腰まで泥まみれ | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

腰まで泥まみれ フォーク・ゲリラに関連して1969年当時の資料をぱらぱらと見ていると、フォーク黎明期における中川五郎の存在の大きさに驚かされる。当時ゲリラ達に歌われたレパートリーを見ても、「主婦のブルース」「古いヨーロッパでは」「うた」など、彼の歌無しに集会は成立しないのでは、と思えるほどだ。(定番の「機動隊ブルース」も、中川作「受験生ブルース」の替え歌だった。)

 

ぼくが一番好きなのは、ピート・シーガーのナンバーに秀逸な訳詩を付けた「腰まで泥まみれ」だ。
軍隊の演習中、隊長が「河を歩いて渡れ」と命令する。腰まで泥に浸かりながら進む隊列。軍曹が「危ないから引き返そう」と進言するも、隊長は聞き入れず、深みにはまって溺れ死ぬ。

 

 ♪ 裸になって水にもぐり 死体を見つけた
    泥にまみれた隊長は きっと知らなかったのだ
    前に渡ったときよりも ずっと深くなっていたのを
    ぼくらは泥沼からぬけだした
    「進め!」と言われたが

 

 ♪ でも新聞読むたびよみがえるのは あの時の気持ち
    ぼくらは 腰まで泥まみれ
    だがバカは叫ぶ「進め!」
    ぼくらは 腰まで 首まで やがてみんな泥まみれ
    だがバカは叫ぶ「進め!」

 

発表後40年近く経った今も、この歌はより鋭い切っ先となって、ぼくの胸に突き刺さる。
“テロとの戦い”に、“東京オリンピック招致”に、バカは叫ぶ、「進め!」。
そして、巧妙に牙を抜かれたぼくらは、泥にはまって溺れ死ぬまで、従順に河を歩き続けるのだ。

 

中川五郎は、歌を創る能力には長けていたが、シンガーとしては決定的な“何か”が欠けていた。
その代わり、ぼくらは、最も信頼に足る「訳詩家」を得ることができたのだから、
彼がディランのように歌えなかったことを、むしろ喜ぶべきなのかもしれない。

フォークゲリラを知ってるかい? その5

 


中川五郎