今回は救急外来で働いたことのある医師であれば、
誰しも、とまではいかないまでも、比較的経験のある話。
救急診療、脳卒中診療の思わぬ落とし穴の一つを紹介します。
たとえば、
「半身麻痺と意識障害」という救急隊からの触れ込みで患者が運ばれて来れば、
医療に携わる人間であればだれもが脳卒中をイメージします。
こういった場合、
脳出血か、もしくは意識が障害される程の重症の脳梗塞か、
この二つをまず考えるでしょう。
事実、多くの患者はそのどちらかの診断に落ち着きます。
他にも麻痺を起こす病気の例としては、
頸髄の損傷なども有り得るのですが、
これは外傷なしでは急に起きるとは考えにくいです。
実際に、
こういった患者を前にして医師が診察の後にまず思い浮かぶ検査は頭部のCTです。
頭部CTを行えば脳出血を見つけることができますからね。
しかし、そう思ってCTを行ってみたものの、頭部CTでは特に脳出血が見当たらなかった。
そうすると、「あれ、脳梗塞かな?」なんて考えるわけです。
脳梗塞の場合、かなり大きなものであればCTでもわかることもありますが、
基本的にはCTだけで確認するのは難しいです。
そこで、何をするか?というと、MRIです。
MRIを行えば発症後すぐの脳梗塞を確認することができますからね。
しかし、今回のキーはここです。
ここで焦ってMRIに行ってはいけないのです。
その前にやらなければいけない事があります。
それはなんでしょうか?
医師であれば誰でも分かっていなければいけないこと。
そして、救急診療を行う病院であれば必ず行わなければいけない検査があります。
それは、血糖のチェックです。
特に持病に糖尿病があり、血糖降下薬を飲んでいる患者の場合では、
必ず先にこれをチェックしなければいけません。
なぜか?
それは、低血糖が意識障害や麻痺を起こすからです。
低血糖状態になるとまずは空腹感が起き、
その後血糖がさらに下がればめまい、発汗、動悸が起こります。
そして更には意識がもうろうとし、昏睡状態となることはよく知られていることです。
しかし、半身麻痺を起こしうる事はあまり一般的な知識ではないでしょう。
低血糖となると、脳が使うことのできるエネルギー源のブドウ糖が枯渇することになるので、
もともと血流が十分でなかった脳の領域がある場合は、脳梗塞様の症状を起こすこともあり得るのです。
この場合、
点滴でブドウ糖を注射すればみるみるうちに意識状態は改善し、
そして麻痺もよくなります。
もし血糖検査を怠ってそのままMRIに行ってしまったらどうなるか?
MRIは10分から20分程度時間のかかる検査ですから、
その間ブドウ糖の投与による治療が遅れてしまいます。
しかもMRIを行ったところで、低血糖の場合は脳梗塞は見つからず診断がつかないわけですから、
そこで低血糖に気づくまで診療がストップしてしまいます。
だからこそ、
必ず意識障害の患者の場合はルーチンでまず血糖を検査しなければならないのですね。
繰り返しになりますが、
特に糖尿病が持病にあり、血糖降下薬を飲んでいる場合にはまず第一に低血糖を除外する必要があります。
SU剤という血糖降下薬を飲んでいる場合には特に注意が必要ですね。
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