手術するべきか?ほっておくべきか? 未破裂脳動脈瘤について③ 再編版 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

さて、


また動脈瘤の話に戻ろうと思います。




前回は確か、動脈瘤の破裂する確率だとかを書いて、


そのまま治療の話にちょっと入ったような気がします。




日本人の動脈瘤の年間破裂率は平均的には


年2%くらいと書きました。




もちろん、大きくなればなるほど確率は上がってしまいます。


大きくなると年10%以上まで上がります。




詳しくは前回記事をどうぞ↓


「どれくらい破裂するの? 未破裂脳動脈瘤について②」


http://ameblo.jp/nsdr-rookie/theme-10025237119.html





なので、


大きい場合や、


動脈瘤によって周囲を圧排し症状がでている場合には、


なるべく早期の治療が必要かと思います。




しかし、だいたいの動脈瘤は


大きさも1cm未満程度でも完全に無症状、ということが多いです。




こういう場合に治療した方がよいかどうかをどう決めているのでしょうか?




その話をしたいと思います。




考え方としては、




単純には、手術のリスクと放っておいた際の破裂のリスクを比較することになります。




たとえば、ほおっておいても寿命を迎えるまでに破裂するであろうリスクが、


手術のリスクを下回るならば、ほおっておけばいいのです




ひとつの1995年に発表されたデータによると




破裂率を年1%として考えると、


だいたい治療による死亡率を1%、重篤な合併症を4%とした場合、





13年以上余命があるならば手術をした方がいいようです。





そうすると、平均寿命を考えると、


だいたい70歳以下であれば治療によるメリットがあり、


もちろん若ければ若いほど余命が長いわけで、メリットが勝ります。




たとえば破裂率が日本人の平均のように年2%だとすると、


もしかするともう少し高齢でもメリットがあるでしょう。


特に日本人女性は長生きですからね。




しかし、たとえば、計算上


合併症率が10%を超えるような場合になると、


あまり治療のメリットは数学的にはないようです。




さて、


これらのデータを統合して、


日本の未破裂脳動脈瘤のガイドラインはどうなっているのでしょうか?




2008年に改定されたガイドラインでは、


余命が10年から15年以上の患者さんで、以下の動脈瘤に治療適応となっています。


①5mm以上


②形態的に破裂をおこしやすい形、つまりはでこぼこしている


③破裂しやすい場所(前交通動脈、内頚-後交通動脈、後循環系)にある




という感じです。




だいたい、実際の診療でもこのガイドラインをもとにお話をします。


①と③は誰がどうみても、絶対的ですが、②に関しては人によって意見が分かれるものも多いです。




ただですね、


これらの治療のガイドラインは全て、リスクとベネフィットを比較した結果です。




たとえば、動脈瘤の手術を


合併症率0%、死亡率0%でこなせるというドクターがいれば、




多少小さめでも手術をした方がいいわけです。




なぜなら動脈瘤は小さくても年々大きくなることがあるわけなので、


今は破裂のリスクが低くても、一年たてば変わっているかもしれません。




しかし、逆に合併症率30%なんていうドクターに手術をしてもらうと、


はるかにリスクの方が高いわけです。




しかし、


おそらく、


どのドクターも手術前の説明では上に書いたデータのような一般的なリスクとベネフィットの話しかしません




一番重要なのは、


そのドクター本人の手術成績なのだろうと思いますが、


そこを患者さんに話すドクターはよっぽど自身過剰な人以外、


あまりいないでしょう。




また、


動脈瘤にしても一概に大きさや場所でリスクを測ることはできません。


周囲の血管の出方や角度など、見る人によってリスクの見積もり方は変わってきます。




なので、結局は総合的にみたドクターの実力次第で、


全てがかわってくるのです。





内科の病気のように薬で治るわけではないので、


誰が治療しても似たような効果、というわけにはいきません。




つまるところ、ドクター選びが重要となってしまう訳です。





誰だって自分の一生のかかっている手術なわけですから、


当代一の脳外科医にやってほしいと思うわけです。




しかし実際には、


当代一の脳外科医の場合、


予約が2年先まで入っていたりします。




なので、そんなに待つリスクも考えると、


別に当代一でなくてもアクセスのしやすい熟練の脳外科医に、となると思います。




実は日本には、


有名でなくとも、隠れたゴッドハンドもたくさんいます。





あとはどうやってそういった先生と巡り合うか、


ということです。




世界的にみて、


日本人は基本的には手術は丁寧で上手なんだろうとは思います。




もちろん、同じ手術の経験数が何千例を超えるような、


海外のプロフェッショナルには負けるでしょうが、




それほどの経験数ではなくとも、いい手術をしている先生が多いように思います。


手先が器用とか、勤勉性だとか、


そういった国民性なのでしょうか。




さて、実際に治療の話にうつっていきますが、


前回書いたように治療といっても二種類の選択枝があります。




一つは開頭手術によるクリッピング。


二つ目は血管内治療によるコイルです。




ちょっと長くなってきたので、今度はこの二つについて書こうと思います。


今現在もどちらの治療が優れているかのついては、はっきりとはしていません。




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