ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


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また更新が随分と遅れてしまいました。

夏過ぎからは大分落ち着くと思うのですが、ここのところ、なかなか大変な日々が続いています。。。


さて、

何回か書いてきたボツリヌス毒素の治療について続けたいと思います。


前回、といってももう1か月以上前になってしまいますが、

顔面痙攣に対するボツリヌス毒素を使った治療について書きました。


今回は痙縮について書きます。


そもそも、

痙縮ってなに?


と思う読者の方もいると思います。


痙縮の定義などなどはなかなか難しく、

また、その痙縮が起こるメカニズムについても完全に明らかにされているわけではないので、


ここではあえて細かい説明は省きます。


たとえば、一応定義を書いてみると、


痙縮とは、


「腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性増加を特徴とする運動障害で、伸張反射の亢進の結果生じる上位運動ニューロン症候群の一徴候」


とされているのですが、

これでは恐らく、普通意味が分からないですよね。


そこで簡単に書くと、


痙縮とは、

脳卒中や脊髄の障害の後に起こってくる病態です。


具体的にどういった障害が起きるかというと、

だんだんと四肢の筋肉の緊張が亢進していき、


手足がガチガチに固まってしまうような姿勢異常が起きることです。


手の指は握ったまま、手首は曲がり、肘も曲がり、脇が閉まったまま、

固まってしまいます。


足はというと、内股に内旋して、つま先は伸びたまま固まります。


きっとgoogleで痙縮と調べると、このような画像がすぐに出てくると思いますが、


筋緊張が逆に亢進することで、手足が固まってしまう状態と理解してください。


そうすると痛みを伴う上、

満足に関節を伸ばすことが出来なくなりますから、


着替えが出来なくなる、体が洗えなくなる、


と患者さんの生活に大きな影響を及ぼします。


さらには長期間そのような状態が続くとついには関節自体が固まる拘縮をきたしてしまい、

そうするともう関節を動かすことが出来なくなってしまうのです。


上位ニューロンからの抑制が途絶えてしまうことが原因と考えられているようですが、

まだまだメカニズムは不明のところが多いようです。


しかし、現実として、

たとえば脳梗塞や脳出血後の患者さんにはこの痙縮で苦しんでいる方が多く存在します。


そしてその多くが満足に治療を受けていないのが現状だと思います。


治療法は大きく分けて3つあります。


一つは筋肉を弛緩させるような薬の内服

そして二つ目として今回の痙縮の起きている筋肉へのボツリヌス毒素の注射があります。


実は三つ目としてバクロフェン髄注療法というのがあるのですが、

これについてはまた別の機会に紹介します。


さて、

痙縮のボツリヌス治療では緊張してしまった筋肉にボツリヌス毒素を打つことで、

その緊張を和らげて、関節が動くようにしてあげるのですが、


効果は驚くほどに現れます。


たとえばそれまで全く上肢が固まってしまって動かすことが出来なかった人が、

簡単に着替えられるようになったり、


握られたままで開かなかった手のひらが開くようになって、

手のひらを洗うことが出来るようになります。


また、

足の場合は、それまでおむつを替えるのも困難だった状況から、足を他動的に動かしておむつ替えがスムーズにできるようになります。


このように効果は確かなのですが、

問題は治療費用が高いということです。


これは顔面痙攣のところでも書きましたが、

ボトックスは100単位で薬の値段が9万円します。


上肢には最大で240単位使ってよいことになっておりますが、

これをフルに使うと薬代だけで23万程になってしまうのです。


薬代が3割負担としても、

もしフルに使うと7万円かかるということですね。


100単位だけの治療としても3万円くらいです。


3か月に一度の治療としても、こんな金額払えないという人も多いでしょう。


早く薬代が安くなるのを祈るしかありません。



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前回の更新からかなり日が空いてしまいました。

ここの所少し忙しく、夏場を過ぎればだいぶ余裕ができると思うのですが、

申し訳ありません。


それでは、

さっそく前回の続き、


ボツリヌス毒素を使って治療が出来る病気について書こうと思います。


ボトックスという名称の治療薬として知られるこの毒素が、

神経と筋肉の接合部に作用し、筋肉を麻痺させることは前回書いた通りです。


そして、

美容の世界ではこれが顔面の筋肉を弛緩させることを利用して、

シワ取りに使われています。


これら美容でのボトックスの使用は保険診療ではなく、

クリニックによって値段の異なる、自由診療です。


そもそもボトックスの薬剤自体が高価なこともあって、

一般的にシワ取りの金額はそれなりに高額です。


一方で、ボトックスはシワ取りの為だけにあるのではありません。


ちゃんと保険診療として病気の治療に使うことも認可されております。


それのほとんどがボトックスの筋弛緩作用を利用した治療です。


一つは、


眼瞼痙攣、片側顔面痙攣という病気です。


眼瞼痙攣は両側のまぶたの筋肉が痙攣してしまい、目を開けにくくなってしまう病気です。


これは実はジストニアと呼ばれる脳の機能の病気が原因で、

瞼の筋肉そのものに問題があるわけではないのですが、


患者さんは目を開けにくくなってしまうので、日常生活を送るのも大変になってしまいます。


そこで、ボトックスをこのまぶた周囲の筋肉に打ってやれば、

目が開きやすくなるということです。


一方で片側顔面痙攣という病気は、眼瞼痙攣とはまた異なるものです。

これは、脳の血管が顔面の動きをつかさどる顔面神経を圧迫して刺激することによって起こります。


患者さんは典型的には片側の目と口の周りが痙攣してしまうので、

外見上大きな問題になってしまいます。


人と会うことが出来なくなる方が多いほどです。


手術によって血管の位置を動かせば根本的に治すことができますが、

やはり脳の手術を受けるのは怖いということで、


代わりにボトックスによる治療を受けることもできるのです。


これも痙攣する顔面の筋肉を弛緩させることで、

痙攣を止める治療になります。


これら2つの病気はいずれも、ボトックスによって顔面の筋肉を麻痺させることで、

痙攣を止める治療なのです。


本来筋肉を麻痺させる毒素がこういった病気の治療に役立つというのは、

結構意外ではないでしょうか?


ただし、

このボトックスにも問題があります。


それは2,3か月程度で効果が切れることです。


3割負担の保険診療でも、一回の治療で患者さんは1万5千円前後の費用がかかってしますので、

ずっと継続するのはそれなりの経済的な負担になります。


あとはこれはあってはならない当然のことですが、

間違った筋肉に注射してしまったりするとその筋肉が麻痺してしまうので、

そういった副作用が起こりうる可能性があります。


また、使いすぎると毒素に対する抗体が出来てしまって、

効かなくなるということもあります。


さて、

眼瞼痙攣と顔面痙攣の2つを紹介しましたが、


まだ他にも筋肉を弛緩させることが治療の一環となる病気はあります。


特に、脳卒中後の麻痺の後などに大きな問題となるものに、

痙縮という病気があります。


これは不幸にも脳卒中などの中枢神経の病気で麻痺を患ってしまった患者さんの生活をさらに妨げる病気なのです。


そしてその痙縮の治療にもボトックスを使うことが出来ます。


この痙縮については次回に続きます。


次こそはそんなに日があかないように更新したいと思います。



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今回はボツリヌス毒素を使用した治療法について書きます。

みなさん、ボトックスという名前は聞いたことはあるでしょうか?


おそらく、

ボトックスと聞いて一般的に一番知られているのは、

美容の世界の”シワ取り”ではないでしょうか?


ハリウッドセレブが使い始めた? なんて話もありますが、

美容のために額や眉間、目尻のシワ取りのためにこのボトックス注射を受けている女性は増えていると思います。


このボトックスの成分が何か、についても、

知っている方は多いかもしれません。


この成分はそもそも、Clostridium botulinumという菌が作る毒素なのです。


ボツリヌス菌中毒、

と調べればすぐにインターネットでも出てくると思いますが、

適切な治療が行われなければ高い致死率を持つ食中毒として古くから知られています。


1950年から2000年頃までは約2割から3割の死亡率だったようです。

最終的には呼吸困難をきたし、死に至ります。


この毒素はどこに作用するかというと、

神経の伝達を妨げることで作用します。


いわば、神経毒なんですね。


神経はその終点でアセチルコリンという物質を分泌して、

その先にある神経や筋肉、その他の様々な器官に興奮を伝達しますが、


そのアセチルコリンの分泌を抑制するのがこのボツリヌス毒素なのです。


ボツリヌス毒素にはAからFまで様々な型がありますが、

そのうちのA型毒素をむしろ治療薬として製剤化したのがボトックスです。


ちなみに、

ボトックスという名前はグラクソスミスクラインという会社の商品名です。

本当はボトックスの後ろにRをつけなきゃいけません。


これを筋肉に注射することによって、

神経から筋肉への興奮の伝達を妨げ、筋肉の緊張をとるというのが


治療薬としてのボトックスの効果になります。


神経からの伝達を妨げる毒としての効果を逆に、

治療薬として使おうというのです。


つまり、

シワが取れるのもボツリヌス毒素が顔面の様々な表情筋を麻痺させるからなのです。


筋肉が収縮しなくなるから、皮膚がよらず、シワが出来にくくなるということです。


目立つシワを作る筋肉にこの毒素を打てば、

シワが取れるのはそういった訳です。


さて、

ここまでシワ取りの話ばかりしてきましたが、今回は何も美容のことが書きたくて、

この記事を書いてるわけではありません。


僕は脳神経外科の医者で、美容が専門ではありませんし、

そもそもシワ取りでのボトックスというのは保険適応を得ている治療法ではないのです。


つまり、

ボトックスが国から保険適応を得ている病気は別にあります。


いずれも多くは筋肉の過剰な緊張や痙攣が問題となる病気で、

これが脳卒中などの脳外科の範囲とも重なってくるのです。


それらの病気については次回に続こうと思います。


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