のステージに
立つことになります。

その射撃ショーの描写が
何だこれ、というくらい
すごいというか
イカレてました(苦笑)

大理石像を模したと思しい
トップレスの裸の女性が
何人も並んでいて
女性たちが持っているバルーンを
拳銃で射つというシーンや
噴水の上に断っている女性の足許を射ち
落ちた美女が客の手許の
シャンパン・グラスの上で踊る
というシーンがあります。

光学トリックのショーなのか
スクリーン上だけのお遊びなのか
まったく意味不明。


ちなみにこのころのフランスは
ナチス・ドイツに占領されていた頃です。

そんな時期によくあんな退廃的な
(といっても今の基準からすれば
 普通かもしれませんけど)
ステージ・シーンを撮れたなあと
それだけでもびっくり。


映画の監督は
ジョルジュ・ラコンブで
この人については
自分はあまり知りませんが
脚本で
アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが
関わっています。

クルーゾーは
『悪魔のような女』(1955年公開)で
ミステリ映画ファンに
鮮烈な印象を残している監督ですが
実は『六人の最後の者』のあと
監督として
ステーマンの原作を
2回、映画にしていています。

映画監督デビュー作は
ステーマン原作の
『犯人は21番に住む』(1942年公開)で
これも最近、DVDになっています。

実は次に観る予定で
今から観るのが楽しみ。o(^-^)o


それはともかく
『六人の最後の者』での
クルーゾーの台詞廻しは
実に楽しいというか
ユーモアにあふれているもので
これにも驚かされました。

特にヴェンス警視の台詞が軽妙で
「私は気は長いが××だ」という
(××には、「図々しい」「慎重なたち」
 「緻密なたち」など、いろいろ入ります)
決まり文句の使い回しが
最高にウケました。


原作と違い
ヴェンス警視には
シュジ・ドレール演じる
クラブ歌手志望の
ミラ・マル Mila Malou という愛人がいて
サンテールのクラブで歌うため
オーデションに行くけれども
落とされるというシーンが
冒頭に出てきます。

この愛人がまた
なんでヴェンスの愛人なの
というくらいの
軽薄でおしゃべりなキャラで
それも本作品の
ユーモラスな印象に
与っています。

男女のコンビ探偵もの
たとえば
『影なき男』(1934年公開)
のような映画の
影響なんでしょうか。


これは
むしろ原作を読んでいる方に
おススメしたくなる
作品でした。

以下にバラ売り商品の
ジャケ写を貼り付けておきます。

フィルム・ノワール フランス映画篇
六人の最後の者 [DVD]

¥3,024
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●訂正(翌日0:40ごろの)

ある理由により
1箇所、表現を改め
さらに2行削りました。

理由は
原作を読んでいただけると
分かるかと思います。

ミステリの紹介は難しい……