ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


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今回は頭部CTを撮る上でのデメリットについて書きます。


CTを撮る上で、

患者にとっての最大のデメリットはなんといっても被ばくの問題です。


CTとはレントゲンと同じでX線を使用して体の断層画像を撮影する装置ですが、

その放射線量はレントゲンとは比較になりません。


比較にならないほど多いのです。


実際に頭部CTを1回撮ったからってそれで何か問題が起こるとはまず考えられません。


しかし、

以前のブログにも書いた通り、頭部CTの1回の被ばく量は諸説あるものの、

吸収線量にして被ばく量は50mSV前後とも言われています。


原発事故の際に1時間あたり1マイクロシーベルトの被ばく量というような単位で問題になっていたのを覚えていますか?

mSVはミリシーベルトなので、マイクロの1000倍、つまり1mSVは1000マイクロシーベルトということになります。そのさらに50倍の50mSvがかなり多い被ばく量だということが分かるとは思います。


実際に頭部のCTの場合ではまずはじめに問題となるのは白内障です。


この白内障、つまり水晶体混濁のリスクとなる閾値が500mSvと言われていますので、


つまりは10回も頭部CTを撮れば、

十分に白内障のリスクにされされるという様に理解してよいでしょう。


50mSvどころではなく水晶体には頭部CTで90mSvほどあたるというような報告もありますので、

そう考えると、5-6回も頭部CTを撮影すれば白内障のリスクとなります。


さらに、

放射線の影響というのは大人よりも細胞分裂の盛んな小児で強いことを忘れてはいけません。


ちなみに、この50mSVという値は通常の条件の頭部CTでの値ですので、

もしさらに細かいスライスで撮影するCTの場合(CTアンギオや詳細な骨条件など)ではさらに被ばく量は増えます。


また、よく勘違いした記載がネット上では見受けられますが、


ここまで書いてきた頭部CTでの脳や水晶体への線量というのは、

脳などの体の一部分の吸収線量についての数値です。


頭部CTですから、ちょうど撮影範囲にあたる脳や水晶体にはこのくらいの線量が集中してあたっていますよ、という値です。


よく言う"実効線量"という単位は、この組織ごとの吸収線量とはまた異なり、

全身の被ばく量の単位ですので、別に考える必要があります。


頭部CTの場合はこの全身被ばく量を示す"実効線量"はそれほど高くありません。


2-3mSVという報告から1mSV程度という報告があります。


原発事故の際の避難の基準として国の定めた年間被ばくの実効線量が20mSVですので、

10回ほど頭部CTを撮れば、それをオーバーすることになりますね。


ただ、この20mSVというのは厳しめの基準です。

医療従事者など、日常から放射線被ばくのある放射線診療従事者の年間の許容量は50mSvとなっています。


ただ、この全身被ばく量の目安となる実効線量ですが、腹部CTについては実行線量はかなり多いので注意が必要です。

腹部CTでは1回の検査で実効線量において15mSv程度という報告があります。


2回も撮ればさきほどの20msVはオーバーしてしまいますね。


さて、

少し話が長くなってしまいましが、頭部CTでは脳や水晶体への吸収線量が50mSVほどもあるので、

これはやはりそれなりに多い被ばくと言えるでしょう。


白内障という最も現実的なリスクがある他、

さらに被ばく量が増えれば脳腫瘍などの腫瘍性病変の発生頻度にも関係してきます。


被ばく量はもちろん少なければ少ない方がよいに決まっていますから、

頭部CTを軽い頭部打撲でも無差別に行ってしまうことにはやはり少なからず問題があるのです。


細胞分裂の盛んな小児であれば、尚更です。


さて、

ここまで被ばくの話ばかりしてきましたが、

もう一つの理由が、医療経済的な理由です。


年々医療費が高騰していることが問題になっていますが、

1回CTを撮るコストは撮影と読影量を合わせて1万円を超えます。


保険診療ですので、実際に病院が請求する金額のうち、患者本人の負担はその3割程度で済みますが、


それでももし夜間となれば日中よりも高額になりますから、

患者の負担も5000円近くなるはずです。


軽い頭部打撲でCTを乱発するほどの経済的な余裕が、すでに医療費が財政を圧迫しつつあるこの国に今後もあるとは思えません。


やはり、

「2歳以下だから頭部CT!」というのではなく、ほんとうにCTが必要なのかどうか、

そして、その必要性は被ばくの影響を上回るのかどうかを考え、両親と相談した上で決めるべきであると、


僕は思います。


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前回記事の続きですが、


医師が小児の頭部打撲で必ずといってもCTを撮るのには理由があります。


2002年に発表されたヨーロッパ脳神経外科学会での軽傷頭部打撲のガイドラインというものがありまして、


基本は意識状態や、頭部打撲後の健忘、意識消失の有無で重症度をランク付けしていくのですが、


それらとは別に頭部打撲のリスクファクターが記されています。


そして、

そのリスクファクターの一つに、2歳以下、60歳以上という項目があるのです。


そして、このリスクファクターが一つでもあると、たとえ意識の状態がクリアーでも、

"CT mandatory"とされています。


mandatoryとはすなわち、直訳すると、"義務"や"強制"という意味ですので、

かなり強い言葉でCTを撮ることを勧めていると言えます。


こうまで書かれてしまうと、なかなかそれに抗ってCTを撮らない、という判断を行うのは勇気がいります。


これが、脳外科医が2歳以下の子供の頭部打撲で無条件に撮影しようとする最も大きな理由ですね。


ガイドラインというのはそれ以前に発表された論文を根拠に作られるのですが、

この2歳以下をリスクとしている根拠の論文は1987年のNEJMという一流誌の論文になっています。


しかし、実際に1987年のこの論文を読んでみても、2歳以下ということの根拠というか、説明はありませんでした。


よって、2歳以下が危険とする具体的なデータを僕は知りません。


確かに乳児は頭をぶつけやすいですし、大人に比べて神経所見もわかりにくい、そして頭蓋骨もやわらかく陥没などを起こしやすいです。


大人よりリスクが高いのは確かと言えるでしょう。


しかし、頭部打撲は結局はケースバイケースです。


ぶつけた時の衝撃や、ぶつけた物によって大きく変わってきます。


それを”何かにぶつけて病院に来院した”というだけで、全例にCTを撮影するようにこのガイドラインを解釈してしまうのはいかがなものかと思います。


とはいえ、このガイドラインが最も大きな理由となっていることは1つの事実です。


そして、この1つ目の理由があるからこその、2つ目の理由が、

”医師の保身”です。


上記したようなガイドラインがあるのにもかかわらず、CTを撮らずに子供を家に帰してもしも万が一何かあった場合、


ということをどうしても我々は考えてしまいます。


医師に対する風当たりも厳しい現代ですから、"訴訟"の二文字が脳裏をよぎるのです。


念のために、というのはつまり、"CTを撮って何も所見がなかった"という免罪符を確認したいからでもあるのです。


そして、畳み掛けるようにもう1つ、3つ目の理由があります。


それは、

そもそもCTなどの検査で何もないことを確認することを希望する親が圧倒的に多いことです。


明らかに、”これはまあ、CTなんていらないだろうなぁ”と思うような軽微と思われる頭部打撲でも、

子供を病院にまで連れてきた親は検査を希望します。


医師の言葉だけではやはり不安で、

”なんらかの目に見える形の結果”がないと安心できないのです。


上に書いた最初の2つの理由に加えて、さらに親にまで検査を希望されると、

通常の脳外科医はそれを断ろうという気はやはり失せます。


我々にとっても、不安で仕方がなく、強くCTを希望する親を説得するよりも、

もうCTを撮ってしまった方が楽だからです。


ただ、このような形でCTを乱発するのにはもちろんデメリットもあります。


そのデメリットについて、次回に続きます。



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今回は子供の頭部打撲について書きます。


ちょうど歩き始めた頃の子供は、まだ運動機能や注意機能が発達していないので、

よく転びます。


また、歩き始める前の時点でも子供は椅子から転がり落ちたり、または親の不注意で落下してしまったりします。


その際に多くの場合は頭もぶつけてしまうのが問題です。


子供が頭をぶつけたら心配に思うのは親であれば当然のことです。


残念なことに、通常、小児科は頭部打撲は診てくれないので、

そうすると親御さんたちは頭をぶつけたかわいそうな子供を脳神経外科に連れてきます。


小児科にいったとしても、

「脳外科でみてもらってくださいねー」と言われてしまうのだそうです。


まあ、これは、頭をぶつけた子供が鼻かぜをひいていたとしても、

僕らだって「風邪は小児科でお願いします」と言ってしまうものですから、

正に、どっちもどっちですね。


そうして訪れる小児の頭部打撲を僕ら脳外科医は毎日のように診るわけですが、

いつも考えさせられるのは頭部CTについてです。


実際、たとえ頭をぶつけても、その後の子供の状態が特に問題のない場合、

CTを撮って異常が見つかることはほとんどありません。


稀にひどい頭部打撲をした際に骨折が見つかることくらいはあるのですが、

脳のまわりに出血を起こしていたり、脳がひどく腫れたりしていることはまずないのです。


小児の頭部打撲では重症例がほとんどない、ということではなく、


重症の場合、やっぱり一目見て何かおかしいことが分かるのです。


ただし、新生児や乳児の場合はもともとしゃべることが出来ないので、

成人のように簡単に意識状態を確認する訳にはいきません。


たとえば、ぐったりしているとか、元気がないとか、

普段との違いで判断します。


その第一印象で、「これは何かおかしい」と思うようなことがあれば、

それは重症の可能性があると思いますし、CTを撮影することに何の躊躇もありません。


しかし、

「元気だし特に悪そうにないな」と感じることが実際はほとんどです。


そして、繰り返しになりますが、

そういった場合に頭部CTを撮っても、ほとんどのケースでは何の異常もありません。


大きく予想を裏切って、予想外の重症なCT像だった、というようなことは、

少なくとも私自身のこの10年の経験では1例も記憶にないくらいです。


だからこそ、

常に「ほんとうにこの子の頭部打撲でCTが必要なんだろうか??」と疑問に思ってしまうのです。


じゃあ、そんなこと言うなら、CTなんか撮らなきゃいいじゃないか!


と、ここまで読んで思う方もいらっしゃるかもしれません。


しかし、

脳外科医が結局はCTを撮影する方向に流れてしまう理由はいくつもあります。


それについて次回に続きます。




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