手術か、血管内治療か? 未破裂脳動脈瘤について④ 再編版 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

さて、


このシリーズも四回目にもなってしまいました。




今回は治療の話です。


動脈瘤の治療といえば、もうご存知かもしれませんが、


二つの手段があります。




一つは、


手術による動脈瘤クリッピングです↓




ある脳外科医のダークなぼやき




もう一つは、これも手術といえば手術ですが、


血管内治療によるコイル塞栓術です↓




ある脳外科医のダークなぼやき


この二つの画像はわれらが脳神経外科学会から借りてきました。失礼します。




前にもちょっと書きましたが、


クリッピングは1937年からある伝統的な治療法です。





確実性も高く、たとえば破裂した動脈瘤にクリッピングを行ったとき、


その部位が再破裂する確率は年0.0015~0.0081%という報告もあります。





この数字を見るからにはほとんどゼロと考えてもいい数字ですね。




ただ、実際には他の場所に動脈瘤ができることもあるので、


もう術後にくも膜下出血の心配がゼロかというとそうではありません。




正式名は


開頭動脈瘤ネッククリッピング術といって、頭の骨をあけた状態で直視下に動脈瘤に到達し、


金属製のクリップで動脈瘤をつぶす治療です。




もう一方のコイル塞栓術は1992年にデバイスが開発されてから始まった治療ですので、


比較的日の浅い、ある意味では先端の治療法です。




血管内に細いマイクロカテーテルを進めて、


その先端を動脈瘤の入り口に到達させます。




そしてコイルを何本も出して、動脈瘤の内部にコイルを巻きこむ形で詰めていきます。


動脈瘤への血流を内部から遮断するのです。




なんとも画期的!


しかもクリッピングみたいに開頭しないので傷もないし、


すぐに退院できるし、患者さんにも優しい!




と、


素晴らしい治療法なんです。




しかし、ちゃんとデメリットもあります




もっとも恐ろしいデメリットは、失敗した際にリカバリーがきかないということです。


失敗にもいろいろありますが、


リカバリーがきかない恐ろしい失敗というのは、動脈瘤の破裂です。




破裂するということはくも膜下出血ということになるわけですが、


そうなると手術とは異なり、目の前に動脈瘤があるわけではないので、


すぐには、外からは手の施しようがありません。





血管内から血流をとめて、そのままコイルで詰めて止血!


なんてことも出来るときもあるらしいですけれど、




動脈瘤破裂による出血が酷いと、


そのまま亡くなることも少なくないのです。




あとは、


内部からコイルで詰める方法ですので、


動脈瘤が大きすぎたり、逆に小さすぎたり、入口が大きかったりすると


基本的にはコイルには向きません。




特に、動脈瘤から血管の枝が分枝しているような動脈瘤ではコイル塞栓はできません。




他にも術後に詰めたはずのコイルが縮まるコンパクションという現象によって、


詰めたはずのコイルが縮まって動脈瘤が再び大きくなってしまったり、


いろいろ不具合は起こります。




また、なにせ新しい技術なので、


数十年後にまで大丈夫かどうかは誰にもわかりません。




一方で、クリッピングの場合、


頭の皮膚を切って、頭蓋骨にドリルで穴をあけ、頭蓋骨を切り、


硬膜を切って脳に到達します。


そして動脈瘤に到達し、外側からクリップをかけることによって、


動脈瘤をつぶすのです。




なので、傷は大きく、手術時間も長いです。


術後の傷の痛みも強いですし、当然入院期間も長くなります。





しかし、


トラブルに対応しやすく、応用がきくというメリットがあります。





また、


ある高名な脳外科医の言葉を借りれば、


「血管形成性にクリップをかける」 ことによって、ある程度様々な形の動脈瘤の治療が行えます。


複数のクリップを組み合わせて、大きな動脈瘤にも対応は可能です。




この二つの異なる治療ですが、


動脈瘤の場所によって、どちらが向いているかが分かれます。




一般的にクリッピングが大変な場所、


つまりは脳の下の方の動脈瘤はコイルの方がやりやすいですし、


逆に脳の表面近くの動脈瘤は血管内からは遠く、一方で手術によるアプローチはしやすいです。




双方とも得意あり、不得意あり、様々な違いがありますが、


どちらも有用な治療法です。




なんとなくイメージはつかんでいただいたかもしれません。




なんとなく、我々脳外科医には


コイルの方が侵襲が少ない一方、失敗時のリスクが大きい。


クリッピングは侵襲が大きいけれど、確実。




のイメージがあります。




さて、


実際の安全度や成功率などはどうなのでしょうか?





次回に続きます。




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