『夢の中 悪夢の中』初版&文庫版
(右:主婦と生活社
   エメラルド コミックス、1992.5.15
 左:白泉社文庫、2011.9.20)

『総特集 三原順
 少女マンガ界のはみだしっ子』
を買って
既刊書籍一覧を見たときに
えーっ! 文庫化されてたのかっ!!
と驚かされた一冊です。

近所の書店だと、文庫の新刊は
なかなかチェックしづらいし
自分自身
文庫の新刊はあまりチェックしない
ということもあり
見逃してました。(´_`。)

上に書いた刊行年月日でも分かる通り
文庫版が出たのは、もう4年前ですから
今さらオビ付きは見つからないだろうなあ
と半ば諦めつつ
それでも先日、塾の会議前に
あおい書店・横浜店に寄ったら
ありましたーっ!!! о(ж>▽<)y ☆

さすがにオビ背は焼けていましたが
希望通りの初版オビ付きを見つけて
舞い上がっています。

すみません、
初版オビ付きフェチなもので。(^^ゞ


これが白泉社文庫の19冊目で
先日紹介した『LAST PIECE』が20冊目。

『LAST PIECE』が
未収録作品の総ざらえで
前にも書いた通り
『別冊花とゆめ』用の
その雑誌に収録された作品間をつなぐ
ブリッジまで入りましたから
白泉社文庫で揃えれば
実に堂々たる全集となるのでした。

没後20周年企画の一貫で
今まで刊行された文庫版の装幀が改まり
デザイン的に統一されましたから
その新しいので買った方が
「全集」という感じは更に増すのですが
自分は初版オビ付き本フェチなので
とりあえずはこれでいいのです。

新装版のオビ付きを揃いで見つけたら
買ってしまいそうで怖いのだけれど……(^▽^;)


初版は上にも書いた通り
主婦と生活社から
エメラルド コミックスの一冊として
1992年5月に刊行されました。

ちなみにこちらは出た時から
オビは付いてませんでした。

少なくともウチの本にはないです。

出たとき買って読んでいるのですが
もちろん(もちろん?)
内容は覚えていません。

そこで今回、文庫本で
改めて読み返してみたのですが
改めて完成度の高さに
感心させられました。


全4編中最初の3編は
ミステリ以外の何ものでもない。

ですが冒頭に収められた表題作は
ミステリであるだけでなく
家族の中での異端児である孤独感が
痛切に伝わってきます。

それは、主人公が家族の中で唯一
本好きだという設定に
惹かれているからかもしれませんが
たとえ読み手の共感を得られる
被害者的立場であっても
だから絶対的に善である
ということにはならないあたりの
安直に読み手を安心させないところが
実に実に、すばらしい。

でも、最後のオチは
主人公のエゴイズムを笑いたいのか
主人公の絶望を強調したいのか。

その解釈は
読み手によって変わりそうですね。


今回、表題作を読んで
特に凄いと思ったのは
文庫版 pp.53-54 の
主人公と長兄との会話。

これは、主人公の反抗が
独りよがりな空回りだったと
いいたいのか
それとも
人は善意によって振舞うとき
最もファシストになると
いいたいのか。

読んでいたときは
家族だからこその善意のファシズムに
おぞ気をふるったんですが
(ちょっと状況は違いますが
 「バイバイ行進曲」の
 グレアムの父親を連想しました)
視点を変えれば
主人公の空回りのようにも
読めなくもない。

うーん。( ̄ー ̄;


こういう読み(解釈)の迷いを
誘発させることを
描き手も意識していたんじゃないか
と思わせるのが
pp.45-47 の
主人公と
後にその夫となる男性との間で交わされた
やりとりです。

このときの本が
エリ・ヴィーゼルの小説で
『夜』に始まる三部作だということは
前掲『総特集 三原順』掲載の
立野昧「三原順さんの愛読書」を読み
初めて知った次第です。


「ベンジャミンを追って」は
緘黙症児をテーマにしているというより
社会や大人の理不尽さ、身勝手さを
描いているようにも読めますが
何よりも、良質の海外ミステリ短編を
読み終えたような読後感が素晴しい。

「彼女に翼を」は
これもまた
まったくのエンタテインメントで
富豪の娘の顔を最後まで描かない
という点も含めて
技巧の冴えだけで仕上げている
(感じがする)ところが
すばらしい。

ジャック・リッチーや
ヘンリイ・スレッサーなど
60年代に人気のあった
作家たちの作品を
彷彿させる出来映え。


最後に収められた
「帽子物語」にしたところで
ミステリでこそ、ないものの
60年代の『ミステリマガジン』に載っても
まったく違和感のない話に仕上がってます。

軽妙でユーモラスで
そしてちょっぴりスパイスのある作品。


ちなみに、文庫版ではなぜか
タイトルページのタイトル文字が
すべて省略されています。

ちょうどアニメDVDに
特典映像として収録されている
ノンテロップOP・ED
のような感じ。

「寛恕に翼を」と「帽子物語」は
あきらかに既存のものではない
オリジナルなデザイン文字だと思うんですが
そういう類いのタイトル文字まで
カットしてもいいのかと
思うんですけどね。

既存のフォントを使っていても
配置などに作歌性は出るはずですから
カットするのはおかしいと思うんですけど。


巻末には、解説ではなく
全作品リストが載ってます。

これは、画集など
企画本の一部を除いた
本当に本当の全作品リストで
収録単行本リストも付いているので
文庫版全集の索引代わりにもなります。

このリストで
単行本未収録作品になっているものが
『LAST PIECE』に収められたわけです。


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