ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


テーマ:

しばらく、ブログの更新をできずにいたら、

いつのまにかアメーバのブログ編集ページが大きく模様替えされて、

どこから記事を書けばいいのかがわかりませんでした。

 

しばらくさぼってしまったなぁ、と

なんだか申し訳ない気持ちでおります。

 

さて、今回は転移性脳腫瘍について書こうと思います。

 

というのも、

脳にできる腫瘍の中で一番頻度が高い物はこの転移性脳腫瘍だからです。

 

もちろん、脳原発の腫瘍でいったら、

グリオーマと髄膜腫が多いというのは、脳外科の専門医試験などで脳神経外科医が覚えることですが、

脳原発と限らなければ、どう考えても転移性脳腫瘍が一番多く、

これからはさらに数が増えていくものと思います。

 

そういう意味で、

誰もがかかる可能性が高い脳腫瘍はどれかというと、

転移性脳腫瘍であって、この治療というのは非常に重要なんですね。

 

ただ、ひとえに転移性脳腫瘍といっても、

体中にできる可能性のある様々な腫瘍が脳への転移の可能性を持っているわけですから、

その治療も本来様々です。

 

だから、ここでは、抗がん剤や原発への手術治療など、

それぞれの腫瘍に特有の治療ではなく、転移性脳腫瘍に共通した脳に対する治療の方針を書きます。

 

まず、転移性脳腫瘍に対して、

もっとも一般的な治療というのは放射線治療です。

 

それも腫瘍部位を狙い撃ちできる、

定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)がもはや基本と言えるでしょう。

 

手術でとらなくていいんですか?

というご意見もあると思いますが、手術が必要なのは腫瘍のサイズが大きくて定位放射線治療ができない場合と、あとは原発の腫瘍がわからず、診断をつけたい場合などに限られます。

 

やはり手術をするとなると全身麻酔による肺炎などのリスク、傷ができることによる体の負担など、体への負担が小さくはありませんので、

特に原発の腫瘍への抗がん剤治療などで体力が低下している患者さんにとっては避けたいものです。

 

ただ、転移性脳腫瘍が大きい場合には(一般に10cc以上、もしくは直径3cm以上)、

定位放射線治療においても周囲の脳の被ばくが多くなってしまうので、

手術で取ったほうがいいこともあるにはあります。

 

ただ、これ以下のサイズの腫瘍に対しては、

最近はまあ、何らかの理由がない限りは頭を開くことは相当減っているでしょう。

 

じゃあ、その定位放射線治療というので治るの?

ということですが、

 

細かなデータは割愛して、実際の感覚として、

10個に9個以上、つまり、ほとんどの転移性脳腫瘍は定位放射線が効きます。

 

しぼみ、しばらくして消える、というのが多いです。

 

たまに、一回放射線をあてても消えず、

何回か再治療して消えないようなしつこいものもありますが、

こういったものはそもそも大きな腫瘍であることも多いので、全身状態が許すのであれば、

手術でとってしまったほうがよいです。

 

ただ、このときも本当に腫瘍があるのか、それとも画像上腫瘍みたいに見える放射線壊死なのか?というような問題もありますので、見極めが大切なこともあります。

 

とにもかくにも、

だいたいの転移性脳腫瘍は、小さなものであれば、

この定位放射線治療で消えるんです。

 

つまり理論上、

ぽちぽちと、脳に現れる転移がゆっくりとたまに出てくるようであれば、

モグラたたきのように、出たものをやっつける、という形で、

手術をしなくてもコントロールがつきます。

 

ですから、多くの場合、

転移性脳腫瘍がどうにもコントロールがつかなくて、ということは恐らく、

一般の人が脳転移に抱くイメージほどは多くはありません。

 

転移がみつかったと思ったら、脳のあちこちに数十か所できていて、叩いても叩いてもキリがない、もしくは髄液や脳の表面に沿って広がってしまってうまく定位放射線では治療できない、というようなケースばかり、ではないのです。

 

もちろん、こういうケースはそもそも定位放射線治療には回ってこず、

全脳照射ということになりますから、そもそも脳外科にはかかわらないことが多いということもあるとは思います。

 

ただ、数か所の脳転移であれば、多くは定位放射線で消すことができることが多いです。

 

よって、なんらかの腫瘍に対する治療を受けている患者さんが、

たとえば脳転移がみつかったとしても、通常、それだけでこの世の終わりのように感じる必要はありません。

 

治療がまにあう範囲の個数であれば、定位放射線で消し切ることも十分に考えられます。

 

結局、非常に脳に多発している場合などをのぞいて、

多くの場合、問題なのは脳に転移したということではないのです。

 

むしろ問題なのは、脳に転移しているということは、体の他の場所にも転移しているかもしれないということです。

 

実際に脳転移の原発の腫瘍というと、

圧倒的に多いのが肺がん、次いで乳がん、他は大腸がんや腎がん、など、という印象ですが、

 

肺がんや乳がんなどは骨や肝臓など他にも転移していることが多いのです。

原発巣に加えて、これらの全身の転移のコントロールがつくかどうかということが、最終的には大きな問題となってくることが多いのです。

 

脳転移の場合、放射線で治療しやすい理由があります。

それは、固い頭蓋骨に覆われていて、ほとんど動かないということです。

 

これが体や腹部の臓器となるとそうはいきません。

呼吸で動いてしまう上に、やわらかくて装置に固定することが難しいのです。

 

だから、

脳への転移性腫瘍というものは、逆にもっとも放射線で狙い撃ちしやすい転移ともいえるんです。

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オブジーボ(一般名:二ボルマブ)という薬をご存知でしょうか?

小野薬品とブリストルマイヤーズが発売した抗がん剤です。
免疫チェックポイント阻害薬という部類の薬剤です。

この薬のことはもう至る所で話題になって久しく、
知っている方も多いでしょう。

皮膚がんや肺がん、腎臓がんに適応が拡大され、
そういった病気で苦しんでいる方にとっては希望の薬でもあると思います。

インターネットで「オブジーボ」と検索すると、
非常にたくさんの記事がヒットすると思います。

詳しくはそれらの記事を読んでほしいのですが、
かいつまんでポイントを2つ挙げると

これが日本で生まれたといってもいい治療薬であるということと、
その機序が人間の免疫を生かした画期的なものであるということです。


Programmed Deathの略として、
PD-1と名付けられた遺伝子、タンパク質がこの治療薬のターゲットです。

これを最初に見つけたのは当時京都大学の大学院生だった石田先生であり、
そのPD-1が免疫の働きをつかさどることを発見したのが京都大学名誉教授の本庶先生です。

このPD-1は免疫細胞(T細胞)が体内で敵を攻撃する際に、
その働きが強すぎることがないように抑える役割をもっているのですが、

がん細胞はこのPD-1を悪用して、自らがT細胞の攻撃を逃れようとします。

そこで、このPD-1の機能を抑えることで、T細胞ががん細胞を攻撃しやすくしたのが、
抗PD-1抗体、オブジーボです。

もちろん、
誰にでも効くわけではなく、逆に免疫反応による副作用もあるなど、
夢の治療薬というわけにはいきませんが、

これまでの抗がん剤とは全く異なる、免疫を利用するという作用機序であることから、
第三の選択肢として大きく期待が寄せられています。


オブジーボ以外にも、
現在多くのPD-1阻害薬が研究されていますし、

少し作用機序は異なりますが同様に免疫を利用する、
ヤーボイ(CTLA-4阻害薬)という薬も既にあります。

他のアプローチからの免疫療法という意味では、
これも聞きなれない言葉になるかもしれませんが、
樹状細胞ワクチンや、ペプチドワクチン、キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)など、
今回取り上げた免疫チェックポイント阻害薬の他の治療法も研究されています。

がん治療はますます今後も進化していくでしょう。

国民の3人に1人ががんになると言われていますので、
これは心強いかぎりです。

しかしながら、
問題もあります。


それはこれらの治療法がまだ未完で、
効果が一定しない、というようなことだけではなく、

費用の問題です。

たとえばオブジーボ、
この抗がん剤の値段は毎月あたりいくらくらいと思いますか?

有名な話ですが、
メラノーマに対する治療の場合で、100万円をこえます。

年間で1500万円程度の費用が、
オブジーボだけでかかるのです。


年間の治療にそんな金額払えるわけがないと思いますよね。

しかし、日本には国民皆保険と、
高額医療費制度があるので、

平均的な収入の人でも月に10万円+α程度の負担で、この治療をうけることができます。

つまり、
この治療ををに加えて、がん治療に関連するどんな治療を受けたとしても、
患者の負担は一定になるということですね。

10万円+αであれば、オブジーボの薬代だけを考えたとしても10分の1以下になります。

なーんだ、ならよかった!
とも思うでしょうが、そう手放しで喜んでいいというわけでもありません。

なぜなら、残りの額は税金から支払われるわけで、
つまりは国民全員で負担することになるからです。

ものすごく乱暴な計算でわかりやすく説明すると、

たとえばこの薬が全てのがんに使えるとした場合、
3人に1人ががんになるとすると、

1人が1年間分のオブジーボ治療(1500万円としたとき)を受ける費用をまかなうには、
1人あたり500万円を負担するということです。

がんになった人が1年間分必ずオブジーボを使うとすると、
国民全員が500万円を支払う、というわけです。

この薬の治療だけで全員が医療費500万円なんて支払えますかね?
おそらく、無理でしょう。。。

まあ、この計算は乱暴すぎますよね。

実際に有識者の検討としてはどうなのかというと

現在日本では適応はメラノーマという悪性の皮膚がんと肺がんなのですが、
統計を調べてみると、肺がんだけで全がんの1/7程度の数になります。

そうすると、
肺がん患者約5万人がこのオブジーボを使うと見込む試算があります。

しかも、肺がんについてはメラノーマよりも多くの薬の量が必要になりますから、
1人あたり、年間3000万円強の費用を要します。

その結果どうなるかというと、
このオブジーボ1剤だけで1兆7500億円が必要になるとされています。


年間でおおよそ、納税義務のある国民1人あたりにすると2万円程度でしょうか?

肺がん治療という医療の一部、
さらにそのうちの抗がん剤の一剤だけでこの金額というのは、
異例中の異例のようです。

すでに限界一杯の医療費を、
一剤だけで2兆弱も増やしてしまっては、
日本の医療制度が危うくなるという議論がおきるのは当然ですね。

それでも、今回のこのオブジーボの薬価をみていると、
今後こういった新規の薬剤が日本の医療費と、そのシステムに限界を突きつけるのではないか?
と思ってしまいます。

こういった高価で新しい治療薬というのは今後も増え続けると思いますが、
それを保険適応のある患者さん全員に使う、というのは難しいのかもしれません。

日本の薬価制度の仕組み自体が、
効果が高く価格も極めて高い薬に対応できていないという話もあります。

世界では、
当然のようにお金のある人しか受けられない治療なのですが、

日本もそうならざるをえないのかどうか、
今後の動向が気になります


一部の医師にこういった薬剤を処方する権限を与えるというような意見もありますが、
そういったシステムにすれば、
製薬会社との癒着、医師への患者からの賄賂などが横行するのは目に見えています。

なかなか、難しいものですね。


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外科医の世界にはライブ手術というものがあります。

これは大抵、セミナーや学会など、
多くの外科医が集まる中で、
主催するエキスパートの外科医が実際にライブで手術を行い、
その技術やノウハウを披露するというものです

正直、
見に行く側としては、これは最も勉強になります。

それもそのはず、その道を極めた外科医の手技が目の前でリアルタイムに見れるのですから、
教科書などで学ぶのとは段違いです。
まさに、百聞は一見にしかず、実際にどうやっているのかを見るのが一番、身になるのですね。

技術を伝えるという意味では、
これほど効果的な形はありません。

そういった意味で、
外科医の全体的なレベルアップという意味では、
非常に素晴らしい企画であると思いますし、是非、今後も発展してほしいものです。

しかしながら、
いいことばかりかというと、必ずしもそうではありません


誰にとっていいことばかりではないかというと、
それはもちろん、患者さんです。

ライブ手術ではエキスパートが、
ある程度解説や講演的な要素を踏まえながら手術を行います。

場合によっては多少デモンストレーション的な要素もあります。

そういう意味で、
完全に手術そのものに集中できるかというと、
やや気を削がれる環境と言えるでしょう。

もちろん、
そういった環境でも落ち着いて、十分にやるべき手技をこなせるエキスパートだけが、
こういったライブ手術を行うのですが、

それでもエキスパートにとっても100%の力を発揮しやすい状況ではありません。

そういうわけで、
実際にライブ手術では、トラブルが起こることも決して少なくはありません。

その点、
患者さん側からしたら、やや、いいことばかりではないかもしれません。

そういうとライブ手術はなるべく避けたいと思う患者さんが多いとは思いますが、
逆に患者サイドから見てもライブ手術のメリットがないわけではありません。

セミナーなどで行われるライブ手術では、
術者以外にも解説やコメンテーターとしてのエキスパートが参加しておりますので、

何か手術で困った局面となったときに、
術者だけではなくて、外野にいるエキスパートのノウハウなども生かされることが少なくないのです。

つまり、術者にとってはやや集中しにくいというデメリットはあるとしても、
外野のエキスパートの力を借りられるというメリットはあるかもしれません。

患者サイドからしてもそういった意味で、
ライブ手術は功罪があると言えます

患者側からしても悪い面だけとは言えません。

まあ、外科医サイドから言われてもらえば、
やはりこれほど勉強になる機会はないのですけどね。

一方で、
一般人向けのテレビ局の取材の手術などは、

僕ら外科医は特に勉強にはなりませんし、技術の伝承にもなりません。
他に参加している外野のエキスパートもいません。

メリットがあるのは特集されて宣伝効果を得られる外科医本人と、
あとは視聴率を稼げるテレビ局だけでしょうね。

患者さんには特にメリットはないでしょう。

名声を高めたい外科医と、
番組を作りたいテレビ局のためのものだろうなと思います。

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