
(白泉社文庫、2015.3.18)
『総特集 三原順
少女マンガ界のはみだしっ子』
を読んだ時に
今年になって白泉社文庫から
刊行されていたことを知らされて
あわてて購入しました。
『はみだしっ子全[オール]コレクション』
(白泉社、1982年5月刊)と
『三原順秘蔵作品集 LOST AND FOUND』
(主婦と生活社、2002年12月刊)という
2冊の本に収録された
11作品を収めた作品集です。
『はみだしっ子全コレクション』は
本が出た当時に買っているので
そちらに収録(再録)された作品は
読んでいる(し、読める)のですが
『三原順秘蔵作品集 LOST AND FOUND』は
出ていることすら知らなかったので
当然、買ってもおらず。
今回の『LAST PIECE』には
『LOST AND FOUND』に再録された作品が
収められているということで
非常にありがたいですね。
(ちなみに現在は、上の2冊とも
復刊ドットコムから再刊されています)
パロディ特集のために描かれた
「オロロンふたりワルのり」(1976)や
『ルーとソロモン』シリーズの
コミックス未収録の番外2編(1977、78)
そして「今夜は鳥肉」(1979)
「私のアベルへ」(1992)といった
短編ミステリ的な作品を除けば
70年代に発表されたものは、いずれも
理解されない悲しみ、望まれない悲しみ
をテーマとしていることに
いやでも気づかされます。
どれも
『はみだしっ子』シリーズにつながる
といえなくもありませんが
作品によっては
たった一人の人間が信じてくれる
受け入れてくれるというだけで
主人公に安らぎが訪れる話になっている。
簡単に、ハッピー・エンドに
なってしまっている。
短いから仕方がないんだけれど
今の視点で読むと
主人公の感情の起伏が激しかったり
すぐに反省したり
相手が反省してくれたりといった具合で
解決の安易さが鼻につく感じは
やっぱり否めない気がします。
それらの中では
荒削りながら
「26回目の小旅行」(執筆年不詳)が
興味深かったです。
最後、病院から抜け出せば
まんま、『はみだしっ子』になりますし。
そしてもうひとつ
作品の完成度では数段優れている
「待合室のロビン」(1976)が
読みごたえがありました。
こちらは
主人公の内面の葛藤がメインで
それを外部に出さないだけでなく
ディスコミュニケーションな状況でも
実をとるという主人公の考え方が
『はみだしっ子』時代のキャラクターを
連想させるものがありました。
最後までヒロインと心が通わない
というバッド・エンドと
それを示す最終ページと
ラストのコマのすごさは
絶品です。
分かってくれないなら、くれなくてもいい
という、強がりというか負け惜しみというか
そういう感情を持つ主人公に対して
善意の友人や一部の大人は
何も言わなくても分かってくれる
そして、分かってくれない人は
こちらからお断り、というのが
『はみだしっ子』4人組の
初期のありようだったと考えられます。
「待合室のロビン」の主人公は
そういう、分かってくれる人がいない
という状況にいるわけで
タイトルの「待合室」が
ロビンの置かれた状況
分かってくれる人を待っている状況を
象徴しているわけでしょうね。
そして、そういう状況に
主人公は自分で自分を追い込んでいる
と、描き手は考えて、突き放している
ともいえそうな感じがする
ラストなのでした。
「オロロンふたりワルのり」は
赤座ひではるの『チリリンふたりのり』の
パロディだそうですが
赤座作品が記憶にないので
ストーカー的な女性に悩まされる
男の子の話というふうに読めてしまうし
(視点人物は女の子の方ですが)
最後のオチもかなりブラック。
狙いとしては
ギャグなんでしょうけど
読みようによっては
「今夜は鳥肉」や
「私のアベルへ」にも似た
異色作家短篇系の話にも
感じられてきます。
赤座ひではるの方は
「はみだしっ娘」という
パロディを描いたそうですが
これは読んでみたいなあ。
「今夜は鳥肉」と
「私のアベルへ」は
こちらの理解力に挑んでくるかのような
何とも分かりにくい話でした。
それでも「私のアベルへ」は
まだ腑に落ちる読み(解釈)が
できそうな気はしますが
「今夜は鳥肉」は
こういう読みでいいのかなあ
という気にさせられる話でした。
伯父や執事(?)のフランクの正体が
今イチはっきりしないと思うので
読み(解釈)が確定できないのです。
『ムーン・ライティング』ネタの
前哨戦みたいなもの
ということでいいのかしら?
巻末には
「はみだしっ子拾遺 pieces」
と題して
『別冊花とゆめ』で
グレアム、アンジー、
サーニン、マックス
それぞれの特集が組まれ
既刊コミックスの収録作品が
コミックスの収録順とは
違う形で再録された際に
各作品をつなぐ
ブリッジとして描かれたものが
資料として収録されています。
あと、
長期連載化が決まって
第1話と第2話の最終ページが
コミックス収録の際
描きなおされることになったそうで
その描きなおされる前のオリジナル版が
今回の本に収録されました。
初出時は、4人が大人になった姿が
(といってもハイティーンぐらいですが)
描かれていましたが
長期連載化にあたり
ストーリーの進行とともに成長する
というふうにしたかったので
描きなおされたのだそうです。
先のブリッジにしても
第1話と第2話のラスト・ページにしても
初めて見ました。
これはすごいです。
前にも書いた通り
『没後20周年 三原 順復活祭』の
展示替えの第3期はサーニン特集です。
グレアムのファンなので
どうせならグレアムの方が良かったのに
と思わないでもなかったのですが
サーニン特集のディスプレイを見ていて
ひとつ、おやっと思い
ニヤッとしたことがありました。
「裏切者」という作品は
2回完結のところ、2回で終えられず
3回で完結したそうですが
後編のあとに告知された
次回の予告のコマ(のコピー)が
展示されていて
「完結編」ではなく
「解決編」となっていると
パネルで説明されていました。
もちろんこれは
初出で読んでいなかった自分は
まったく知らなかったことで
競馬ミステリっぽい話だっただけに
上記のパネル説明を読んで
ニヤニヤさせられたのでした。
『LAST PIECE』の
「はみだしっ子拾遺 pieces」を読んでいて
ふと上のことを思い出し
前の記事で書き忘れていたので
忘れないうちに記しておく次第です。
あと、第3期の展示替え内容は
サーニン特集だけでなく
『ルーとソロモン』『ムーンライティング』
『Sons』の原画が飾られるのも
全4期の中で今期だけだったようです。
これも前の記事で
不正確な書き方をしていたので
補足しておきます。
展示替えの詳しい内容は
『総特集 三原順
少女マンガ界のはみだしっ子』の
巻末ページに詳しいので
気になる方はそちらでご確認ください。
というわけで、
ちょっと長くなっちゃいました。
深謝です。m(u_u)m
