ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

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大分期間がまたあいてしまいました。

今回は、


顔面神経機能、聴力の温存について書いていきたいと思います。


これらの神経の機能を守ることが、

この手術では最も重要な点であるということについてはこれまでも書いてきました。


いかにこれらの神経機能を守りつつ、

腫瘍を取り去るか。


それこそが聴神経腫瘍の手術の骨子です。


では、これらの神経の温存率がどのくらいか?


ということですが、


よく学会での報告などでは、ぱっとみると、

顔面神経機能温存97%、聴力温存60-70% なんていう数字を聞くことが多いです。


しかし、

これらの数字をうのみにしてはいけません。


それもそのはず、

これらの神経の温存率は腫瘍の大きさによって異なるからです。


まず、

死守しなければいけないのは顔面神経です。


これを傷つけると、何度も書いてきましたが、顔が左右非対称になってしまい、

なおかつ、目を閉じることもできなくなってしまいます。


ですから、

顔面神経はあらゆる手をつかって温存しなければなりません。


腫瘍を全部取りきるということよりも、

顔面神経機能を温存することの方が優先されます。


きっとどんな脳外科医もその選択をするはずです。


顔面神経機能の温存のために活躍するのが、

神経機能モニタリングです。


これについてはまた、詳しく書くと長くなるため、今回は割愛しますが、

電気刺激と顔面筋の筋電図を用いて、手術中に顔面神経機能やダメージを確認する目的で行われます。


これを見ながら、出来るだけ腫瘍を摘出するわけですね。


当然ですが、これらのモニタリングができない施設で、

この手術を受けるべきではありません。


小さい腫瘍。

まあ、おおまかに言って2センチ以下程度の腫瘍であれば、


モニタリングの準備が整っていて、術者が十分に注意して手術を行えば、

まず顔面神経は温存できると思われます。


これは本当に、冒頭に書いた97%ではないですが、

90%台後半以上の可能性で大丈夫だろうと思うのです。


しかしながら、

腫瘍が大きくなってくるとなかなかそうもいかない場合があります。


顔面神経と腫瘍の位置関係のある程度の推測はたちますから、

腫瘍が大きくても、多くの場合は大丈夫なのですが、


ときに神経の位置を見誤ることもなくはありません。


そういったリスクは腫瘍が大きくなればなるほど、大きくなります。


ですから、

たとえば3センチ以上の大きな腫瘍でも、ほとんどのケースで顔面神経が大丈夫かと言えるかというと、

そうではありません。



僕の印象では、この腫瘍をライフワークとしているような十分に経験を積んでいる医師が執刀したとしても、


大きな腫瘍の場合では、

1/3から1/2くらいの患者さんに術後一過性の顔面神経麻痺が出現し、


1/10くらいの方では後遺症として程度の違いはありますが、多少の麻痺が残ってしまう、というような印象です。


腫瘍が大きい場合には、とてもほぼ全員の人が大丈夫!

と言い切れるものではありません。


時間がたって、ほとんど気にならないくらいに回復すれば問題ありませんが、


逆に、術直後はよかったのに翌日、翌々日から麻痺が悪化したり、


手術中いつの間にか神経が切れて完全麻痺になってしまうようなこと見ていますから、


やはり顔面神経機能温存もそう簡単ではないのです。


どんな脳外科医も、発表などで対外的に見せているデータの内容よりも、

実際はもうちょっと成績が悪いことが多いものですから、


この手術を受ける患者さんはやはり、

顔面神経の麻痺がおこるリスクもあるということを考えなければいけません。



さて、

次に聴神経機能ですが、


これについては温存が可能なのは小さい腫瘍の場合のみと考えて、ほぼ間違いありません。


3cmを超えるような腫瘍の場合、

術前からある程度聴力が損なわれていることが多い上に、


手術によってそれが維持、もしくは回復することは非常に稀だからです。


2cm以下の小さな腫瘍の場合だって、

やはり、聴力が維持されるかは五分五分。


術前よりよくなることは、

やはり稀で、よくなったらラッキー、というような程度です。


聴力をつかさどる蝸牛神経は腫瘍と近いために、

その温存は顔面神経よりももっと難しいんですね。


だから、

手術を受ける以上は、手術側の聴力が悪くなることは覚悟しなければいけません。


術後に耳鳴りが起きる、というような人もいます。


聴力温存はやっぱり今の時代でも難しく、

そして聴力回復はさらに厳しい、というのが実際なのです。


手術をすれば聴力が戻るかも!

というような期待をして手術を受けることは間違っていると言えるでしょう。


ここまで手術治療について書いてきました。


次回はもう一つの治療法、

ガンマナイフによる聴神経腫瘍治療について書いてみます。



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今回は聴神経腫瘍の手術について書こうと思います。


ただ、まあ、この手の内容の記事はインターネット上にあふれていますね。


脳外科医個人のホームページや、

大学、病院のホームページなどで治療法についても細かく書かれております。


ですので、

ここでは、そういったホームページにも書かれていないようなことを、

ざっくばらんと、ぶっちゃけてしまおうと思っています。


さて、

この手術について、患者さんやご家族が最も気になることは、


①手術による命の危険

②顔面神経損傷の危険

③聴力喪失の危険


の3つだと思います


今回はこれらをクローズアップして、書いていきましょう。


まず手術による命の危険ですが、

これについてはこの前の記事でも書いたのですが、


本当に寝たきりや命を失うような不慮の事態となってしまうのは、

おおよそ1%程度です。


つまり100人に1人は同じ手術を受ける中で、

非常に重篤な事態となってしまうということです。


しかし、

実際にはその裏に、

あと少しで同じく命の危険のレベルにまでなりかねなかった例というのが、


その数倍はあります。


たとえば聴神経腫瘍の手術で、そういったリスクの原因となりやすいのは、


1.Petrosal veinという静脈の損傷、

2.小脳の浮腫、

3、喉頭浮腫などの気道トラブル


の3つです。


なんじゃそりゃ?と思うかもしれませんが、

どれも、この手術にはつきものののリスクで、それらの程度がひどいと、

重篤な事態になりえます。


1については腫瘍にアプローチする際に腫瘍のすぐ傍にある重要な静脈です。

この静脈を損傷すると、小脳が腫れたり、出血を起こしてしまうことがあります。

そうすると脳幹が圧迫されて、大変危険なのですね。


また、2については術中に小脳を圧迫することがこの手術では必須なのですが、

それらの直接的な影響や、もしくは1のように静脈が損傷することで、

小脳が腫れることがあります。そうすると、上に書いたようにやはり脳幹が圧迫されるというわけです。



1.2.に関しては手術の際に十分に注意することで、

そのリスクを減らすことができます。


しかし、完全にそのリスクをゼロにするのは、

どんなに経験豊富な医師でも難しいだろうと思います。


そして3については、これは脳外科医がいかに注意しても、防げるものではありません。


これは全身麻酔には必須の気管挿管のチューブが原因で喉頭が圧迫され、

術後に腫れてしまうという状況です。


そうすると空気の通り道がふさがってしまうため、窒息してしまうのです。

この状況となってしまった場合には通常、気管切開を行うしかありません。


これも命にかかわる事態であることは言うまでもないでしょう。


これらのリスクは、

聴神経腫瘍に対して一般的に行われている「後頭下開頭アプローチ」では必ず注意しなければならないものであると言えるでしょう。


ただ、

これらは起きてしまってはいけないリスクですから、

こういう怖いことが起こると思って手術を受ける人はそもそもいないわけです。


飛行機が落ちると知っていて乗る人がいないのと同じですよね。


まさか、はありうるのですが、

誰もそれが起こるとは思っていない、


ということです。


そこで、

次回は、もっとも議論となるところである、

顔面神経損傷や聴力喪失について書いていきます。





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さて、今回から聴神経腫瘍のお話をします。


とはいえ、

あまり一般的な病気ではないものですから、


聞きなれない人の方が多いかもしれません。


たまに、よくあるスーパードクター特集などのテレビの特番で、

某スーパードクターたちが手術治療を行っている病気です。


番組曰く、

超難関手術!というような描かれかたをすることが多いこの腫瘍の手術なのですが、


実際にはどんな手術なのでしょうか?そういったことについて今回は書いていきたいと思っています。


超難関!と言っているのに矛盾するようなことを言うのですが、

実はこの聴神経腫瘍、ただ取るだけでよいのならば、他の脳腫瘍よりも全然簡単です。


それもそのはず、

この腫瘍は病理的には神経鞘腫と呼ばれる腫瘍が、聴神経にできたものです。


この神経鞘腫、他の体の末梢神経にできることもあるのですが、

その場合、いとも簡単にころっと取れておしまいなのです。


腫瘍は神経の鞘を形成しているシュワン細胞から発生すると考えられているのですが、

体の神経鞘腫の場合は腫瘍の前後で神経をさくっと切ってしまって、


ころっと取れておしまいなのです。


脳の聴神経腫瘍だって、

腫瘍を取ることだけが目的であれば、


実はこれと似たような感じであっというまに摘出できてしまいます。


しかし、そうは出来ないから、

この手術は難しいと言われています。


それは何故かと言いますと、


このように神経ごと切るような形でとってしまうと、

当然ですが神経も犠牲となってしまうからです。


体の末梢神経の場合には、これでもほとんど何の症状も出ない部位のことが多いのですが、

同じことを聴神経腫瘍でやってしまうと大変です。


それはつまり、顔面神経と聴神経の切断を伴うからです。


顔面神経が切れてしまうと、

当然ですが、顔の半分が動かせなくなります。


目すら閉じられなくなってしまいます。


また、聴神経といっても実は1本の神経なのではありません。


実はおおまかに3本の神経に分かれています。


そのひとつが聴力を伝道する蝸牛神経で、残りの2つはバランスなど平衡感覚に関連する前庭神経です。


この3本にさらに顔面神経が加わって、4つの神経が束になって走行しているのです。


ここに腫瘍ができるのが聴神経腫瘍という病気です。


ほとんどの場合、腫瘍は前庭神経から発生します。


前庭神経から発生した腫瘍の場合、その時点で腫瘍の母地となった前庭神経の機能はなくなっていることが多いので、


その発生母地の神経が切断されることには問題はないのですが、

腫瘍摘出の際に顔面神経や蝸牛神経を傷つければ、


当然、顔面麻痺や聴力低下を起こすことになります。


聴力に関しては腫瘍ができている時点ですでに低下していることも多いですし、

実際になかなか温存することは難しいです。


もちろん、聴力も温存されるにこしたことはないのですが、


変な話、

片側の耳が聞こえなくなっても、日常生活にとって致命的というほどではありません。


聴神経腫瘍の治療を行う場合には、聴力を温存するのは難しい、

というのがいまだに一般的な認識だろうとは思います。


聴力を残す、改善する、

というのはいまだにチャレンジングなことなのです。


しかし、

顔面神経は違います。


顔面神経を損傷すると、表情自体が非対称になってしまい、

人前に出にくくなったり、とても手術前と同じような生活が行えるものではありません。


つまり、

患者さんの生活が大きく変わってしまい、QOLが下がってしまうのです。


だからこそ、

顔面神経に関しては絶対に温存しなければなりません。


聴神経腫瘍の手術において、顔面神経の温存は絶対なのです。


これが、この手術の難しいところです。


顔面神経を温存するためには、さきほど書いたように、

単純に腫瘍の前後で神経を切ってしまって、取り出すということはできません。


神経を温存しつつ腫瘍を取らなければいけないのです。


どのようにして、

神経を温存しつつ腫瘍を取るのか?


それについては次回に続きます。


さて、ここまでざーっと書いてきましたが、

この聴神経腫瘍、どのような症状で発症するのかということについて最後に書きます。


一番多いのは、難聴です。


これは腫瘍によって蝸牛神経の伝達が阻害されるために起こると考えられています。

突如として聴力が落ちるようなことも中にはあります。


また、他にも、同様に蝸牛神経への影響で、耳鳴りが起こることもあります。


めまいについては前庭神経の障害で起こると考えられますし、

他には顔面神経への影響から、聴覚過敏が起こることもあります。


腫瘍が大きくなってくれば、三叉神経に影響して、顔面のしびれ感覚が出ることもあります。

同じく腫瘍が大きく下位脳神経に影響すれば、飲み込みなどを妨げてしまうこともあります。


そして、腫瘍がよっぽど大きいと、脳幹を圧迫し、

たとえば脱力などさまざまな異常をきたすことがあります。


ただ、たいていの場合はこうなる前に聴力低下などで、

腫瘍が発見されるのです。


CTやMRIの検査で見つかるんですね。


耳鳴りや難聴がある人は、万が一ということもありますから、

こういった検査を一度は受けてみたほうがいいでしょう。


さて、かなり長くなってしまいました。

また次回に続きます。


次回はこの聴神経腫瘍の治療について書いていきます。


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