憲法 「議院の国政調査権の意義と限界」 | やぐち おさむのブログ

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 憲法62条は「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と規定している。この機能は、国政調査権と呼ばれている。その行使は、証人として出頭して証言することを求め、書類の提出を求めることである。その具体的設定は「議院おける証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法)に定められている。調査の主体は、各議院であり、実際には各議院の委員会が重要な役割を担う。調査方法には、主に議院証言法に定められているが、公務員の守秘義務を理由とする証言拒否等を認めるとともに、偽証罪等の告発を義務付けることも重要である。これらの国政調査権は明治憲法にはなかったが、現憲法にはそこに強制権を与えて強化している。

 

 そして、国政調査権の性質は、憲法41条の国権の最高機関性に基づき、国権の統括のため認められた独立の機能であるとする独立権能説と、立法権を中心に議院に付与された権能の行使を補助するために認められたとする補助的権能説がある。しかし両説に結論的には差異はない。日本での通説は、補助的機能権説である。英米独仏の学説、判例でも補助的権能説が認められている。しかし今日では、国政調査権の範囲が立法を中心とする議院本来の権能に限られているが、国民の知る権利に応えるものとしての新独立権能説が広がっている。

 それから、国政調査権は、他の国家機関の作用そのものを行ったり、その権限行使に重大な悪影響を及ぼしたり、国民の基本的人権を不当に侵害したりする事は許されない。前者については司法権の独立との関係が問題となり、浦和充子事件を契機に論議された。それは、刑事事件の判決が軽すぎるということを、参議院の法務委員会が取り上げたところ、最高裁が「司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査の範囲を逸脱する」と抗議したものである。学説はほとんど最高裁を支持している。後者については個人のプライバシーに不当に立ち入ることや、憲法38条の証言強要は許されない。

 

 以上のような背景を踏まえ、国政調査権は以下に述べる4つの関係において、限界が考えられる。

 一つ目は、司法権との関係である。国政調査権は、司法権の独立を侵害することは許されない。刑事手続開始後は国政調査権が制約されることが要請されている。通説はこのような否定説であるが、最近では裁判所で審理中の事件の事実について、議院が裁判所と異なる目的、すなわち立法目的・行政監査の目的などから、裁判と平行して調査可能としている条件付肯定説が社会情勢から有力となりつつある。その具体的事例がロッキード事件である。

 二つ目は、検察との関係である。検察が司法作用と密接な関係を持つために制約が存在し、議院の国政調査権と検察の事件捜査との平行調査が問題となる。学説は、事件係属中の検察活動との平行調査は抑制されなければならない、という制約説が通説である。しかし刑事責任追及という政治責任追及では目的・手段も異なるから検察の事件調査との国政調査権の平行調査を可能な限り認めようとする条件付肯定説が存在する。具体的事例は、二重煙突事件の公訴提起後の調査に関して、捜査報告書等の公表も「直ちに裁判官の予断を抱かせる性質のもの」でないと判断したものがある。日商岩井事件についても、平行調査を原則的に許容した。

 三つ目は、行政権との関係である。国政調査権は公務員の職務上の秘密に関する事項に及ばない。しかし行政権は、国会に従属するのが憲法の基本原則であるから、職務上の秘密の範囲はできる限り限定して考えなければならない。具体的事例は、衆議院決算委員会が造船融資に関わる汚職事件に際し、自民党幹事長の逮捕許諾請求を法務大臣が検察庁法14条の指揮を発動して拒否したことなどにつき、検察総長・東京地検検事正等を喚問して証言を求めたが、多くの論点について証言を拒否された造船汚職事件がある。

 四つ目は、人権との関係である。国政調査権の行使が、個人の人権、プライバシー、そして思想・信条の自由等を侵害できないのは当然である。しかし学説は、国民の知る権利に応えるものとして、公人のプライバシーを理由として証言を拒否できないというのが通説である。議院証言法が改正され、証人等の人権を理由として証言中の撮影が禁止されたが、「個人の人権・プライバシー」と「国政調査権の必要性・国民の知る権利」のどちらを優先すべきか疑問である。


芦部信喜著 『憲法』 岩波書店 1996年

佐藤幸治著 『憲法コンメンタール日本国憲法』 三省堂 1996年

佐藤幸治著 『国家と人間』 放送大学教育振興会 1997年

樋口陽一著 『憲法概論』 放送大学教育振興会 1994年

芦部信喜著 『別冊ジュリストNo131』 憲法判例百選Ⅱ 有斐閣 1994年